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サッカー フットサル コラム 2022年12月13日

【ハイライト動画あり】プレミア初挑戦の川崎フロンターレが向き合った“本気”が教えてくれること【高円宮杯プレミアリーグファイナル 川崎フロンターレU-18×サガン鳥栖U-18マッチレビュー】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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プレミアリーグファイナルに臨む川崎U-18のスタメン

それはまだ蝉の鳴き出す少し前の時期。プレミアリーグの試合取材が終わり、会場を後にしようとしていたタイミングで声を掛けられた。その人は川崎フロンターレのクラブスタッフの方。聞けばプレミアの試合には、必ずアカデミースタッフ以外にも、普段はトップチームに関わっている広報担当か運営担当が帯同するようにしているという。

会話の流れの中で、5月に等々力で開催されたホームゲームの話になった。その試合の観客数は1,983人。プレミアリーグで考えれば驚異的な数字だ。素直にそう感想を伝えると、「ありがたいことなんですけど……」という感謝に続けて、こう言葉は続いた。「僕たちは3,000人を目指していたので、まだまだ全然足りないんです」。

「ああ、フロンターレらしいなあ」と思った。私がJ SPORTSの新入社員としてJ2の中継を担当していた2003年のこと。のちにクラブのレジェンドとなる中村憲剛のJリーグ初ゴールを等々力で見届けたのは、3,658人の観衆だった。だが、それから14年後の2017年。中村憲剛がピッチに突っ伏して、J1初制覇の歓喜を噛み締めた日の等々力は、25,904人の観衆がスタンドを埋め尽くしていた。彼らはいつだって本気なのだ。

ちょうどその次のホームゲームは、富士通スタジアム川崎で開催されることになっていた。当日はトップの試合にも出店しているキッチンカーや“ふろん太ふわふわ”も動員しつつ、集客を仕掛けているとその方は熱っぽく語る。後日、気になってその試合の公式記録を確認すると、観客数は2,357人と記載されていた。ハッキリ言ってそれでも凄まじい数字だが、あの日のあの人が「まだまだ全然足りない」と悔しがっている姿が目に浮かんだ。

プレミアリーグのレベルは、間違いなく高い。高校年代トップクラスの22チームが、毎週のように全国大会のような試合を繰り広げ、その中で選手も自身が驚くような成長を遂げていく。それでも試合に訪れる観客の数は決して多くない。ここ2年はコロナ禍の影響もあり、有観客の試合自体が減少していることを差し引いても、そのクオリティと注目度が比例しているとは残念ながら言い難い。

【ハイライト】

【ハイライト動画】川崎フロンターレU-18(EAST王者) vs. サガン鳥栖U-18(WEST王者)

だからこそ、トップチームで味わった成功体験をアカデミーにも反映させようとしている、プレミア初昇格のフロンターレのクラブとしての姿勢は、良い意味で新鮮だった。序盤から好調をキープし、驚異の開幕12戦無敗を記録するなど、初昇格初優勝に向かってひた走る状況も相まって、U-18への注目度も日に日に増していく。

10月15日。今シーズンのプレミアでは最後の等々力開催となった横浜FCユース戦。とうとう観客数は目標をさらに超えて、3,505人まで到達する。あのクラブスタッフの方が、この数字を心から喜んでいるであろう姿と、今度はさらに来季へ向けての目標を上方修正しているであろう姿が、同時に思い浮かんだ。彼らはいつだって本気なのだ。

川崎U-18がプレミアEAST優勝を決めた11月の一戦も、ホームゲームの舞台となった保土ヶ谷公園サッカー場には、少なくないサポーターが集結していた。掲げられたゲーフラには「ヤンフロを国立へ」の文字が。決勝点を決めた五木田季晋も、そのまま水色に彩られたゴール裏に飛び込んでいく。

試合後。大関友翔は感謝の弁を口にする。「スタッフの方だったり、運営の方が集客に尽力してくれていたのは知っていましたし、僕たちが来た時にはもうサポーターの方がいるような情景だったので、そこで自分も『絶対やってやろう』という気持ちにもなりましたし、声出し応援ありということで、選手のチャントも作ってくれて、それも聞こえてきたことが凄く力になりました。そういった方々にも今日は優勝という形で恩返しできたと思うので、そこはすごく良かったかなと」。

選手とスタッフとサポーターが一緒に映った記念写真の中には、『川崎の誇り、国立で歓喜を!』と描かれた横断幕も。聖地で再び戴冠の歓喜を味わうことを、選手たちも、スタッフも、サポーターも信じて、それぞれの準備を進めていく。

最後は一歩及ばなかった。サガン鳥栖U-18と対峙したプレミアリーグファイナルは2-3で惜敗。国立のピッチで日本一のカップを掲げることは、叶わなかった。

会見で長橋康弘監督は、スタンドを水色に染めたサポーターへの感謝をこう述べている。「リーグ戦を通して、サポーターの皆さんが物凄く応援して下さって、青森山田のアウェイにも来てくれたりして、本当にありがたい限りでした。ただ、選手たちには『絶対にこれが当たり前になってはいけない』と。『この感謝の気持ちを自分たちで返せるものがあるんじゃないのか』と言いながら、『日々の勝利と内容で応えていこう』という想いで1年やってきました。本当にサポーターの力で勝てたゲームが何試合もあって、『サポーターの力って凄いな』と改めて感じた1年でした」。

試合後に高井幸大が「今まで自分がプレーしてきた中で一番大きいくらいの声援があって、良い雰囲気でやれて楽しかったです」と話せば、大関は「トップの試合かと思うぐらいサポーターが入ってくれていて、想像以上にホーム感が出ていて、集客に尽力してくださったスタッフの方々にも凄く感謝しています」と語る。これからプロの道へと歩み出す彼らも、きっとこの日の国立のスタンドの光景を忘れることはないだろう。

国立のゴール裏を水色に染めたサポーター

初めてU-18の試合を生観戦したという、知人のフロンターレサポーターの方が教えてくれた感想が印象深い。「こう言うと選手に失礼かもしれませんが、想像以上にハイレベルで、みんな凄く上手でビックリしました。『もう少し早くから見ておけば良かったな』って、ちょっと後悔したくらい素晴らしい試合でした」。その方のように初めて彼らの雄姿を見て、同じような想いを抱いた人も、きっと少なくないはずだ。

それぞれのチームには、それぞれの事情がある。会場の問題も、社会情勢の問題も、当然集客を考える上では常に付きまとってくる。それでも、その中で最大限の“本気”が集まれば、状況を変えるきっかけにはなるはずだ。今では誰もが知る強豪校を率いる指導者の方が、まだ駆け出しの頃に恩師から贈られたという言葉を思い出す。「できない理由を探さない」。けだし名言である。

プレミアの日常では、いつも高校生が全力でトライする“今”が輝いている。きっと私の知人も、またU-18の試合を見に行こうと思う日が必ず来るだろう。初めてこの高校年代最高峰の舞台に参戦したフロンターレが、クラブとして向き合った本気が、熱量が、他のクラブや高校にもポジティブに波及することで、今まで以上にこの素晴らしいリーグの会場へと足を運ぶサッカーファンが増えることを、願ってやまない。

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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