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【ハイライト動画あり】帰ってきた愛されキャラ。ガンバ大阪ユース・小幡季生が感じる“当たり前”の大切さ 【高円宮杯プレミアリーグWEST ガンバ大阪ユース×名古屋グランパスU-18マッチレビュー】
土屋雅史コラム by 土屋 雅史小幡季生
それは1点をリードしていた試合終了間際。90+2分のことだった。右サイドを崩されそうになった瞬間、その男は全速力で相手に駆け寄り、果敢なスライディングタックルでピンチを回避。しかもマイボールのゴールキックにまでしてしまうと、「しゃっっ!!」と気合の雄叫びを披露する。
すると、まるで先制点を奪った時と同じか、あるいはそれ以上に、ピッチのチームメイトが、すぐ近くにいるアップエリアのベンチメンバーが、大喜びで拍手を送り、大声でそのプレーを称える。つまりは、とにかく愛されているのだ。
「森下(仁志)監督からも『自分の感情を出せ』って毎日言われているので、今日はそういう部分でも『自分を出そう』という想いで声を出していました。まあ、僕はチームを引っ張っていくようなタイプではないですけど、ちょっと和ませるようなキャラなのかなと思います(笑)」。
ケガに苦しんできた日々のことも、今はサッカーができる喜びを感じながらプレーしていることも、チームのみんながわかっている。ガンバ大阪ユースきっての“愛されキャラ”。念願のリーグ初勝利を挙げた90分間の中で、小幡季生の闘志と笑顔が一際キラキラと輝いた。
今から3年前。中学3年間の総決算として挑んだ冬の全国の舞台、『高円宮杯 JFA 第31回全日本U-15サッカー選手権大会』でガンバ大阪ジュニアユースは日本一に輝く。ユースでもキャプテンを務める桑原陸人や南野遥海、鈴木大翔らとともに、小幡も全試合にスタメン出場。中盤のメインキャストとして栄冠を手にした小柄なファイターは、大きな期待を背負ってユースへと昇格する。
だが、小幡を待っていたのは苦難の毎日だった。「僕は高1、高2と大ケガをしたんです。1回目は左足首を手術して、復帰したらすぐまた右足首をケガして、2回目の手術をすることになって、正直だいぶリハビリもしんどかったですね」。何の憂いもなく、サッカーができる仲間がとにかくうらやましかった。
ハイライト
ガンバ大阪ユース vs. 名古屋グランパスU-18|高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ2022 WEST 第11節
迎えたユースでのラストイヤーとなる2022年。プレミアの開幕戦には先発出場したものの、その後は再び戦線離脱。結果の出ない状況を、ピッチの外から見つめる時間が続く。ようやく前節の清水エスパルスユース戦で久々にメンバー入りを果たし、後半から出場機会を得ると、チームは2点のビハインドを追い付いてドロー決着。そして、この日の名古屋グランパスU-18戦で、小幡は開幕戦以来のスタメンに指名される。
「チームが苦しい時に何もできていない自分が悔しかったですし、自分の中では『サッカーができることは当たり前じゃない』という意味も込めて、今日に懸ける想いは強かったですね」。試合開始からフルスロットル。右サイドバックの位置で献身的にプレーし続ける。
その気持ちのこもったワンプレーワンプレーに、周囲が自然と盛り上がっていく。ジュニアユース時代から小幡を知る鈴木は、その理由を笑顔で明かす。「愛されキャラです。なんかかわいいですし(笑)。でも、サッカーの時はウワーって感じで、そのギャップはあります。やっぱりケガが長くて、僕らも帰ってくるのを待っていたので、季生のプレーが見られたらみんな嬉しいんです」。
チームを率いる森下仁志監督も、彼の復帰を誰よりも喜んでいる1人だ。「季生が戻ってきたのは凄く大きいですね。どのシステムでも機能する選手で、ボランチもできるし、3バックのCBもできるし、サイドバックもできるし、何よりみんなに愛されてる。かわいいし、ああやってファイトするし、季生がカバーしたらワーって盛り上がるし、そういう存在で、アイツが今日のキーでしたね」。
相手との接触も恐れることなく、ボールを奪い切る強い意志も打ち出すがゆえに、後半には小幡の激しいタックルに相手ベンチがヒートアップしかける場面もあったが、本人はむしろ言い返すような気の強さを見せ、思わず桑原がなだめに行く一幕も。この一戦に懸ける想いが、ピッチ上にハッキリと浮かび上がっていく。
そして、冒頭のシーンだ。最終盤のピンチにも身体を投げ出し、きっちり危機を脱出してみせる。誰よりも頑張ってきた男の、魂あふれるプレーなのだから、それは仲間が沸かないはずがない。結果は1-0。相手の攻撃を無失点に抑え、とうとう手繰り寄せた今シーズンのリーグ戦初白星。その歓喜の輪の中には、充実感に満ちた笑顔を咲かせる小幡の姿があった。
ほぼ2年間に及んだ度重なるケガを経験したことで、小さくない気付きがあったという。「大きなケガをしたことで、歩けるのも当たり前じゃないし、走れるのも当たり前のことじゃないと思いました。そこからいろいろな人のサポートがあって、今の自分があるので、家族も含めたそういう方々に感謝したいです」。
見過ごしがちな“当たり前”の大切さを、支えてくれる周囲の方々への感謝を、1つ1つ噛み締めながら、改めて最高の仲間たちとボールを蹴ることのできる喜びの中で、日々のトレーニングに取り組んでいる。
ようやく手にした勝利を経て、ここからの目指すべきところを問うと、なかなか欲張りな答えが返ってくる。「もっとチームを勝たせられるように頑張りたいですね。チームのために走って、ボールを奪って、盛り上げて、というところはしっかりやっていきたいです」。
でも、深く考える必要はない。いつも通りに全力で走って、ボールを奪えば、自然とチームは盛り上がっていく。なぜなら、みんなわかっている。小幡のキャラクターも、抱えてきた想いも、何より大好きなサッカーと真摯に向き合っている、そのまっすぐな姿勢も、全部。
小幡季生
文:土屋雅史
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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