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アルゼンチンという国にはマラドーナがいて、メッシも出現した。さらにさかのぼれば、1950年代にレアル・マドリードでも活躍したアルフレード・ディステファノという名選手もアルゼンチン出身だった。人口約4500万のアルゼンチンは、いわば「特別な存在」を幾度も生み出す特別な場所なのだ。
エンバペが生まれたフランスも、約40年前に活躍したミシェル・プラティニや2000年代前半に活躍したジネディーヌ・ジダンといった「特別な存在」を生み出しているし、1960年代から70年代にかけて「サッカーの王様」と称されたペレをはじめ、1970年代から80年代にかけて活躍したジーコや、2022年大会でもスーパーなプレーを披露したネイマールなど、多くのスーパースターを生み出したのはブラジルだった。
今大会でも大活躍したルカ・モドリッチが生まれたクロアチアもその一部だった旧ユーゴスラビア連邦もそうした「特別な存在」の特産地だった。モドリッチの前には、あのドラガン・ストイコビッチ(セルビア)がいた。
こうした天才たちが生まれる国には、共通点があるようにも思える。それは、チームのために献身的にプレーする多くの選手を生み出しながら、同時に選手の個性を尊ぶ伝統がある国ということが言える。
アルゼンチンのサッカーの特徴は、ショートパスをつないで相手を切り崩す攻撃的なサッカーだ。フランスとの決勝戦の2点目がそうだ。中盤でスペースに走り込む味方にワンタッチでパスを出して突破。最後は、アンヘル・ディ・マリアがフリーになって決めた。
そして、もう一つは守備の強さだ。フランスのトップのジルーやエンバペにボールが入る瞬間に、DFのクリスティアン・ロメロなどがガツンと体を当てて跳ね返したり、MFのロドリゴ・デパウルが相手の前に体をねじ込んでボールを奪う。すると、スタンドのアルゼンチン・サポーターからは一斉に「ビエン(よしっ)!」と声が上がる。
個人のアイディアを生かした華麗な攻撃と献身的な守備……。これが両立しているのがアルゼンチンのサッカー文化なのだ。
個人のエゴとチームのための献身的姿勢。これが両立する国こそがサッカー強国なのであり、そうしたサッカー文化(伝統)が「神の子」を生むのだろう。
いつの日にか、日本にもそうした全国民が共通に理解できるようなサッカー文化が根付くことだろう。その時にこそ、日本はワールドカップのベストエイトの常連とる。そして、そんな日本に「神の子」が出現すれば、日本は本気でワールドカップ優勝を狙えるようになるはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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