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大会MVPの相馬勇紀、メダルが胸に輝く
EAFF E-1選手権大会が7月27日に閉幕し、前日に優勝を決めた女子代表(なでしこジャパン)に続いて、森保一監督率いる日本代表が優勝を飾った。女子の場合は日本が3連覇。一方、男子はなんと9年ぶり2度目の優勝だった。
しかも、最終の韓国戦は3対0というスコアで内容的にもライバルの韓国を圧倒した。
前半は攻め込んだものの、開始早々の町野修斗のミドルシュートはGKの趙賢祐(チョ・ヒョヌ)に弾かれ、その後も19分の相馬勇紀のシュートがポストに嫌われ、34分には水沼宏太がCKから直接狙ったもののGKにかき出され、直後の西村拓磨のシュートはGKの正面。
3日前の中国戦でも、日本は中国を圧倒して20本ものシュートを放つも最後までゴールをこじ開けられなかった。また、前日は女子代表がやはり中国と戦ってスコアレスドローに終わっている。
「後半も得点は生まれないんじゃないか」。そんな嫌な予感もしてきたが、後半開始直後の49分に相馬が頭で決めて日本が先制した。右サイドできれいにパスが回った後の藤田譲瑠チマのクロスを相馬が頭で決める、美しいゴールだった。
このゴールでチームの雰囲気は一変。64分には「セットプレーからの得点が日本の課題」と言われる中、相馬の左CKをDFの佐々木翔が合わせて決め、さらに72分には右サイドで横浜F・マリノスラインでパスをつなぎ、サイドバックの小池龍太が深い位置まで飛び込んで折り返したボールを中央でフリーになった町野がダメ押し点を決めた。
この勝利が意味しているのは、単に一つの試合での勝利(そして優勝)ということではない。
日本のプレッシングやアプローチが韓国の選手を完全に抑え込んでしまったこと。そして、横浜の選手たちが繰り出すワンタッチパスを使っての意外性のある攻撃に韓国が対応できていなかったことを見逃してはいけない。
日本のJリーグはここ数年の間にレベルが大きく上がっている。
川崎フロンターレがハイレベルのサッカーを披露して過去5年間に4度の優勝を飾った。一方、横浜はアンジェ・ポステコグルー監督(現セルティック監督)が持ち込んだ両サイドバックが攻撃参加する流動的な攻撃サッカーを定着させ、他のチームもそれに必死に追随しており、今は浦和レッズやFC東京がスペイン人指導者の下で改革に取り組んでいる。
たとえば、3点目のゴールのようなサイドバックのインナーラップは、今では日本では多くのチームがやっているプレーだが、中国でも、韓国でもまったくそれに対応できていなかった。
また、Jリーグでは過去数年、強いコンタクト・プレーが強調されている。正当なチャージであれば、選手が倒れてもレフェリーは笛を吹かないし、今ではそれに対して文句を言う選手もいなくなった。
かつては韓国相手にはテクニックで上回ってもフィジカル的に劣っていた日本の選手たちがコンタクト・プレーで韓国を圧倒したのだ。
つまり、ここ数年でJリーグが積み上げてきたことが正しかったのだということがピッチ上で示されたのだ。
E-1選手権は国際マッチウィークでの開催ではないので、日本も韓国も海外組を招集できない。代表のほとんどを海外組が占めている現状を考えれば、代表チームにとってはかなり難しい大会なのだ。
そんな中で、すでにワールドカップは予選で敗退している中国はU-23代表(オーバーエイジが2名)という陣容で参加した(ゼロコロナ政策を続けている中国の場合、代表選手は帰国後に隔離されるので、トップクラスが参加しなかったのかもしれない)。日本や韓国とは明らかに実力差があったし、最終日には香港相手に辛うじて勝利したものの、シュート数など内容では香港が優勢な試合だった。
一方、日本と韓国はベテランから若手まで網羅した「Jリーグ選抜」、「Kリーグ選抜」で出場した。最終戦での3対0というスコアはJリーグとKリーグの現状を示したものなのである。
昨年3月には海外組も含めたフル代表の試合で日本は3対0で勝利した。6月にはU-16とU-21の2つの年代別日本代表が各カテゴリーの韓国に対してやはり3対0で勝利。そして、大学選抜同士の試合では全日本大学選抜が韓国を5対0で破っている。
つまり、E-1選手権での0対3というスコアでの敗戦は相当にショッキングなものだったのではないか。当然、韓国も巻き返しのための策を採ってくるはずだ。
日本代表初選出にして大きな存在感を見せた水沼宏太
森保監督は、この大会のために32歳の佐々木や水沼から20歳の藤田、そして19歳のGK鈴木彩艶までベテラン、中堅、若手をバランスよく招集した。横浜から7人、サンフレッチェ広島から6人が招集されたが、これは準備期間が短い中でチームを作るための方策だったのだろう。
実際、初戦(対香港)と最終の韓国戦は横浜主体のチーム(横浜、川崎、湘南の“ほぼほぼ神奈川県選抜”)。そして、中国戦は広島主体のチームで戦った。
大きな注目を集めたのが、果たして今大会で活躍した選手のカタール・ワールドカップでのメンバー入りの可能性だ。
海外組主体でアジア最終予選を戦ってきたチーム。6月のキリンカップ等の4試合を戦ったチーム。登録枠が26人に拡大されたことを考慮しても、これから新たに代表に加わっていけるのはせいぜい2人、3人だろう。
今大会メンバーの中で山根や谷口、佐々木などはこれまでも代表で戦ってきた。相馬も当落線上だったが、今大会での積極的なプレーぶりと香港戦、韓国戦での先制ゴールという重要な働きをしたことで大きくアピールできただろう。
大迫の不在が続いて注目が集まるFWでは町野が相馬と同じく3ゴールを決めて大会得点王に輝いた。相手DFラインの裏に抜けるスピード系が多いなかで、町野は前線に張ってポストプレーができる。大迫の代役として可能性を感じさせた。9月の欧州遠征で再びテストされる可能性はあるかもしれない。
そして、この大会でリーダーシップをとってチームを一体化し、またゲーム中にも声をかけ続けてチームを鼓舞した水沼。チームを精神的に安定させる、いわゆる“ベテラン枠”としてサプライズ招集があるかもしれない。
そして、中盤での攻守両面で大きなポテンシャルを感じさせたのが藤田だ。まだ、経験不足はあるが、将来性を考えるなら、カタールでワールドカップを経験させておくことが、将来の日本代表の強化につながるはずだ。
さて、あまり注目を集めなかったが、女子の大会では日本が3連覇を飾った。1月のアジアカップで3位に終わった悪いイメージを覆すという最低限の成果は出せた。
ただ、代表経験の浅い選手を多数招集したため、試合内容は不満が残るものだった。ただ、女子の場合はワールドカップまで1年の時間があるので、現段階ではチームの完成度を上げるよりも、多くの選手をさまざまなポジションで試すというのが池田太監督の意図だったように思える。今大会での経験や情報を、今後のチーム作りに役立てていってもらいたいものである。
文:後藤健生
写真:Noriko NAGANO
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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