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小湊絆
トーナメントは、“負け”の積み重ねだ。勝ち続けられるのは、たった1チームのみ。他はすべて負けた記憶を刻み込まれ、また明日からやってくる厳しい練習に立ち向かわなければならない。
小湊絆が、泣いていた。
前年度の三冠王者であり、つまりはインターハイでも前回王者。大会前から連覇だけを期待されていた青森山田高校。昨年のレギュラーはほとんどが卒業し、立ち上がった新チームも苦難の連続。プレミアリーグでは屈辱の5連敗も味わった。今大会の県予選も、決勝は後半の飲水タイムまで0-0。そこから3点を奪い切り、全国切符を勝ち獲ったが、「今日は本当にPK戦でも、ぐらいの覚悟で来たので、正直ホッとしました」と黒田剛監督も胸をなでおろしたように、薄氷の勝利だったことは間違いない。
10番を背負う小湊も、シーズンが進んでいく中で自身の役割を見つめ直していた。「ストライカーをやっている以上は、『自分が全部ゴールを決めたい』ぐらいの気持ちなんですけど、結局自分が点を決めても負けたら意味がないですし、自分が点を決めなくても勝てるんだったら、絶対にそっちの方が自分にとってもプラスになると思うので、そこはもう自分のエゴを抑えながらやっています」。
誰よりもゴールは奪いたい。でも、それ以上にこのチームで勝ちたい。この2つの命題を自分に問いかけながら、臨んだインターハイ予選決勝では実に3か月ぶりとなる公式戦での得点を記録。試合後には、満面の笑みで優勝カップを掲げる姿が印象的だった。
迎えた全国大会。初戦となる2回戦の相手は帝京高校。プリンスリーグ関東でも上位に付ける、高校サッカー界きっての名門だ。だが、青森山田は開始からフルスロットルで立ち上がると、12分に先制ゴールを奪ってみせる。決めたのは小湊。5人が有機的に絡む、まさにスーパーな一撃。最高のスタートを切った、はずだった。
タイムアップのホイッスルが鳴ると、緑の選手たちがピッチに膝をつく。スコアボードの数字は青森山田の1に対して、帝京は2。何度も決定機を作った前者は追加点を奪えず、2つのチャンスをしっかり生かした後者が鮮やかな逆転勝利。ディフェンディングチャンピオンは、初戦で姿を消すことになった。
試合終了直後は相手選手と握手を交わすなど、気丈に振る舞っていた小湊だったが、チームで一番最後にロッカールームへと引き上げてくる時には、懸命にこらえながらもその目が赤く濡れていた。
実は後半に“幻の追加点”もあった。小湊の高い打点のヘディングがゴールネットを揺らしたものの、オフサイドという判定でノーゴール。「あの後の流れが凄く良くなかったので、アレが彼らにとっては相当ショックだったのかなと思います」とは黒田監督。そのシーンも含めて、この日の勝利の女神は彼らに微笑まなかった。
もちろんこれで終わるわけにはいかない。負けっぱなしでいいはずがない。シーズン前に小湊が口にしていた言葉を思い出す。「山田で三冠した後の代というのは今までにもないので、自分たちが何もしなくても勝手に周囲の目が集まりますし、プレッシャーが掛かるものなので、そのプレッシャーを受け止めるのではなくて、期待されているとポジティブに考えながら、その注目度をさらに上げられればいいかなと思います」。
この日の涙を、どう未来に繋げていくのか。青森山田の10番に、その覚悟が問われている。
大迫塁
大迫塁が、泣いていた。
1年時から福田師王との二枚看板として、鹿児島の強豪・神村学園高校を牽引してきた世代屈指のレフティ。今シーズンはキャプテンを任され、これまで以上に逞しさが際立ってきた。取材時には笑顔も目立つ明るい性格も魅力的。2022年の高校年代を彩るタレントであることは、今さら言うまでもないだろう。
不思議とチームは、持てる実力通りの結果を残してきたわけではない。1年時の高校選手権は3回戦敗退。2年に進級してからも、インターハイでは準々決勝でその行く手を阻まれ、再び挑んだ高校選手権では初戦で姿を消している。全国のステージでは、まだ明確な果実を手にするには至っていなかった。
今年は高校生活ラストイヤー。“二枚看板”以外にも能力の高い好選手が揃い、プリンスリーグ九州でも無敗で首位をキープ。インターハイの県予選もライバルたちを次々となぎ倒し、代表権を獲得。悲願の日本一を掲げ、真夏の徳島に確かな自信を持って乗り込んできた、はずだった。
タイムアップのホイッスルが鳴ると、赤い選手たちはうつむいた顔をなかなか上げられない。プレミアリーグで戦う大阪の履正社高校と対峙した、2回戦最大の好カード。スコアこそ0-2ではあったものの、ほとんどチャンスらしいチャンスを作り出せないような、神村学園にとってみれば文字通りの完敗だった。
取材エリアに現れた大迫は、悔し涙が止まらない。絞り出すように発した「もっとやりたかったです…… 情けないです……」というフレーズに、この試合に、この大会に懸けてきた想いと、それゆえに突き付けられた結果への落胆が凝縮されていた。
常に注目を浴びる中でプレーし続ける重圧は、周囲が想像し得るものではない。その上、リーダーとして個性派揃いのチームメイトをまとめる役割も担っているだけに、敗退の責任を一身に背負うような発言ばかりが口を衝く。
チームはコロナ禍の影響で、大会直前にも全体トレーニングがままならない状況だったという。彼らを間近で見守り続けてきた有村圭一郎監督は「言い訳になりますが」と前置きしながら、「隔離されていた人間もいますし、コンディションが良くなかったのはあったと思います」と選手たちを思いやったが、「もちろんコンディションは100パーセントではなかったですけど、それはどこのチームも一緒だと思うので、言い訳にしたくないです」と、キャプテンはその影響を認めようとしなかった。
その言葉を待つ報道陣に向かって、大迫が噛み締めるように言い切った決意が、徳島の真夏の熱気と溶け合う。「こんな想いは絶対にしたくないです。もっと死に物狂いになって、もっと勝利に貪欲になって、最後は絶対に勝ちます。もうこんな想いはしたくないです」。
この日の涙を、どう結果に結び付けていくのか。神村学園の14番にも、その覚悟が問われている。
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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