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山内恭輔(前橋育英)、中馬颯太(大津)
首都圏各地で開催されている全国高校サッカー選手権大会はベスト4が出そろって、いよいよ1月7日から国立競技場で準決勝、決勝が行われる。
昨年度は松木玖生(現、FC東京)を擁した青森山田が圧倒的な力を持っていたが、今年度は実力が拮抗。準々決勝4試合のうち2試合が引き分けに終わり、PK戦で準決勝進出チームが決まった。
僕が観戦した中でのベストゲームは間違いなく準々決勝の前橋育英(群馬)対大津(熊本)の試合だった。
大津は昨年度の準優勝チームであり、一方の前橋育英は5年前の覇者。そして、2022年度の全国高校総体男子サッカー競技の優勝校である。準々決勝の中でも注目の一戦だった。
結果はスコアレスドローだったが、両チームが何度もチャンスをつかんだ白熱した攻め合いだった。
前橋育英のキャプテンでボランチの徳永涼が最終ラインまで下がって、両サイドバックに高い位置を取らせてゲームを組み立てる。DFやMFとのパス交換で相手の隙を伺いながら、ロングボールを駆使して攻撃を組み立てる徳永の姿は古典的なゲームメーカーのそれだった。
左サイドではサイドバックの山内恭輔が攻め上がり、サイドハーフの大久保帆人とパスを交換しながらドリブルでしかけ、そこに徳永が絡み、さらにツートップの一角の高足善が左右に流れてパスを引き出して、そこからドリブルで相手最終ラインを崩しにかかる。
MFでバランサーとしてプレーしている青柳龍次郎も、いざという時にはドリブルで突破できるだけのテクニックを持っている。
つまり、前橋育英はチーム全体のレベルがそろっていた。
圧倒的な「個の力」があるわけではないが、攻守のバランスも良く、ゲーム運びも安定。80分間戦って、ゴールを陥れることはできなかったが、今大会屈指の実力を十分に発揮していたと言える。
一方の大津はツートップが魅力的だった。小林俊瑛は191センチの長身FWで後方からのパスを収めるのがうまい。そして、コンビを組む山下基成は“衛星タイプ”。小林の周囲で足を生かしてスペースを攻略する。このツートップが、最終ラインの碇明日麻などからのロングボールのターゲットとなり、ダイナミックな攻めの形を作った。
結局、両チームとも守備意識が上回り、得点が生まれないまま後半に入り、58分(後半18分)に前橋育英の右サイドハーフで中央に入り込みながらドリブル力を生かしていた小池直矢が2枚目のイエローカードで退場となってしまう。
1人少なくなってしまった前橋育英だったが、しかし、すぐに4-4-2から4-2-3にシフトしてその後もチャンスを作りながら最後まで互角に攻め合った。
そして、80分を終えて得点は生まれず、高校サッカーでは準々決勝までは延長がないのでPK戦に突入。前橋育英の2人目の山内のキックが大津のGK西星哉にセーブされ、一方の大津は5人全員がきっちり決めて、大津が準決勝進出を決めた。
大津は素晴らしいチームなので、優勝まで最も近い位置に付けたのではないだろうか?
しかし、前橋育英がこの段階で姿を消してしまったのは残念なことだった。
ノックアウト式の大会というのは、運、不運の要素が強く、強いチームが必ずしも勝ち上がるとは限らない。
ノックアウト・トーナメントというのは、優勝チームを決めるための大会なのであって、実力ナンバーワンを決める大会はリーグ戦なのである。
しかし、それにしても前橋育英のようなハイレベルのチームには、全国から注目を集める国立競技場でその姿を見せてほしかった。
一つ釈然としないのは、やはり、高校サッカーは準々決勝までは80分という短い試合時間であること。そして、80分を終えて同点だった場合に、延長がなく、すぐにPK戦になってしまうという点である。延長なしで、すぐにPK戦というのはやや安易すぎるのではないだろうか。
昨年11月から12月にかけてカタールで行われたワールドカップでもPK戦によるドラマがいくつも生まれた。
ドイツとスペインを破ってラウンド16に進出した日本代表は、クロアチア相手に互角の勝負を繰り広げながらPK戦で完敗してしまったし、そのクロアチアは準々決勝でもブラジル相手に引き分けて、またもPK勝ちしてベスト4にまで進んでしまった。
そして、カタールの大会では決勝戦もPK戦に持ち込まれて、アルゼンチンの優勝が決まることになった。
日本が敗れたから言うわけではないが、「PK戦」というサッカーの本質とは異なった方式で勝敗を決める(正確に言うと、試合はあくまでも引き分け。PK戦は次ラウンドに進むチームを決めるためのものである)のはやはりどこか釈然としない。
PK戦についての批判はいつの時代にもあるが、結局、「それ以上の方法がない(抽選よりはマシでしょ?)」というのでPK戦方式は定着しているのである。
しかし、なんとかしてPK戦ではない方法で決着をつける方法を考えるべきだろう。最善なのは再試合なのだが、これはスケジュール的に難しい(しかし、決勝戦くらいは再試合にできないものだろうか?)。
たとえば、ワールドカップのラウンド16だったら、試合が引き分けに終わった場合には1位通過のチームの勝ち抜きとすべきではないか。そして、準々決勝では前のラウンドがPK勝だったチームより、前のラウンドで90分で勝ったチームが優先されるべきだ(つまり、ラウンド16ではクロアチアではなく「1位通過」の日本が勝ち抜けるべきだし、準々決勝ではラウンド16で韓国を4対1で破っているブラジルが優先されるべきだった)。前ラウンドまでの結果を考慮してもどうしても決着がつかない場合はPK戦を行えばいい。
そして、高校サッカーに関しては、まず、先ほどもの書いたように、やはりPK戦に突入する前に延長戦くらいは行ってほしい。そして、やはり前のラウンドでの結果を反映させることもできるだろう。
前橋育英も大津も、ともに3回戦では80分で決着をつけていたが、2回戦では前橋育英が四学香川西相手に80分決着だったのに対して、大津は浜松開誠館相手に引き分けてPK戦勝ちだったので、準々決勝で引き分けた場合は前橋育英の勝利とすればいい。
引き分けの場合にどちらが次のラウンドに進むのかが予め決まっていると、有利なチームが守備的になってしまうかもしれないが、不利な側は必死の攻撃を見せるだろうから、試合自体は白熱する。少なくとも、PK戦狙いの戦いというのは不可能になる。
いろいろ書いてきたが、PK戦で準決勝進出の権利を勝ち取った大津は現行のレギュレーションの中で正当に勝ち上がってきたのだから、批判すべきことはまったくない。国立競技場という舞台で存分に戦って、昨年のリベンジを狙ってほしいだけである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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