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そもそもグループステージ敗退を突き付けられたブラジルワールドカップが終わり、最初に代表監督へ就任したのはメキシコ人のハビエル・アギーレだった。選手として1度、監督としても2度のワールドカップを経験している世界的な名将は、選手からの評判も上々だったものの、過去の八百長疑惑が報道されたことにより、半年余りで契約解除となってしまう。
次に日本へとやってきたのは、特異なキャラクターが注目を集めたヴァイッド・ハリルホジッチだ。まるでかつてのトルシエ監督を思わせるようなエキセントリックな行動や発言も目立った指揮官は、縦に速いサッカーを標榜しながら、選手に戦う意識を要求し続け、とりわけ『デュエル』というフレーズは、一躍日本サッカー界の流行語として知られることになる。
ところが徐々に選手との溝が深まり、最終的にはワールドカップ開幕の2か月前に解任。当時JFA技術委員長を務めていた西野朗がチームを率い、本大会へと向かうことになったのだが、日本代表をワールドカップごとのスパンで考えれば、過去に類を見ないほどの混乱を経たのが、このブラジルからロシアまでの4年間であったことは間違いない。
初戦で対峙したのは、前回大会で実力差を見せ付けられた因縁の相手・コロンビア。大会前のゴタゴタもあり、苦戦が予想されたゲームは、開始3分で相手がハンドで退場者を出す幸運もあり、それで得たPKを香川真司が沈めて日本が先制。一時は追い付かれたものの、最後は大迫勇也が決勝点を奪い、2-1と勝利。ハメス・ロドリゲスやラダメル・ファルカオなど強力アタッカーを揃え、グループ最強と目されていた南米の強豪から、望外の勝ち点3を手にしてみせた。
2戦目のセネガル戦でも、チームは粘り強さを発揮する。11分にサディオ・マネの得点でリードを許すも、34分には乾貴士が同点弾。後半に入って勝ち越されたが、乾のアシストから “スーパーサブ”本田圭佑が、自身3大会連続となるゴールを叩き込み、2-2のドロー決着。2試合を終えて1勝1分けでグループ首位に立つ。
3戦目の相手は世界最高級のストライカー、ロベルト・レバンドフスキを擁するポーランド。セネガル戦からスタメン6人を入れ替えた日本は、なかなかリズムを掴めないまま、59分には失点を喫する。ただ、同時刻キックオフのコロンビア対セネガルでコロンビアが先制したことで、このままのスコアであればグループステージ突破が決まるという状況を知った西野監督は、15分近い時間が残る試合をそのまま“クローズ”することを選択。結果的に0-1で敗れながらも、グループ2位での決勝トーナメント進出が決定する。難しい決断を迫られる中で、アトランタ五輪も経験している指揮官の胆力が際立った。
ここまで日本がワールドカップで戦った21試合の中でも、世界トップレベルの強豪と最も激しく打ち合ったのが、ラウンド16のベルギー戦だということに異論はないだろう。ヴァンサン・コンパニ、ケヴィン・デ・ブライネ、ロメル・ルカク、エデン・アザールなど欧州有数のタレントが居並び、優勝候補の一角と目されていた難敵を前に、48分に原口元気が、52分には大会を通してラッキーボーイ的な役割を担っていた乾が相次いでゴールを陥れ、日本は2点をリードしてしまう。
それでも、ベルギーはやはり強かった。69分と74分の連続失点でスコアはすぐさま振り出しに。そして後半アディショナルタイムには『ロストフの14秒』とも言われる高速カウンターから、ナセル・シャドリが挙げたゴールが決勝点に。確かに見えていたはずの世界8強は、あと一歩のところでその行く手を阻まれた。
このチームが最後の最後でまとまった要因は、ブラジルワールドカップを知るベテランたちの危機感ではないだろうか。大きな期待を背負って臨んだ前回大会で惨敗を味わった彼らが、ロシアでリベンジを果たすことを念頭に置いて4年間を過ごしてきたであろうことは想像に難くない。
不動のキャプテンとしてチームを束ねた長谷部誠。3大会続けて守護神を務めた川島永嗣。ベンチスタートの役割を受け入れた本田。交代出場時には全力でピッチを駆けた岡崎慎司。ブラジルの地で誰よりも悔し涙に暮れた長友佑都。絶対的なディフェンスリーダーへと成長を遂げた吉田麻也。日本の10番を背負い続けた香川。
酸いも甘いも噛み分ける彼らが、日本代表のユニフォームに袖を通して戦うことの意味を背中で示したことが、このロシアでのラウンド16進出という確かな成果に繋がったことを、語り落としてはいけないだろう。
初めて世界の扉を開いたフランスワールドカップから24年。四半世紀の間に、この国のサッカーを取り巻く環境は劇的に変化した。それでも日本代表というチームに対する我々の想いは、きっといつだって変わらない。
「私たちにとって“彼ら”ではありません。これは、“私たちそのもの”です」。悲願のワールドカップ初出場を決めた『ジョホールバルの歓喜』に際して、試合実況を担当された山本浩さんの名言を思い出す。カタールワールドカップに挑む日本代表も、やはり“私たちそのもの”なのだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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