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VARの基本は「明らかな誤りを防ぐ」ことのはずだ。赤や青の3Dラインを引かなくては判別できないのだとしたら、そのこと自体、それは「明らかな誤り」ではないことの証明になる。3Dラインを引かなくては判定できないならそれは“誤差範囲”であり、“誤差範囲”内なのであれば、それは同一線上と解釈してオンサイドと考えればいいのではないか?
サッカーというのはかなり“いい加減な”スポーツである。
ピッチ状態が荒れていることもあれば、強風が吹き荒れることもあり、ボールがイレギュラーな動きをすることはいくらでもある。選手が多少のミスキックをしても、パスを受ける選手が一生懸命に走ればパスはつながる。
FKの場面を想像してみよう。FKのボールが置かれた位置は本当に正確に反則が起こった場所だったか? 実際には、反則が起こった位置と、ボールの位置が1メートル以上離れていることはしょっちゅうある。
そして、守備側がボールから10ヤード(9.15メートル)離れた位置に「壁」を作るのだが、その距離はレフェリーが歩幅で距離を測ってスプレーでラインを引く。しかし、歩幅で計測した距離は正確なのだろうか? 実際に壁の位置が10ヤードより近いことも、遠いこともけっこう見かける。少なくともアタッキングサード内でのFKの場面ではアメリカン・フットボールで使うようなチェーンや電子機器を使って、正確に10ヤードを測るべきではないだろうか?
しかし、そういうことをしないで皆がレフェリーの歩幅を信頼している。それは、プレーの中断を嫌うからだ。「プレーを中断させない」という利益を得るために「壁」の位置が不正確であっても目をつむっているのだ。
それがサッカーというスポーツの常識なのだ。
それなのに、オフサイド判定では些細な判定をするために余計なエネルギーを割いているのだ。3Dラインを使ってわれわれがやろうとしているのは、本来必要とされる「有効数字」以上に細かな桁数までを求めるような行為なのではないか?
「木を見て森を見ず」という言葉がある。本来は「森」という全体像を見るべきなのに1本1本の「木」のことしか見えていない状態のことを(批判的に)言い表す言葉だ。現在のサッカーにおけるVARの運用は「木を見て森を見ずに、枝ばかり見ている状態」であるような気がする。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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