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試合が面白くなるためには、両チームの(両監督の)目指すサッカーが同じ方向を向いているという場合が多い。そういう試合では、相手の良さを消すのではなく、互いの良さが引き出される展開になりやすいからである。
だが、向いている方向はまったく別なはずなのに、なぜかうまく噛み合って素晴らしい試合になることもある。
J1リーグ第22節の柏レイソル対北海道コンサドーレ札幌の試合がそうだった。
今シーズン、大方の予想を裏切って上位争いを続けている柏。リーグ戦の半分以上を消化した現在も、依然として5位という好位置に付けている。粘り強い守備と両ウィングバックの上下動。テクニックのあるマテウス・サヴィオによる精力的な動き。そして、急成長中のストライカー、細谷真大の裏への抜け出し。そうしたものが組み合わされたチームであり、何と言ってもその“ひたむきさ”が魅力だ。
柏を率いるネルシーニョ監督はJリーグの黎明期から日本で活躍する名将の一人だ。さまざまな戦術を駆使して選手たちの能力を最大限に引き出す。しかし、昨シーズンはチームに活力を与えることに失敗してしまって心配させたが、今シーズンは選手たちの気持ちを一つにしてスタートダッシュを成功させた。
一方の札幌は、21試合を消化して14位と苦戦が続いている。
チームを率いるのはミハイロ・ペトロヴィッチ監督。サンフレッチェ広島や浦和レッズを率いてきた名将だ。
どのチームでもスリーバックを採用し、ボランチが最終ラインに落ちてセンターバックの2人が攻撃に参加する独特の攻撃的サッカーを展開する(日本では「ミシャ式」と呼ばれる)。勝負弱いところもあるが、いつでも素晴らしいチームを作る監督だ。最近は「俺ももう65歳」が口癖だが、柏のネルシーニョ監督は71歳なのだから、あまり老け込んではいられないだろう。
そして、実はこの2人、Jリーグにおける外国人監督として勝利数で1位と2位で競っているライバル同士でもある。つまり、この試合はJリーグを代表する外国人監督同士の対戦であり、また、攻守にひたむきな柏と攻撃志向の強い札幌という異質なチーム同士の対戦でもあったのだ。
ホームの柏は、過密日程の中で戦っていた。
7月10日に第20節のサガン鳥栖戦があり、13日には天皇杯4回戦でヴィッセル神戸と対戦。そして、16日が札幌戦。つまり、中2日の3戦目だった。しかも、天皇杯も含めて、この3試合をほとんど同じ先発メンバーで戦っていたのだ。札幌戦での先発は、天皇杯の神戸戦とは1人(武藤雄樹)を細谷に変えただけだった。
暑い時期でもあり、当然、コンディションが良いわけではない。一方の札幌は天皇杯は3回戦ですでに敗退していたから、前節から中5日での試合だった。コンディション的には、明らかに札幌有利だった。
さて、試合は意外な形で始まった。
開始直後に札幌が攻撃を仕掛けてオフサイドになった後だった。柏のスリーセンターの中央にいた上島拓巳が蹴り込んだロングボールが札幌のペナルティーエリア前でバウンドするところを、走り込んだ左のウィングバック三丸拡が合わせて飛び出してきたGKの菅野孝憲の頭上を越すループシュートを決めたのだ。
「相手が前がかりにボールを奪いに来たときに逆を取ること」は、試合前から狙っていた形だという。そして、実際に三丸の走り込みに対して札幌は無防備であり、また上島にキックも非常に精度よく三丸の前でバウンドした。
こうして、ホームの柏がキックオフから2分40秒で先制ゴールを決めた。
結局、この試合ではこのゴールが唯一の得点となった。開始早々の先制ゴールを柏が守り切り、札幌が攻撃を仕掛けたものの得点に結びつけられなかった試合……。こうして言葉で表現すると、あまり面白そうには思えないのだが、しかし、実際にスタンドから見ていると変化に富んだ攻防が繰り返される試合だった。
柏が先に点を取ったことによって攻撃志向の札幌が攻めに集中。攻守に粘り強く戦う柏がしっかりと守るという構図になったことで、互いに準備してきたものが表現されたのが好試合につながったのかもしれない。
札幌の攻撃は、まさにペトロヴィッチ監督らしさが満載だった。
セントラルMF(宮澤裕樹と荒野拓馬)のどちらかが最終ラインに落ちて、スリーセンターの真ん中の岡村大八と組んでセンターバックとなり、左右のセンターバックは外に開いて攻撃に加わる。これで、攻撃の正面を大きく左右に開いて相手陣内にスペースを作るのだ。広島時代から、お馴染みの「ミシャ式」である。
そして、左サイドではCBの高嶺朋樹が縦に走ってサイドハーフの青木亮太などと絡んでいくのに対して、右サイドではCBの田中駿汰がさまざまな位置を取って相手のマークをはずして攻め上がる。この日は前半の15分で右ウィングバックの金子拓郎が負傷して西大伍に交代していたが、田中と西の間にはまた特別な空気感が漂っていたように感じた。
田中の位置取りは、タッチライン沿いでのオーバーラップだけではなく、トップ下でのプレーもありまさに“神出鬼没”だった。
さらに、後半に入るとペトロヴィッチ監督はシャドーストライカーの位置にいた駒井善成とMFの荒野拓馬のポジションを逆にした。駒井が後方のプレッシャーの小さい位置でパスをさばき、一方、前線では荒野のパワフルな動きを使ってチャンスを作ろうとしたのだ。
結局、実に多くのバリエーションを使って攻撃を仕掛け、実際、決定的に近いチャンスを作ってはいたものの、札幌右派分厚く守る柏の守備を破ることもできず、柏のGK菅野孝憲の攻守にあって無得点に終わった札幌。とくに、悔やみきれなかったのは前半終了間際に興梠がペナルティーエリアで倒された場面だろうか。遠目には反則(PK)に思えたが、清水勇人主審は反則を取らずにプレーを流し、VARも介入しなかった。
とにかく、札幌にとってはゴールは決まらず、敗戦数だけが増えた試合だったが、しかし、DFの攻撃参加が非常にスムースで、またバリエーションにも富んでいたのだから、内容的には悪い試合ではなかった……いや、今シーズンの札幌の試合の中ではかなり良い試合だったと評価すべきだろう。
札幌の攻撃を受け続けながらも、前線からの守備を一瞬も怠らなかった柏の選手たちと同様、札幌の選手達にも祝福を与えたいと思う。
大雨の予想がはずれてコンディションも悪くなく、思わぬ拾い物(好試合)となった柏対札幌の試合だった。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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