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サッカー フットサル コラム 2022年9月2日

「入っても入らなくても知ったことか」と右足を振り抜く

粕谷秀樹のOWN GOAL,FINE GOAL by 粕谷 秀樹
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西ドイツ戦でニースケンスが決めたPKシーン

西ドイツ戦でニースケンスが決めたPKシーン

1974年西ドイツ・ワールドカップ──。

オランダ代表ヨハン・ニースケンスのPKは強烈だった。インサイドで丁寧にコースを狙うことが定石だったが、インステップでド真ん中にズドーン!「入っても入らなくても俺の知ったことか」とでもいわんばかりに、右足を思い切り振り抜いていた。

このPKに関し、イタリア代表として輝かしいキャリアを誇るワルター・ゼンガ、ジャンルイジ・ブッフォンに質問したことがある。

「ニースケンスのPKは中央に飛んできます。コースを読まず、中央に構えられますか」

両GKから同じ答が返ってきた。

「九分九厘、中央に蹴ってくるデータがあったとしても、コースを読まずに中央に構えるのは難しい」

10・97メートルをめぐる複雑な駆け引きとでもいうべきか。

さて、プレミアリーグには成功率100%を誇るPKの名手がいた。マンチェスター・シティで一世を風靡したヤヤ・トゥーレである。

11回蹴ってすべて成功。『アブダビ・ユナイテッド・グループ』買収直後のシティを支えたオーガナイザーで、セルヒオ・アグエロ、ダビド・シルバとともに、44シーズンぶりのリーグ優勝にも貢献した。

ちなみに10回以上のPKをすべて成功しているのは、ヤヤ・トゥーレただひとりである。

マシュー・ル・ティシェの成功率は96・15%。26回蹴って、失敗はノッティンガム・フォレストGKマーク・クロスリーに阻まれたわずか一度だけだ。

1990年代のサウサンプトンで異彩を放ち、「その優美なテクニックをイングランド代表で」と、多くのメディアに支持されていた。しかし、当時のイングランド代表が “強く・速く・高く” を旗印に掲げていたため、ル・ティシェの才能は陽の目を浴びなかった。

正確なボールコントロールとアイデア豊かなパスワークをビッグトーナメントで披露できなかったのだから、ル・ティシェにとってもイングランド・フットボールにとっても大きすぎる損失だ。

一方、2001年から5年間、アストンビラのエースとして活躍したファン・パブロ・アンヘルは10回のトライで50%の成功率。褒められた数字ではない。しかも、05年2月のフラム戦で二度も失敗していた。嗚呼、なんたる失態。隠しておきたいスタッツだ。

また、1試合で二度の失敗はサイド・ベラヒーノ(当時ウェストブロム)も16年4月のワトフォード戦で経験しており、10年8月にはトッテナムのユニフォームを着ていたころのダレン・ベントが、三度もPKの機会がありながら一度しか成功しなかった。

さて、マンチェスター・ユナイテッドはPKを苦手にしている。レジェンドのウェイン・ルーニーは67・65%、昨シーズンまで所属していたポール・ポグバ(現ユベントス)も63・64%と、成功率が低い。

さらにGKダビド・デヘアは、昨シーズン5節のウェストハム戦でマーク・ノーブルのキックを止めるまで、7年にわたって一度もセーブできなかった。

PKに対応するデヘアは、明らかに追い詰められている。もう少し気軽に構えよう。キッカーがペナルティスポットに立ったとき、ドイツが輩出した偉大なる詩人であり芸術家ヨハン・ヴォルフガンク・ゲーテの名言を思い浮かべるといい。

天使のように大胆に、悪魔のように細心に──。

(※本文中のデータは英国のサイト『the analyst』参照)

文:粕谷秀樹

粕谷 秀樹

ワールドサッカーダイジェスト初代編集長。 ヨーロッパ、特にイングランド・フットボールに精通し、WWEもこよなく愛するスポーツジャーナリスト。

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