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アンチェロッティ監督とセティエン監督
後半戦のラ・リーガで注目チームが1つ出て来た。キーケ・セティエン監督率いるビジャレアルだ。先週末のビジャレアル対レアル・マドリー(2-1)はレベルの高いテクニックの応酬で、「これぞリーガ!」と呼べるものだった(――対照的に、アトレティコ・マドリー対バルセロナ(0-1)は3強の直接対決に相応しくないミスの応酬で、よそ様にはお見せできないものだった――)。
話をビジャレアルに戻す。
10月末ウナイ・エメリがアストン・ビラに引き抜かれ、セティエンが急きょ就任した時には不安しかなかった。
エメリの縦の意識が強いサイドから崩すサッカーと、セティエンのポゼッションによって数的有利を作って崩すサッカーはあまりにも違う。
[4-4-2]と[4-2-3-1]を使い分けたエメリと[4-3-3]一本槍のセティエン。ダブルボランチ(カプエ+パレホ)の前者とワンボランチ(パレホ)の後者。CBに渡して引きつけてからGKがSBへ展開してボール出しをする前者と、GK+両CB+ワンボランチの4人でショートパスを繋いで上がる後者。プレスを掛けられると蹴るエメリのチームと、掛けられても蹴らないセティエンのチーム。サイドにMF(コケラン、ロ・チェルソ)や縦に速いウインガー(アルベルト・モレノ)を置きたがるエメリと、対角ドリブラー(チェクウェゼ、ジェレミ)を配すセティエン……。
これだけ違えば選手が戸惑うのは当たり前で、就任直後は格下にも勝てなかった。
セティエンは状況に合わせて戦術を使い分けるタイプではなく、自分のやり方に選手を合わせるタイプ。それで最後のバルセロナ監督時代にはメッシと衝突もしていた。頑固なセティエンは、性格でも柔軟なエメリとは対照的だった。
話は少しそれるが、カタールW杯の教訓の一つは、戦術的に多様で柔軟なチーム(アルゼンチン、モロッコ)が成功し、“自分たちのサッカーをする”チーム(スペイン)が失敗したことだと思う。キーワードは「対応力」。過密日程の短期決戦で試合ごとのそれと、5人交代制で試合中のそれが試される。この点ウナイ・エメリはまさに理想的で日本代表監督にも推したいくらいだ。逆に、ルイス・エンリケ型のキーケ・セティエンは、スペインがポゼッション一辺倒の限界を見せ付けたこともあって、私の目には「時代遅れ」にさえ映っていた。
だが、これは間違いだったようだ。
昨年会いに行った際に、じっくり「ポジショナルプレー」の講義をしてくれた恩人にあまりに失礼だった。ポゼッションサッカーは死んでおらず、セティエンも過去の人になっていない。これはすなわち、「リーガとスペインにもまだ生きる道がある」ということだ。
もちろんまだ1試合だけなのだが、その予兆は明確に見られた。
文:木村浩嗣
木村浩嗣
編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。
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