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AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の東地区準決勝で、浦和レッズがPK戦の末に韓国の全北現代モータースを下し、来年の2月に西地区代表との間で行われる決勝戦進出を決めた。
1対2とリードされて迎えた延長後半の120分。間もなくアディショナルタイムに入ろうとしたときだった。全北の選手がタッチライン沿いに出した縦パスをムン・ソンミンが受けようとするところを酒井宏樹が深いタックルをしかけてボールを奪取。そして、ボールをダビド・モーベルグに預けると自らするすると上がっていった。モーベルグからのリターンはやや長すぎたかと思われたが、酒井は懸命に追いかけてボールをコントロールしてクロス。中央でそのボールが跳ね返るところを明本考浩がシュートを放ち、GKのイ・ボムスが弾いたボールをキャスパー・ユンカーが叩き込んで、浦和が土壇場で同点に追いついた。
そして、迎えたPK戦ではGKの西川周作が相手の1人目と2人目を見事にストップ。さらに、全北は4人目のキャプテン キム・ジンスのキックが右ポストに当たって、4人のうち3人が決めた浦和の決勝進出が決まった。
酒井、西川というベテランの活躍も嬉しかったし、劇的な逆転でスタジアムは大いに沸いた。
だが、本当ならこんな劇的展開にすべきではない試合だったはずだ。
というのは、条件的には浦和が圧倒的に有利だったからだ。
まず、舞台が声出し応援が戻ってきた埼玉スタジアムだったこと。観客数は2万人台だったが、試合前のコレオグラフィーと大声援で選手たちを後押し続けた。しかも、PK戦が行われたのは浦和サポーターで埋め尽くされた北側サイドスタンド前だったのだ。
また、浦和がラウンド16ではジョホール・ダルルタクジム(マレーシア)、準々決勝ではBGパトゥム・ユナイテッド(タイ)と東南アジア勢を相手に大勝して余力を残していたのとは対照的に、全北はラウンド16では同じKリーグの大邱FCと対戦し、相手の守備を崩すことができずに延長戦までを戦った。そして、準決勝ではJリーグのヴィッセル神戸と対戦。神戸に先制を許す展開となり、再び延長戦の末に3対1と勝利して準決勝進出を決めたのだ。
まだ暑さも残る中(しかも、全北の試合は2試合ともキックオフ時間がまだ暑さも残る16時だった)、2試合連続の延長戦から中2日では体力的に相当にきつかったはずだ。
そして、準決勝でも早々に浦和が先制して有利な立場に立った。
キックオフ直後から激しくプレスをかけて相手ゴールに迫った浦和。11分には右サイドのダビド・モーベルグのスローインから伊藤敦樹、モーベルグ、酒井とワンタッチでつないで、最後は酒井の速いクロスに松尾佑介が合わせた美しい先制ゴールだった。こうした、ワンタッチパスやサイドバックのインナーラップというのは、最近のJリーグのトレンドで、韓国のチームはなかなか対処できない形だ。
これで、浦和の優位性はさらに高まった。早めに2点目が奪えれば、勝負の行方は大きく浦和に傾くはずだった。
ところが、1点を先制した直後から浦和は戦い方を変えてしまった。
点を取るまでは前に前にとアグレッシブに戦っていたのに、ゴールが決まった後はボールを大事にする意識が強くなって、最終ラインの岩波拓也とアレクサンダー・ショルツ、それにボランチの岩尾憲、それにGKの西川を加えて後方でボールを回しながら、相手陣内に穴を見つけようとする戦い方に変わったのだ。
もちろん、こういう一発勝負の試合だから慎重に戦うという選択はありうる。
だが、その前提としてはボールを大事にするのだから「ミスを生まないこと」があるはずだ。ところが、浦和はせっかくボールを大事にする戦い方に切り替えたのにイージーなパスミスでボールを失う回数が多すぎた。そして、引き気味でプレーしたことによって全北が全体としてゾーンを上げて浦和ゴール前でのプレーも増えていった。
さらに、コンタクトの場面で疲労をためている全北の選手が倒れる場面が多く、それをアリレザ・ファガニ主審にファウルと判定されてしまった。
こうして、自ら首を絞めるような形で浦和は防戦に追い込まれてしまい、後半にPKによって同点とされてしまった。
PKの判定自体は、オンフィールド・レビューが行われたことでも分かるように、かなり微妙なものだった。しかし、あの時間帯の試合展開を見れば、同点ゴールが生まれたのはけっして偶然ではなかった。
その後、後半の最後の時間帯になると、疲労がたまった全北の選手の足は完全に止まり、浦和が押し込んで、全北は自陣深くで構えるという展開となり、後半のアディショナルタイムには連続して決定機をつかんだ浦和だったが、キャスパー・ユンカーのシュートがポストに嫌われるなど、決勝ゴールを生み出すことはできず、試合は延長に突入した。
そして、カウンターとセットプレーしかなくなった全北だったが、浦和は守備の拙さもあってチャンスを作られ、そしてCKから失点。窮地に追い込まれていった。
浦和はなぜ1点リードしてから戦い方を変えてしまったのだろうか? 単に守りに入っただけなのだろうか?
今シーズンの序盤、浦和は勝点を伸ばせずに苦しんでいたが、当時は「ボールを大事にしよう」というリカルド・ロドリゲス監督の方針に対して、「前に行く推進力がない」という批判が集中した。その後、チームがまとまってくるとともにアグレッシブな姿勢も見え始め、今回のACLでは前からの激しいプレスによって大量得点を生み出してきた。
だが、同時に「ボールを大事に」という方針も残っている。そこで、その両者の間で針が振れることがあるのだ。準決勝のパトゥム戦でも、やはり後半になって「ボールを大事にする」方針に切り替えたこともあった。
その2つの戦い方を、これからどのように整理していくのかが、浦和レッズの今後の浮沈の鍵となるのではないだろうか?
いずれにしても、2022年シーズンのACLでは、グループステージから準決勝まで日本と韓国のクラブが8度対戦したが、結果は韓国側の4勝4引き分け(PK戦は引き分け)。Jリーグクラブはとうとう韓国相手に1勝もできなかったのだ。
戦術的にも技術的にも、今ではJリーグの方がKリーグより間違いなく上回っている。だが、一つだけ韓国のサッカーに敵わないのが「球際の強さ」だ。たとえ、数的不利に陥っても、疲労の極にいても、韓国の選手たちはボールの奪い合いでは日本を上回る。実際、浦和と全北の試合でもポゼッションやシュート数、枠内シュートなど多くのスタッツで浦和が上回っていたが、デュエルや空中戦、タックル成功率など“球際”に関する数字だけは全北が浦和を上回っていたのである。
まだ、韓国から学ぶべきことはあるようだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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