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坂井駿也
――2022年シーズンのプレミアリーグはいかがでしたか?
「本当に楽しかったというのが一番大きいですね。その中でも苦しい期間や勝てない期間があって、苦労もしましたけど、それもあった中での楽しさなので、最後はこういう終わり方ができて良かったかなと思います」
――2021年はプレミア初挑戦のシーズンで、坂井選手も全試合に出場していましたが、その経験は今年にどう生きたでしょうか?
「去年のシーズンに比べると、僕らの戦い方も全然違いましたし、今年に関してはボールを持てることがチームの売りだったので、その中で去年全員が身に付けられた『走って戦う』ところもそうですし、それに加えてリアクションの部分も、クオリティもテンポもインテンシティも常に求められてきたので、そういうすべてのものの混ざった今シーズンだったかなと思います」
――坂井選手はプレミアの開幕前にルヴァンカップも経験されていましたが、周囲から見られるハードルが上がっていることは感じましたか?
「トップチームでデビューしたからには、やっぱり周囲から見られる目は変わりますし、そこは多少なりとも意識はありました。ただ、やることは変わらないと常に思っていたので、そこまで意識し過ぎることはなかったです」
――プレミアリーグのシーズン序盤戦で得た手応えはいかがでしたか?
「本当に上手く行っていたのは事実ですし、素晴らしい戦いができていたと思います」
――第2節の静岡学園高校戦は、退場者が出たことで10人になって、結果的には負けましたけど、相手の監督も「鳥栖は本当に強い」とおっしゃっていました。あの試合はどういう試合でしたか?
「前半は全然ウチがボールを持てなくて、静学さんがボールを保持していた中で、後半の立ち上がりに10人になってしまったことは痛かったですけど、あれから自分たちの良さが出てきたんですよね。空いているところでボールを受けたり、ボールを運びながらゴール前まで行って、フィニッシュで終わるというところもできましたし、あの試合で『10人でも戦えるぞ』というところを見せられたのは、一番大きかったかなと思いますね。本来とは別のところでも強さは見せられたかなと」
――静岡学園に負けてから5連勝していますし、その後もセレッソ大阪U-18に負けてから4連勝していて、負けを次に向かうパワーにしている印象がありました。
「負けた次の週の練習というのは、田中(智宗)監督も含めて全員が細かいところまでこだわっていましたし、リーグ戦は次に続いていくものなので、そこで一喜一憂することなく、次の週でしっかり勝つことが一番大事だとみんなわかっていました。なので、練習の雰囲気もそうですし、次の日からの切り替えや良い準備をすることがしっかりできたからこそ、こういう結果が出たのかなと思います」
――リーグでこれだけ結果が出れば、当然手応えも掴んでいったと思うんですけど、それが練習のポジティブな空気に繋がったところもありますか?
「勝てば勝つほど雰囲気もメチャクチャ良くなりますし、その分、負けた次の週は落ち込む人もいれば、切り替えられている人もいる中で、全員が1人1人の選手をお互いに引っ張っていく意識が今年は特に強かったかなと感じましたし、それはこのチームのポジティブな要素だったと思います」
――キャプテンの福井太智選手が練習や試合にいないことも少なくなかった中で、副キャプテンの自分がチームを引っ張らなくてはいけない、というような意識は強かったですか?
「やっぱり太智は抜ける期間が多かったですし、その時に自分がゲームキャプテンをしていく中で、『自分が引っ張らないといけない』という自覚はもちろんありました。その中で自分だけではうまく行かない中で、全員がサポートしてくれましたし、チームを引っ張ることができたのは、みんなの支えがあったからかなと思っています」
――坂井選手には絶対的な中心選手の雰囲気がありました。
「もうトップチームの活動に絡んでいることもあって、『ユースでは自分が引っ張っていかないといけない存在なんだ』ということは意識してやっていました」
――福井選手がいないことで、坂井選手も含めた特に3年生の自分がやってやるという自覚も、シーズンを追うごとに高まっていったようにも見えました。
「バイエルンへの移籍が決まってから、太智もそういう選手という目で見られている中で、自分たちも力がないわけではないですし、1人1人力も持っているんですけど、太智がゲームに入るとやっぱり目立つので、他の選手の良さが際立たなくなることもあると思うんですよね。でも、太智がいない状況でも全員がしっかりと戦っているのを、ピッチの中で自分も感じていましたし、『みんな力があるな』ということは常々感じていたので、太智に対する過剰な意識もなくやれていたのかなと思います」
――今からシーズンを振り返ると、キーになったのはどのゲームでしょうか?
「やっぱり後期の東福岡戦が一番かなと思います。勝てない試合が続いていた中で、あの試合で1点のリードを守り切れたことは、それまで負けが続いていた中でなかったことですし、最後に追い付かれることも多かったので、『あそこで少し変われたかな』とは自分も含めて、選手たちも感じていました」
――6試合勝ちがない時には、信じられない追い付かれ方や逆転のされ方が続きましたが、あの時期のチームはどういう状況でしたか?
「ガンバ戦では、3-0で勝っていた中で4点獲られて負けるという、普通ではありえないようなことが起きてしまったので、その日は夜の12時ごろに寮に着いたんですけど、そこから2,3時間ぐらい3年生だけで話しましたね。『何でこうなったんだろう』とか『何が悪かったんだろう』とか考えましたけど、自分たちの中でも結論はわからなかったんです。ただ、次の日のリカバリーで田中監督が『これがプレミアリーグだし、自分たちは前期に上手く行き過ぎていたな』という言葉を掛けてくれて、自分の中ではちょっと心が落ち着いたというか、『やっぱりそうだよな』と実感しました」
――ガンバ大阪ユース戦(第19節)は81分から4点獲られての逆転負けですよね。
「『もうどうにもできないだろうな』とは、試合をやっている中で自分も思ってしまいました。もうやるしかないという状況ではあったものの、試合が終わった時は頭の中の整理ができないような状況でした」
――そういう時に田中監督の言葉は大きいんですね。
「本当に選手に寄り添ってくれる監督なので、僕らが苦しい状況の時は寄り添いながら話も聞いてくれますし、自分たちにとって必要不可欠な存在です」
――最終節のジュビロ磐田U-18戦は今シーズンのベストゲームでしょうか。
「そうですね。ゲーム自体も素晴らしかったですし、戦い方も良かったので、あの試合がベストゲームだと思います。会場に来てくださったファンやサポーターの方も1つになってくれたので、そこは感謝しかないですね」
――川崎フロンターレU-18と戦ったファイナルは、率直にいかがでしたか?
「人生で初めて国立競技場でプレーできるという嬉しさもありましたし、その中で自分たちは試合前から勝つ気しかなかったですし、負ける気もしなかったので、その気持ちがあったからこそ、あの結果にも繋がったのかなと。ゲーム内容は先に1点を獲られて、周りの空気的にも『ちょっとヤバいんじゃないか』と思われたかもしれないですけど、自分たちの中では全然焦りはなかったんです。『絶対勝てる』と思っていたので、1年の集大成としても最高のゲームだったのかなと感じています」
――あの試合はセンターバック起用でしたが、そこに対して思うことはありましたか?
「チームが上手く行くことを一番に考えると、自分があの状況でセンターバックに入れば、ボールも動かせますからね。フロンターレさんの攻撃が素晴らしいことは知っていましたけど、もう1人のセンターバックの竹内(諒太郎)とも試合の合間に話していて、『オレらの方が強いから』ということは言い続けていたので、そこに対する怖さはなかったです」
――国立でゴール、獲りたかったですよね?(笑)
「そうですね。自分の本心としては“前”をやりたかったですけど、チームが勝てばいいんです(笑)」
――試合が終わってから、しばらくピッチに突っ伏していました。あの時はどういう心境でしたか?
「やっぱりシーズンも最後の方に近付くにつれて、苦しい試合も多かったので、力が抜けたという部分もありましたし、2失点目は自分がミスという形で絡んでしまって、ちょっと雰囲気も危なくなっていたこともあって、ホッとしたことで一気に涙が止まらなくなりました」
――でも、なかなか嬉し涙を流せる機会って多くないですよね。
「そうですね。嬉し涙って一気にドバッとあふれてくるものなんだなって。あれ以上の涙はないかなと思いますね」
――国立競技場のど真ん中で、みんなが見ている中でカップを掲げるのってどういう感覚ですか?
「もう嬉し過ぎて、『早くやりたい!早くやりたい!』みたいな感じでしたね。時間があれば何回でもやりたかったですし、みんなカップを上げたいぐらいの感じでした(笑)」
――鬼木(健太)選手の一連はどう見ていたんですか?(笑)
「アレは狙い通りです。アイツのメンタル、メチャメチャ強いですよね(笑)」
――今シーズンはリーグ戦も21試合に出場して、ファイナルもああいう形で勝った中で、日本一に自分が貢献した手応えはいかがですか?
「手応えは本当にありました。1年間を通して良い期間もあれば、悪い期間もあった中で、自分自身も良いプレーができている時も、そうではない時もあって、その中でも自信を持ってプレーすることは常に考えていたことなので、それをやり続けたからこその、最後にああいう結果になったのかなとは思います」
――今年は4人がトップチームに昇格して、福井選手はドイツに移籍しますが、こういうレベルの高い選手たちが同期にいたことに対しては、自分の中でどういう想いがありますか?
「彼らに対して変に意識するようなところは自分の中でなかったですし、『コイツらがいないとな』と思わせてくれる素晴らしい選手たちだったので、本当に頼りがいもありましたね」
――みんなで一緒に寮生活をしているわけですが、普段はどういう話をしているんですか?
「寮の中ではあまりサッカーの話はしないですね。プライベートの話をしたり、みんなではしゃいだりしていますよ(笑)。でも、今年はワールドカップがあったので、その時は夜でも朝早くても寮生みんなで試合を見ましたし、特に日本代表に点が入った時にははしゃいで、勝った時は大喜びして、それは今年一番楽しかったかなと思います」
――タイミング的に高校3年生でワールドカップがあると、「次は自分も」という気持ちになるものですか?
「そうですね。『この舞台で戦いたい』とは改めて強く思いましたし、一番近いのは4年後のワールドカップで、その前にはパリオリンピックもあるので、自分自身もそこに絡んでいかないといけないなということは、改めて痛感させられました」
――坂井選手はU-18から鳥栖に加入されていますが、高校年代の3年間で自分が成長した部分に関してはどのように感じていますか?
「ボールを持つこともそうですし、“止める、蹴る”の技術のところは1年生の頃から比べると格段に成長したなと思っています。その中でサポートしてくださったスタッフの方がたくさんいたので、その方々に感謝したいです」
――やっぱり鳥栖U-18を選んで良かったなと思いますか?
「メチャメチャ思っています」
――中学時代に在籍されていたソレッソ熊本時代のチームメイトには、ヴィッセル神戸U-18の安達秀都選手もいますよね。このプレミアの舞台で、かつての仲間と優勝を争うというのはどういう感覚でしたか?
「中学を卒業した時に、みんないろいろなチームへ行くことになった中で、その仲間とこういう舞台で再会できることは嬉しいことですし、自分自身もヴィッセルとの後期の試合は同じポジションで対戦したので、楽しかったですね。一生懸命やってきて良かったなと。しかもアイツ、上手かったです(笑)。ボールも持てますし、周囲も見られるので、『自分も見習わなきゃいけないな』と思いました」
――改めて鳥栖のアカデミーの強さはどういうところに感じていますか?
「プレーのところだと、ハードワークという部分で『このチームは本当に凄いな』と思いましたし、『これがないとサガン鳥栖じゃないな』とは改めて感じました。その中で全寮制という良さもあって、『全員が一体感を持って1年間を過ごしているな』ということも、中に入ってみて思いました」
――スタッフの人たちも、皆さん本当に良い人揃いじゃないですか。その空気感の良さも感じますか?
「広報さんがグラウンドに来てくれる時もそうですし、誰と接していても本当に良くしてくれて、いろいろな方が気に掛けてくれていることは3年間で強く感じてきたので、選手たちにしてみても感謝しかないなと思っています」
――来シーズンからはプロの世界に飛び込みます。ここからの自分の未来を、今はどういうふうに見据えていますか?
「来シーズンはスタメンを勝ち獲ることが一番の目標ですし、1日でも早く選手としての価値を上げて、ファン・サポーターの皆さんの前でプレーしたいです。その先の将来となると、日本代表になって、海外でプレーして、小さい子どもたちに夢や希望を与えることは、自分が小さい頃から抱いている夢としてまったく変わっていないので、それを達成するために、1日1日を大事にしてプレーしていきたいと思います」
――坂井選手より一足先に、海外へ勝負しに行く福井選手の存在も大きいですね。
「太智がいたからこそ、自分がここまで成長できた部分はあります。ただ、自分自身は日本で結果を残して、海外に行こうという想いがあるので、アイツを最終的には追い越せるように、焦らず、自分のペースでやっていけたらなと思っています」
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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