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第101回全国高校サッカー選手権大会 岡山学芸館
第101回全国高校サッカー選手権大会は岡山学芸館の優勝で終わった。
昨年は松木玖生(現、」FC東京)擁する青森山田が圧倒的な強さを見せたが、今大会はそうしたスーパーなチームはなく、戦力的に最強だった前橋育英が準々決勝の大津戦でPK戦の末に姿を消したため、最後は“本命なき戦い”となった。
実際、3回戦(ラウンド16)以降の15試合のうち、半数以上の8試合がPK戦決着となった。
ノックアウト式トーナメントというのは組み合わせも含めて、運、不運に左右される。つまり、前回のコラムでも書いたが、もともと「実力最強チーム」を決めるためというより「優勝チーム」を決めるための大会だ(だから「ベスト4」とか「ベスト8」ではなく「ラスト4」、「ラスト8」と言うべきだという意見もある)。
まして、これほどPK戦が多くなると、大会の順位の価値も下がってしまう。
とくに、この全国高校サッカー選手権大会の場合、準々決勝までは試合時間が80分と短く、しかも決勝戦を除いて延長戦がない。90分、そして延長戦を含めて110分ないしは120分を戦い抜いた末に同点で終われば「PK戦決着もやむを得ない」と納得できるが、80分だけで即PK戦というのでは番狂わせが簡単に起こりすぎる。
大会レギュレーションを見直すべきだろう。
U-18年代であれば90分ゲームが当然。しかも、現在の高校サッカーは試合と試合の間には必ず休養日が入っているのだから、延長戦を戦うことに支障はない。「テレビ局の都合」という“大人の事情”は分かるが、日本のサッカーの育成の上でも重要な役割を担う大会なのだから、そろそろ見直しの時期に来ているはずだ。
いずれにしても、そんな大接戦を勝ち抜いて優勝した岡山学芸館は面白い存在だった。
年代別日本代表に招集された選手がいるわけでもない。Jリーグ内定選手がいるわけでもない。そんなチームが、チームの総合力で勝ち取った優勝だったからだ。
攻守ともに、本当に粘り強かった。
選手が走って球際に人数をかけること。それが、成功のカギだった。1対1の勝負でボールがこぼれると、選手間の距離を短くした岡山学芸館の選手がボールを拾う確率が高くなる。
しかも、圧倒的な力のある選手はいないにしても、それぞれが個人でボールを運べるだけのテクニックを持っているから、相手はボール保持者に集中せざるをえず、余計にフォローしてくる岡山学芸館の選手がボールを確保する可能性は高くなる。
そして、ボールを持った時の前に行く意識が高いのも強みだった。東山との決勝戦での先制ゴールが相手のオウンゴールという形で生まれたのは、攻撃のスピードのおかげだった。
準決勝の神村学園戦でも、岡山学芸館は前半の6分という早い時間に先制ゴールを奪って優位に立った。田辺望が左に開いて岡村温叶がクロスを入れて田口裕真がヘディングで決めるというシンプルだが手数を懸けない攻撃が功を奏した。これも、キックオフ直後からボールを前に運ぼうという意識の高さによるものだ。
大会は大接戦。そして、PK戦での勝ち抜きが結果につながった(優勝した岡山学芸館も3回戦と準決勝がPK勝ち)。それだけに、勝ち残ったチームは必ずしも大会のベストチームだとは言い切れない。「どこが優勝していてもおかしくない」というのはよく使われるフレーズだが、今大会ほどそれを実感できる大会はなかった。
けっして日本最強ではないチームが、大会期間中にチームの完成度を上げて、それが結果に結びついた。そんな大会だったということができる。
しかも、U-18世代は高体連のチームとJリーグクラブの下部組織などのクラブチームが拮抗した関係にあり、この年代の日本代表に招集されるのはクラブ側の選手が多い。
つまり、決勝戦を戦った選手たちは、けっしてこの年代の最高の選手たちだったわけではない。つまり、ある意味で日本のこの年代の“平均的な”チームによる戦いだったのだ。
しかし、そこで披露された試合はかなりのハイレベルなものだった。
最近の若い選手たちのプレーを見ていると、彼らがサッカーをよく知っていることに感心する。
ボールテクニックのうまい選手というのは、これまでも珍しい存在ではなかった。
今から50年近く前に、それまで関西地域で開催されていた全国高校サッカー選手権大会が首都圏で開催されるようになったが、その初年度の1976年度大会で静岡学園がドリブル主体の個人技のサッカーで旋風を巻き起こした。そして、それ以来、日本の若い選手のボール技術は着実に上がってきた。
だが、「そのテクニックを試合の中でどのように使っていくのか」という点で日本のサッカーは大きく立ち遅れていた。1990年代に入って、日本代表初の外国人監督となったハンス・オフトは代表選手に対して、「スリーライン」とか「アイコンタクト」といった英単語を使って、戦術の基礎から教え込んだ。それによって、日本代表はアジアカップに初優勝して、ワールドカップ・アジア予選突破まで「あと一歩」まで迫ったのだ。
それから30年の時を経て、若い選手たちは自分のプレーの特徴を試合の中でどのように生かしていくのかをはっきりとイメージしながら戦えるようになってきているのだ。
たとえばサイドバックの選手であれば、スピードを生かしてオーバーラップをしかけるのか、それともインナーラップを使ってMFとしてプレーするのか。それぞれ、自分のプレーの特徴を分かってプレーしている。センターバックの選手なら、自分のキックの特徴(ロングボールが得意なのか、正確なミドルレンジのキックがうまいのか)を考えて、どのようなパスをフィードするのかを考えている。
今大会には、ドイツのボルシア・メンヒェングラードバッハ加入が決まっている神村学園の福田師王を初め、198センチの長身を誇る森重陽介(日大藤沢)、総合的ストライカータイプの小林俊瑛(大津)といったようにCFに注目すべき選手がいた。いずれもまだまだ未完成の選手なのだが、彼らはいずれもCFとしての独特の“雰囲気”を醸し出していた。
日本には、そうしたCFらしいCFがいない。
カタール・ワールドカップに出場した日本代表は、CFタイプの大迫勇也を招集せず、前線で走り続ける前田大然や浅野拓磨を起用して結果に結びつけた。
だが、将来、世界の強豪相手に互角の戦いを挑もうと思えば、前線でパスを収めてタメを作ることのできる強さのあるCFは不可欠だ。
ところが、今年の高校サッカーを見ていると、そうしたCFタイプが何人もいたのだ。彼らがこれから本当に国際舞台で戦える選手として成長していけるのかは分からないが、そうした“雰囲気”を持ったFWを見るのは楽しかった。
DFやMFの選手が自分たちに要求されているプレーのイメージをしっかりと持ちながらプレーしているのと同じように、FWの選手たちも「CFというのは、こういうようにプレーするのだ」ということを理解しているからこそ、そうした“雰囲気”が漂っていたのだろう。
彼らは、子どものころから海外のトップクラスの試合の映像を自由に見ることができたはずだ。だからこそ、それぞれのポジションの選手がどのようにプレーすべきなのかについて、具体的にイメージを持っているのだ。
そうした選手たちが成長していけば、日本のサッカーもいよいよ新しいステージに入っていくことになるのだろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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