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里見はシュートを狙ったわけではなかったから、幸運な得点だったのは間違いない。だが、重要なのはボールが流れてくるのを察知して、そこで合わせるため、里見がダッシュして飛び込んでいったところだ。その勇気があったからこそ生まれた先制ゴールだった。
そして、10分後には里見は渡辺の2点目をアシストする。
バイタルエリアにいた里見に相手選手がさわったこぼれ球が回ってくる。その瞬間、里見はワンタッチで渡辺にパスを送り、渡辺がそのまま決めたのだ。
一瞬の判断で渡辺の前にスペースにボールを入れた里見の判断力が生んだゴールだ。
つまり、里見はゴール前の重要なポイントを察知する独特の嗅覚のようなものを持っているのだろう。そこに自らが飛び込んだのが1点目のゴール。そして、そのポイントにワンタッチ・パスを送ったのが2点目のアシストということになる。
ちなみに、後半には相手のセンターバック同士のパスが緩くなったところに飛び込んでパスカットを狙った場面もあった(54分)。つまり、里見の独特の嗅覚は守備面でも生きていたのだ。
さて、こうした多彩な攻撃を見せる神戸に対して、決勝戦で広島がどこまで迫れるかだが、広島は非常に実践的なプレーができる選手が多い。MFは徳山逸と名越貫陽のコンビだが、攻撃に参加する名越とその後方でバランスを取る徳山の関係が素晴らしい。僕は、徳山のプレーを見ていて、かつて広島の中盤でバランサーとしてプレーしていた森保一(現、日本代表監督)を思い出した。
そして、左サイドではドリブラーの原湊士とそれをサポートする名越。そして、オーバーラップをしかける船波唯人のコンビネーションが良かった。後半には原は右サイドに回り、右のサイドハーフだった小林志紋が左右入れ替わったが、51分のこの試合唯一の得点は右サイドで原が入れたクロスが相手DFに当たったボールを逆サイドで拾った小林が決めている。
左右は相手との兼ね合いがあるのだろうが、いずれにしても両サイドだけで点を取り切ったことは大きい。また、右サイドバックの船波は深い位置まで進出してクロスを入れて、再三チャンスを作っていた。
中盤での守備を安定させ、そしてボールを奪ってから大きなサイドチェンジも含めて、鋭いカウンターをしかけてくる広島。好調の神戸にとってもやりにくい相手であるのは間違いない。
テクニックを生かして幅広い攻撃をしてくる神戸に対して、広島がどのように対抗して、そしてどのように決定機に結びつけることになるのか……。好調チーム同士の決勝戦は見逃せない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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