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一方では、ヨーロッパ諸国のように毎試合数万人の観客を集め、全国のサッカー・ファンや一般の人たちにも知名度が高い全国区のビッグ・クラブが存在した方が、全体的なサッカー人気は上がるのかもしれないとも思わないではなかったが、やはり、リーグ戦というのは「どこが勝つかわからない」方が面白いはずと思っていた。
ところが、Jリーグでもこの数年は“両横綱”がタイトルを独占している。
言わずと知れた横浜F・マリノスと川崎フロンターレという神奈川県の両チームである。2017年シーズンに川崎が悲願の初優勝を決めてから2連覇を2度経験。その間、2019年、2022年に川崎の優勝を阻んだのが横浜だった。
しかも、内容的にも圧倒的な勝点差、圧倒的な得点数を記録しての優勝が続いており、他のクラブにとっては「3位」あるいは「ACL出場圏」が目標になってしまった。
もちろん、横浜と川崎は“怪しげな”資金を使ってそうした地位を手に入れたわけではない。しっかりと育成に力を入れ、また有望な選手をスカウトしてチームを作り上げてきたのだ。しかも、毎年のように主力選手が海外に流出してしまう中で、その地位を保っているのだから大したものだ(守田英正や田中碧、旗手玲央、三笘薫がチームに残っていたら、川崎がどれだけ強くなっていたか想像してみよう!)。
そして、とうとうJリーグもビッグ・クラブを育てていく路線を採用した。競争を促してトップクラブの充実を図り、リーグ価値と収益力の向上を狙うために、上位クラブへの分配金を増やそうというのである。そうしてトップクラブの実力をさらに上げていくとともに、競争を激化させるのがJリーグの長期戦略なのだ。
「弱肉強食」の競争社会。それが、サッカーという競技の基本的な考え方だ。強いチームは収益が増えて、その資金を使ってますます強くなる。強化やクラブ経営に失敗すれば、下部リーグに降格し、最終的にはクラブが消滅してしまうこともある。
それが、サッカーの世界の考え方なのだ。
各クラブの実力を接近させて「共存共栄」を図ることで、リーグ全体が繁栄するという、アメリカのプロ・スポーツの考え方とは正反対の考え方だ。
30年前にJリーグが発足した当時は、日本で最初のプロ・サッカーリーグが成功するかどうか危ぶまれていた状況だっただけに、「共存共栄」が基本的な考え方で“護送船団方式”で運営されてきたが、それが本格的な競争原理の方向に舵を取ろうというのである。
Jリーグにとって、それが正しい道なのか否か、大いに議論していくべきだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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