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前橋育英に9試合ぶりの勝利をもたらしたのは“30番台”が放つ努力のエネルギー【高円宮杯プレミアリーグEAST 桐生第一高校×前橋育英高校マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史山本颯太
32番のセンターフォワードと35番のセンターバックが、年代最高峰の選手が集うプレミアリーグの舞台で確かな輝きを放つ。チームの苦境を救う活躍を披露した彼らだが、シーズンが始まってからも決して陽の目を浴び続けてきたわけではない。それは背負った大きな番号が、何よりも如実に現している。
「監督からも『プライドや誇りを持て』とずっと言われてきたので、それを持って全員で必死にやってきましたし、自分もチームもうまく行っていなかったので、その中で自分が決められたのは嬉しかったですね。今回のゴールは成長を感じられるのかなと思います」(山本颯太)「自分のウィークポイントに目を向けて、日々の練習や自主練にも取り組んで、やっとチャンスが来たので、このチャンスをこれからに繋げていきたいと思います」(ポンセ尾森才旺)。
山本颯太とポンセ尾森才旺。遅れてきた“30番台”が放つエネルギーが、タイガー軍団にとってリーグ9試合ぶりとなる白星を、逞しく引き寄せた。
夏の全国王者は苦しんでいた。プレミアでは6月から白星に恵まれず、ここ3戦は青森山田高校、川崎フロンターレU-18、横浜FCユースにすべて0-1の惜敗。日本一を挟んでも好転しないリーグ戦での状況に、チームも自信を失い掛けていたことは想像に難くない。
Bチームでプレーしていた山本が、頭角を現したのは5月の関東大会。決勝で2ゴールを挙げて優勝に大きく貢献すると、インターハイでも登録メンバーに入り、日本一を懸けた帝京高とのファイナルでもスタメンに抜擢されるなど、チームの中で存在感を高めていく。
ただ、6月に行われたメンバー変更のタイミングで登録されたプレミアでは、スタメンで起用される試合もあったが、なかなかその力を証明するまでには至らない。「自分は新チームになってずっとケガをしていて、プレミアの入れ替えの時にトップに上がらせてもらったんですけど、ベンチ外だったり、ベンチで出られない状況が続いていた中で、最近は少しずつ試合に出られるようになってきましたけど、個人的には何もできない状況が長かったですね」。とにかく結果を求めていた。
Cチームでプレーしていたポンセ尾森が、“きっかけ”を掴んだのは夏前のこと。インターハイの県予選を前に、トップチームの活動に参加した際の猛アピールが実ると、同じCチームにいた眞玉橋宏亮とともにプレミアのメンバーに登録される。
それでもインターハイに臨む20人のメンバーからは外れ、日本一に輝く仲間の姿を見つめることしかできず、以降のプレミアでもコンスタントな出場機会は得られない。「インターハイもプレミアも(徳永)涼も(大久保)帆人も出ていて、レイソルから来た3人の中では自分だけ出られていなくて、凄く悔しい想いはありました」。とにかく結果を求めていた。
県内最大のライバル、桐生第一高校と対峙するアウェイゲーム。メンバーリストの上から5番目には35番の名前が書き込まれていた。「ちょっと緊張しましたし、昨日の夜は結構目が覚めました(笑)」。プレミアでは2度目のスタメン。決して良いチーム状況とは言えない中で訪れた、絶対に負けられない一戦に緊張しないはずがない。
「チームとしては勝てない状況が続いていて、個人としてはずっとスタメンとして出られていなくて、ここに来てチャンスが回ってきたので、絶対ゼロで抑えようと思っていました」。ポンセ尾森は対人の強さを前面に押し出しながら、相手の攻撃の芽を力強く摘み続けていく。
スコアレスで迎えた後半。32番は最前線に解き放たれる。「『自分が点を獲ってやろう』と最近はずっと思っていても、全然獲れなかったですけど、今日も『自分がやるしかない』という形で入りましたし、監督にも『ポストプレーは絶対に負けないようにやれ。その中で得点できるシーンがあったら得点しろ』って言われていました」。フォワードが狙うのはただ1つ。得点だけだ。
そのチャンスはすぐに巡ってきた。4分。チームメイトが高い位置でプレスを掛けた流れから、こぼれたボールが山本の目の前に転がってくる。すかさず右足を振り抜くと、DFに当たってコースの変わったボールは、ゆっくりと左スミのゴールネットへ吸い込まれていく。「たまたま自分のところにボールが来て、『もう押し込むしかない』と思って、ファーストタッチで打ったら入っちゃったって感じです(笑)」。まずは1点目。
ポンセ尾森才旺
9分。今度は完璧な左サイドの崩しから、山内恭輔のクロスが中央に入ってくる。「山内くんは上手いので『クロスに入り込もう』というチームの認識はありますし、クロスからのシュートはずっと練習していたので、その通りの形ができて良かったです」。続けて2点目。ストライカーとしての仕事をきっちり果たしてみせる。
ポンセが悔やんだのは、後半のアディショナルタイムのシーン。5点をリードしていたが、シンプルなクロスから豪快なボレーを叩き込まれてしまう。「チームとしては1失点してしまったので、もっと前の時点から自分がチームメイトを守備に行かせれば、失点は抑えられたのかなと思います」。反省の弁が口を衝く。ただ、試合は5-1の快勝。ようやく手にした久々の歓喜に、選手たちにも笑顔の花が咲いた。
いよいよシーズンも終盤戦。夏に続く日本一を目指す選手権も、1年を通じて戦い続けてきたプレミアも、大事な試合しか残っていない。だからこそ、ここまで這い上がってくるために重ねた努力の、積み上げた日々の成果を、彼らがピッチで示すことは、それを間近で見てきたチームメイトにとっても、大きなエネルギーになっていく。
「Cチームの仲間からは応援されていますし、そういうヤツらのためにも頑張っています。個人としてはここから全部の試合にスタメンで出たいですし、チームとしては選手権も全試合無失点で圧倒して、絶対に全国に出たいです」(ポンセ尾森)「みんなに良い声掛けをもらいながら、励まされたり応援されたりしてやってきたので、今日で少し結果が残せたことは良かったですし、この勢いのままチームも自分も乗っていって、しっかりチームのエースとしてやっていけたらいいなと思います」(山本)
32番のセンターフォワードと35番のセンターバック。仲間のために戦うことの意味を実感してきた2人の“30番台”の躍動は、きっと前橋育英をもう一段階高いステージへと押し上げていくはずだ。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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