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相手に寄せられながらもシュートを放つ鎌田
鎌田大地が止まらない。
10月26日に行われたUEFAチャンピオンズリーグ・グループリーグ第5節でアイントラハト・フランクフルトはフランスのオランピーク・マルセイユと対戦。鎌田は前半の3分という早い時間に先制ゴールを決め、その後1点ずつを取り合ってフランクフルトは2対1で勝利。この結果、フランクフルトはスポルティングと勝点で並んで3位となり、グループDは最終節を前に首位のトッテナム・ホットスパーから4位のマルセイユまで全チームにノックアウトステージ進出のチャンスが残る大混戦となっている。
そして、鎌田は前節のトッテナム戦のゴールに続いてCLで2試合連続ゴールとなった。昨シーズンのヨーロッパリーグでの大活躍から引き続き、今シーズンもCLでの鎌田の活躍は目覚ましい。
マルセイユ戦のゴールはその内容としても、味方のパスを受けてそのまま相手のエリア内まで自ら持ち込んでDFともつれるようにしながら、コースを見極めて冷静に流し込んだもので、とても良いゴールだった。
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さまざまな意味で「隔世の感」としか言いようがない。
まず、思うのは最近では「日本人選手がゴールを決めるのが当たり前のようになった」ということ。
週末にはフランス・リーグアンのスタッド・ランスで伊東純也が試合終了間際に決勝ゴールを決めているし、グラスゴー・セルティックでは毎試合のように古橋亨梧や前田大然がゴールを決めている(もっとも、それが現在のスコットランドの力の限界なのか、セルティックはCLではまったく結果を出せないのだが……)。
ほんの30年ほど前まで「日本人はサッカーに向かない」と言われていた。その後、Jリーグが発足し、日本代表も毎回のようにワールドカップに出場するようになった。すると、さすがに「日本人はサッカーに向かない」などと言う人は少なくなったが、代わりに「日本人はパスはうまいがシュートが下手。そもそもシュートを打とうとしない」と言われるようになった。
『日本人はなぜシュートを打たないのか?』という本を書いた人までいた。
いずれも、日本人がサッカーに向かないのも、シュートを打たないのも、「横並びが重視される日本社会のせい」とか「日本の教育のせい」というのが答えだったように記憶している。
しかし、最近の日本人はシュートを打つし、シュートを決めることもできるようになってきたのだ。もう、今では「日本人はシュートを打たない」などと、誰も言わないだろう。
先日、U-20女子ワールドカップを見ていたら、日本の女の子たちはシュートが大好きらしく、カナダ戦では日本チームはなんと30本以上のシュートを放っていた。
スペインとの準々決勝ではスペイン人選手のスピードやパワーに圧倒されて守備一辺倒になってしまったが、後半66分には谷川萌々子が30メートルほどのロングシュートを突き刺してなんと押されていた日本が先制したのだ(最後に逆転されてしまったが)。
最近、数10年の間に日本の社会や日本の教育が大きく変わったとは思えない。だとすれば、「日本人はサッカーに向かない」と思われていたのも、「日本人がシュートを打たな」かったのも、社会や教育のせいではなかったのではないだろうか。
要するに、日本では選手の育成がうまくいっていなかったからサッカーが弱かったのであり、日本人選手はキックが下手だったからシュートを打ちたがらなかったのに違いない。
1990年代以降、日本の育成システムが大幅に改善され、最初はパス技術などのレベルが上り、最近になってようやくキック技術の高い選手が数多く生まれてきた。その結果、日本人選手もシュートがうまくなり、ヨーロッパ各国リーグでもチャンピオンズリーグでもゴールを決められるようになってきたのだ。
力を入れ過ぎずに、しっかり相手のGKの動きなども見極めながら、冷静にゴールを決める鎌田の姿を見れば、もう二度と「日本人にサッカーは向かない」とか「日本人はシュートを打たない」などと言われることはないだろう。
もう一つ、「隔世の感」を思わせるのは、日本人選手がCLに出場できるような強豪クラブで活躍するようになったということだ。
日本人がヨーロッパに挑戦し始めたのも、1990年代のことだった。
三浦知良が初めてイタリアに渡ったのが1994年。そして、1998年のフランス・ワールドカップの後には中田英寿がやはりセリエAで活躍を始めた。
当時、日本からヨーロッパに挑戦したのはカズやヒデのような特別な選手だけだった。しかし、彼らを受け入れてくれたのはジェノアやペルージャという「強豪」とは言い難いクラブだった(ジェノアはイタリア最古の伝統あるクラブではあったが)。
その後も、日本人選手が移籍するのはそうしたいわゆる“プロヴィンチャーレ”と呼ばれるクラブばかりだった。
そして、必ずのように「選手の実力よりもジャパン・マネーを目当てにした商業的な移籍なのではないか」と言われたものだ(これも、「隔世の感」なのではあるが、当時の日本はバブルこそ弾けた後だったものの「世界第2」の経済力を誇っていた)。
中田が初めてビッグクラブであるASローマに迎えられたのは2000年。香川がドイツのビッグクラブ、ボルシア・ドルトムントに入団したのが2010年。2年後には香川はマンチェスター・ユナイテッドに移籍するが、イングランドでは成功しなかった。2014年には本田圭祐が念願のACミラン入りを果たすが、やはりミランでは輝きを発揮できなかった。
そうした歴史を経て、現在では日本人選手が各国リーグのトップクラスのクラブでも活躍の場を持ち始めたのだ。
そして、鎌田大地は昨シーズン、自らの活躍でヨーロッパリーグ優勝を果たして、今シーズンはCLに活躍の場を移してゴールを決めている。
残念ながら、日本人選手がプレーしているクラブはCLでノックアウトステージに進出できるか否か、微妙な立ち位置のクラブである。鎌田のフランクフルトは最終節で守田英正のいるスポルティングとの直接対決にノックアウトステージ進出を懸けて対決する。
カズやヒデが初めてヨーロッパへの挑戦を始めた時代から約四半世紀でここまで来たのだ。これから日本のサッカーがさらに進化を進めていけば、いずれの日にか日本人選手がCL決勝でプレーし、日本人選手のゴールでビッグイヤーの行方がきまるといった場面も生まれるかもしれない。
そして、僕にとっての究極の夢は「日本人指導者がヨーロッパのビッグクラブの監督になって、ビッグイヤーを掲げること」だ。
ヨーロッパの選手たちに日本人指導者の言うことを聞かせるためには、多くの日本人選手が活躍し、そして日本代表がワールドカップで上位に進出するなどして、日本のサッカーの信用度を高める必要がある。
ワールドカップで1回優勝するよりもずっと難しい道なのかもしれないが……
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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