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サッカー フットサル コラム 2022年7月29日

試合を動かした“ジョーカー”【インターハイ準決勝 帝京高校×昌平高校 マッチレビュー】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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どちらの高校も1回戦から登場している。6日間で5試合目というハードスケジュールの中で、日本一へ王手を懸けるための準決勝に挑むのだ。施策を巡らせ、戦略を練り上げ、最後に決断する。キーワードは『チームで戦う』ということ。帝京高校も、昌平高校も、タイムアップのホイッスルが鳴る瞬間まで、チームとして戦う姿勢を、凛として貫いた。

昌平のメンバーリストに並んだスタメンは、率直に言って意外だった。前日に戦った準々決勝からは実に5人の変更に着手。その前日の一戦で負ったケガで試合出場が叶わないキャプテンのDF津久井佳祐に加え、不動のレギュラーだったMF長準喜、MF篠田翼、FC東京内定のMF荒井悠汰もベンチスタート。思い切った采配を藤島崇之監督は振るう。

もちろんそこに意図がないはずがない。荒井は前日の試合の影響に言及する。「大津戦で自分も含めてなかなか前目で押し込むことができずに、ずっと相手にボールを持たれて、ずっと守備の時間があって、それが結構疲労という感じで来ていました」。試合は1-0で勝ったものの、シュート数は大津が昌平の3倍近い数字。守備でも大事なタスクを任されているアタッカー陣に、疲労感がないはずがない。ならば、大事な局面でより出力の高いタレントをピッチへ解き放つという戦略は、十分に理解できるものだった。

ただ、それは結果的に帝京の“反骨心”に火を付ける。「悔しかったというのが率直にあって、そのメンバーを日比監督が自分たちに教えてくれた時に、もうみんな目の色が変わって、『コイツら全員引きずり出してやろう』と。『絶対に勝ち切ろう』という想いはそこで強まったと思います」と話したのはキャプテンの伊藤聡太。プリンスリーグ関東の開幕戦で対戦した時には、0-3で昌平に完敗。リベンジを誓うカナリア軍団は、新たなモチベーションを取り込んで、ゲームに向かっていた。

激しい体のぶつけ合い

前半はほとんど互角に近い内容で推移する。4分に際どいシュートを放ったのは、今大会初スタメンとなる昌平の3年生FW伊藤風河。以降も右のMF佐々木小太朗、左の1年生MF大谷湊斗と、こちらも今大会で初めてスタメンに指名されたサイドハーフの2人が、縦への推進力を発揮していく。

さらに、「ものすごくサッカーを知っている選手なので、良いディフェンスができていましたね」と藤島監督から絶賛されたのは、津久井の代わりにセンターバックに入ったDF佐怒賀大門。いきなりの抜擢にも丁寧なポジショニングと対人の強さで、帝京アタッカー陣にも十分対抗。津久井も「大門はいきなりの試合なのに、今日は凄く良かったです」と高評価を口にするなど、レギュラー陣と遜色のないパフォーマンスを繰り出してみせる。

一方の帝京は、準々決勝の岡山学芸館高校戦から1人だけスタメンを変更。チームを中盤で操るMF押川優希がベンチスタートとなり、3回戦でもスタートから登場したMF藤崎巧士が、押川が位置していたドイスボランチの一角に収まる。

帝京のCBコンビは、本職ではない。もともとボランチだったDF大田知輝は昨年の冬から、1年時はFWだったDF梅木怜は今年の3月から、今のポジションにトライしている。だが、「あの2人がよくやってくれているんですよ。そこに尽きると思います」と日比威監督からの信頼も抜群。実際に前半14分に訪れた決定的なピンチは、大田が身体を投げ出す決死のブロックで回避する。

前半のアディショナルタイムには、両チームに交代があった。35+1分に昌平は篠田を、35+6分に帝京は山下凜をそれぞれ投入。奇しくも双方が切った1枚目のカードはともにドリブラータイプのサイドハーフ。ここにお互いの攻撃的な志向が透けて見えるようで面白い。

後半開始から長を投入した藤島監督は、やや膠着状態になった44分(35分ハーフ)に決断する。ピッチサイドに出てきたのは背番号10。「自分が前に進まないとチームも流れが変わらないので、自分から先に行動しないといけないと思っていました」と話した世代屈指のレフティ、この日はジョーカー起用となった荒井がとうとうピッチに姿を現す。

46分には山下が魅せる。得意のドリブルで右サイドをえぐり、中央へ折り返すと、FW齊藤慈斗のシュートは相手GKのファインセーブに阻まれたものの、決定的なシーンを演出。カナリア軍団のドリブラーも、その能力の一端を覗かせる。

先制の帝京高校

そして、試合を動かしたのは、やはり“ジョーカー”だった。終盤に差し掛かっ
た61分。大田の鋭い縦パスを藤崎が受け、山下とのワンツーで裏へ抜け出しながら利き足と逆の右足で中へ。MF松本琉雅のシュートは右ポストに弾かれたが、ボールは山下の足元に転がってくる。

「その前に1回慈斗にクロスを上げて、それが弾かれたシーンがあったので、『これは相手もわかってないな』と思って、自分で振り抜きました」。右足一閃。撃ち抜かれたボールはゴールネットへ突き刺さる。結果を出したのは「今大会で前線の選手は自分以外だいたいゴールを決めていたので、焦りがあったんですけど、ここで一発やってやろうと思っていたので、点を決められて嬉しかったです」と笑った帝京の“ジョーカー”。とうとうスコアが動いた。

攻めるしかなくなった昌平は、とにかく攻める。荒井が、篠田がドリブルで仕掛け、ある程度シンプルに放り込む回数も増えていくが、帝京守備陣の集中力は途切れない。70分にはDF島貫琢土が、70+3分には松本が、身体を投げ出してシュートブロック。ワンプレーずつ、1秒ずつ、時間を執念で消し去っていく。

帝京が昌平を1-0で撃破

アディショナルタイムも9分を回った頃、タイムアップのホイッスルが快晴の青空に吸い込まれる。「全員で『ここで身体が壊れても、この試合は勝ち切ろう』という話はしていたので、全員で声を掛けながら走り切れたかなと思います」と伊藤も語った帝京が昌平を1-0で撃破。実に19年ぶりとなる決勝進出を逞しく引き寄せた。

試合後。藤島監督はスタメン変更の意図をこう語っている。「前半も今まで途中から出てきたフレッシュな選手が、スタートからものすごく良いパフォーマンスを出してくれていたところもあったので、そこから繋いで、エネルギやパワーを持っている選手をというところで考えました。もちろんいつものスタートの選手をベースで行った方が良かったという部分も、正直なところ、なくはないです。ただ、結局その時の状況はどうなっていたかわからない部分ですし、今日のゲームにしっかり勝つためのベストメンバーで行ったつもりではいます」。

結果が出るか、出ないかは、ふたを開けて見なければわからない。選手たちを一番近くで見続けてきた指揮官の決断が、あくまでもこの日は結果に繋がらなかったというだけのことだ。

取材エリアには、松葉杖を突いた津久井が現れた。「自分は試合に出れないので、勝てればいいなと思っていたんですけど、負けると凄く悔しくて、あの時あんなケガしなければよかったって思ってしまいます……」と涙を浮かべながら話したキャプテンは、チームメイトから掛けられた言葉を教えてくれた。

「『ごめんね』って言われました。『ごめんね』なんて言われたら泣いちゃうじゃないですか。だから、まだ言葉は返せていないですけど……」。飲水タイムにはベンチの前まで出てきて、選手にボトルを渡していた津久井の姿が印象深い。そんなキャプテンの姿を見たチームメイトは、下級生は何を感じたか。昌平がチームとしてこの敗戦からどう成長していくのか、今から楽しみだ。

勝った帝京も選手層はとにかく厚い。プリンスリーグに出場していた選手で、この大会のメンバーに入れず、東京に残っている実力者も決して少なくない。試合後の取材でそんな選手名を挙げていた日比監督は、「ここに来れなかった選手も……、選手選考は厳しかったですね。残っているメンバーに対しては申し訳ない……」と呟いて、声を詰まらせた。

準々決勝でも、準決勝でも、キャプテンの伊藤はそんな彼らに想いを馳せ、感謝を口にし続けている。「試合が終わるごとに、東京に残っている仲間たちから『勝ってくれてありがとう』とか、『カッコよかった』とか言ってもらっているんです。本当にサッカーを本気でやっている仲間に感謝されることは嬉しいですし、本気で応援してくれる仲間がいるので、中途半端な試合はできないですし、『みんなの分も戦ってきたぞ』と胸を張って言える結果を出せるように、頑張りたいですし、優勝報告だけをしたいです」。

名門のカナリア、復権へ。勝てば20年ぶりとなる日本一を懸けた一戦で激突するのは、プレミアリーグEASTでも上位に付けている上州のタイガー軍団・前橋育英高校。最後を飾るにふさわしい強敵だ。伊藤の、そしてチームメイトの優勝報告は果たして叶うのか。その答えは、もうすぐ出ることになる。

帝京も、昌平も、持てる力をすべて出し尽くし、チームとして戦った。真夏の徳島で意地をぶつけ合った関東勢同士のセミファイナル。勝利だけを目指し、灼熱のピッチを走り続けた両者に、心から拍手を送りたい。

文:土屋雅史

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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