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アリーナ立川立飛(東京立川市)
1月14日の土曜日。僕はフットサルのFリーグ・ディビジョン1第19節、立川アスレティックFC対名古屋オーシャンズの試合を見るために、東京・立川市のアリーナ立川立飛に向かった。試合開始の30分ほど前に多摩モノレールの「立飛」駅に到着すると、駅から間近のアリーナ前は普段より多くの観客でにぎわっていた。
この試合を「TACHIHI DAY」と称して、立川アスレティックFCは「立川アスレ2000人チャレンジ」を掲げて観客動員を目指していたのだ。
今から10年ほど前には、年間で25万人を越える観客を動員したこともあるFリーグ。開催方式やチーム数、試合数も変化しているので、厳密に比較するのは難しいが、その後、観客数は長期低落傾向にあり、とくに新型コロナウイルス感染症の拡大によって2020/21シーズン以降は激減。
コロナ禍が収束に向かいつつある現在、どこまで観客動員を回復できるかは大きな課題となっている。
そして、この日、立川アスレはみごとに目標を達成。アリーナに集まった観客は2282人に達した。アリーナの収容人数は3275人とされているが、これはアリーナ席も含めた数字。2階スタンドだけなら、2282人はほぼ満員の状態だった。
やはり「満員」という状態の中では人の気持ちはアガル。コロナ禍で多くの人が集まることができなかった約2年半を経て、こうした熱気が各所に戻ってきたことは嬉しい限りだ。
そして、立川アスレティックFCは観客動員の目標を達成しただけではなかった。「満員のアリーナで名古屋オーシャンズに勝つ」という目標も達成したのだ。
名古屋オーシャンズは日本のフットサル界の絶対王者。2007/08シーズンにFリーグが創設されてから昨シーズンまでの15シーズンのうち、2016/17シーズンの2位を除いてすべて優勝。他を圧倒する戦績を収めている。そして、2022/23シーズンも早々とリーグ戦1位を確定。第18節までの成績は16勝1分1敗という圧倒的なものだった。
一方の立川アスレティックFCは2000年に東京・府中市で誕生したクラブだったが、使用していた府中市内のホーム・アリーナがFリーグ規格に合わなかったことから、トップチームはアリーナ立川立飛を使用するようになり、「立川・府中アスレティックFC」の名称の下で活動していたが、今シーズンからクラブ名も「立川アスレティックFC」と改称して、立川をホームタウンとして活動している。
そして、第18節終了時点で立川アスレは10勝3分5敗の3位に付け、バルドラール浦安、ペスカドーラ町田などとつばぜり合いを演じているところだ。
リーグ戦の上位3チームによるプレーオフによって年間優勝を決めるシステムのFリーグ。プレーオフ圏の3位以内を確保するためには、王者、名古屋との試合であっても星を落とすわけにいかない。
しかし、試合はキックオフ直後から実力的に上回る名古屋のペース。立川アスレのチャンスはほとんど生まれなかった。
そして、18分13秒にCKから平田ネト・アントニオ・マサノリのシュートが決まって、名古屋が順当に先制した。
それでも、ゴレイロ(GK)の黒本ギレルメの再三の好セーブで立川アスレは前半を1点ビハインドで終えた。
黒本と同じく守備で貢献していたのが、名古屋がピヴォ(FW)に当ててくるボールを再三奪い取ってピンチを防いだフィクソ(DF)の皆本晃。
経験豊富な選手だけに、相手のパスのタイミングを読み切ってアプローチをかけるタイミングが絶妙なのだ。
2005年に府中アスレティックFCに加入した皆本は、海外でプレーした一時期を除いて府中(立川)一筋。日本代表のキャプテンも務めた経験があり、まさにクラブを代表する選手。すでに35歳(1月28日で36歳)のベテランで、現在はクラブの代表理事を務めているが、この日のプレーを見る限り、まだまだチームの戦力としても欠くことのできない存在のようである。
さて、こうして1対0で名古屋がリードして迎えた後半。開始早々に、立川が同点とする。CKからのチャンスに21歳の金澤空がループ気味のシュートを決めたのだ。
その後は、ボールの所有権を巡って、激しいぶつかり合いが展開されてゲームは一気に白熱。一進一退の激しい攻防で満員のスタンドにも熱気が伝わり、それがアリーナの中にも反映してさらに激しさが増していく。
そして、27分56秒、ピッチ上のファウルを巡って、両チームベンチ同士が小競り合いを展開した。ベンチの選手スタッフが互いに罵り合い、慌てて審判団が割って入る。そして、ベンチにいた名古屋の中心選手アルトゥール・オリヴェイラと立川アスレの比嘉リカルド監督にイエローカードが示される。
名古屋のフエンテス監督もカードは示されなかったにしても明らかに激高していた。
ベンチの監督は、選手の士気を高めるために意識的にこうした行動をとることもあるが、フエンテス監督野表情を見ると、意識的な行動というよりも本当に興奮していたように見えた。本当なら、選手の気持ちを落ち着かせ行動をとるタイミングだったように思うのだが……。
だが、実際にはベンチ同士の激しい諍いがプレーをさらに激しくしてしまった。試合再開直後の28分03秒。名古屋のガブリエル・ペネジオが相手を背後からチャージして反則を取られると判定に対する異議を繰り返し、相次いで2枚のイエローカードを提示されて退場となってしまう。
フットサルでは、退場者が出ると2分間フィールドプレーヤー3人で戦わなければならなくなる。立川にとっては1人多いパワープレーとなるのだ。
そして、立川はこのチャンスを逃がさず、29分46秒に皆本が上村充哉とのワンツーからシュートを決めて勝ち越し点を奪った。
こうして、名古屋がリードを許して1点を追いかけるという、Fリーグではあまり見られない展開になる。
33分25秒に立川がカウンターから新井裕生が決めて2点差とすると名古屋はGKの篠田龍馬を上げてフィールドプレーヤー5人を並べるパワープレーを発動。しかし、39分19秒にボールを奪った立川の酒井遼太郎がGKのいない無人のゴールにボールを蹴り込んで、試合は4対1で立川の勝利に終わった。
勝負の転換点は、明らかにあのガブリエル・ペネジオの退場だった。そして、それは選手の気持ちを煽ってしまったベンチ同士の小競り合いが影響していた。さらに言えば、選手やベンチのスタッフを熱くし過ぎたのは満員のスタンドの影響だったかもしれない。
小競り合いや退場劇はけっして褒められることではない。
が、しかし、こうした熱い試合を展開することこそがFリーグ人気を高め、多くの観客を動員するための唯一の方法だろう。
満員の観客と選手たちの熱いプレーが交錯した一戦だった。第19節ではプレーオフ進出を懸けて戦っている上位陣がそろって勝利。Fリーグの熱い戦いはさらに続いていく。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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