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6月シリーズ4試合目 チュニジア戦
チュニジアは、12日間で4試合目だというのに、実にタフに戦った。
狙いは日本の中盤でのパスの分断だった。日本のストロングポイントは遠藤航をアンカーに置いたMFの3人。アジア最終予選でそのことは明らかだった。
そこにプレッシャーをかけて日本のパス回しを遅らせることができれば、日本の攻撃力は半減する。
とくに、日本は最終ラインでボールを奪うと、必ずと言っていいほど遠藤航を経由してボールを運ぶ。だから、「そこを狙う」べきなのだ。そこでボールを奪えれば、日本の最終ラインは裸にされてしまう。そして、チュニジアの選手たちはその守備プランに忠実にプレーを続けた。
左から原口元気、遠藤航、鎌田大地
一方、日本側では中盤が万全ではなかった。
アジア最終予選では遠藤をアンカーに守田英正と田中碧が組んでいたが、6月シリーズでは守田が欠場。そして、森保一監督は「いろいろな組み合わせを見ておきたい」ということで、田中も先発からはずして、インサイドハーフに鎌田大地と原口元気を起用した。鎌田はトップ下タイプであり、原口は守備でも貢献できる選手だが、もともとはFWである。
ゴールを狙う鎌田大地
こうして、チュニジアが狙いを定めていた遠藤は、いつものようなサポートを受けられずに孤立することになった。
しかも、遠藤は6月シリーズでは全試合先発しており、かなり疲労した状態だった。
遠藤は、昨年夏にはオーバーエイジ枠で東京オリンピックに出場。それが終わると、シュトゥットガルトのキャプテンとして「残留争い」という厳しい状況の中でプレーを続けた(そして、自らのゴールで「残留」を決めてみせた)。そして、短い休みを経て6月シリーズでフル回転していたのである。
こうしたいくつもの要因が絡まって遠藤がボールを奪うのではなく、「遠藤がボールを奪われる」といういつもとはまったく逆の展開となってしまったのである。
こうして、チュニジア戦は「現在の日本代表で中盤の3人がいかに重要か」ということを再認識させられる試合となったのだ。
田中碧とチュニジア代表で 10 番を背負う MF ハンニバル・メイブリ
後半開始とともに原口に代わって田中が登場すると、この問題は解決した。
田中が、自由にポジションを変えて相手のマークからはずれた位置に立って、遠藤から(あるいは最終ラインから)パスを引き出し、それをワンタッチで散らすことによって、チュニジアのプレッシャーがかからなくなったのだ。
もう一人、遠藤と同じように東京オリンピックからプレーを続けて疲労を溜め込んでいたのが吉田麻也だった。
所属のサンプドリアでは出場機会が減っていたものの、代表での吉田は素晴らしいプレーを見せたが、吉田も4試合をフル回転でプレーした。
日本の中盤がうまく機能しなかったため、チュニジアはトップの選手に再三にわたって良いボールを供給。吉田と板倉滉のセンターバックの負担は普段より大きくなり、その結果として吉田のミスという形で失点することになってしまったのだ。
吉田麻也が与えた PK を決められ先制を許す
チュニジアの日本対策が効を奏して、日本は完敗を喫してしまった。そしえ、日本代表の課題がいくつか明らかになった。
まず、中盤をコントロールすることが日本の生命線だということ。そのためには、遠藤が万全の状態でプレーすることと、それをサポートする田中(または守田)の存在が需要だということだ(チュニジア戦でも、後半に田中が入って立て直しが成功した)。
チュニジア戦では初めてベンチに入ったものの、6月シリーズでは冨安健洋はプレーできなかった。しかし、板倉の成長で冨安のポジションはカバーできることも明らかになった。ワールドカップ本大会で冨安が万全の状態で戻ってくれば、吉田、冨安、板倉の3人でCBのポジションを回すことによって疲労を分散することもできるだろうし、板倉がCBでプレーできれば、冨安を右SBで起用するオプションも現実味を帯びる。
長友佑都
酒井宏樹不在の6月シリーズを通じて、サイドバックの選手層も厚くなった。
ブラジル戦で長友佑都が右SBとして素晴らしいプレーを披露。また、ガーナ戦では山根視来が堂安律、久保建英とのパス交換から抜け出して、いつも等々力陸上競技場で見慣れているような見事なゴールを決めた。攻撃力と言う意味では、山根も非常に魅力的だ。
左サイドでは伊藤洋樹も代表に相応しいプレーを見せたことで、サイドバックも様々なオプションが生まれた。
浅野拓磨
攻撃陣、とくに大迫勇也不在の中でのワントップ争いが注目されたが、ここは回答は出なかった。浅野拓磨がパラグアイ戦で先制ゴールを決め、チュニジア戦でも落ち着いたプレーを見せたが、古橋亨梧、前田大然のセルティック・コンビには十分なプレー時間は与えられなかった。また、上田綺世は負傷で離脱という結果に終わり、まったくインパクトを残せないまま終わった。
そのため、ワントップ争いは「大迫の復活」も含めて、結論は持ち越しのままに終わった。
一方、サイドアタッカーはブラジル戦では伊藤純也や三笘薫のドリブルがまったく通用しなかったが、他の3試合では十分に通用した。本大会でも十分な戦力として期待できるだろう。伊東、南野に加えて堂安、三笘もいてサイドは激しいポジション争いとなるはずだ。結局は「誰が最も良いコンディションで11月を迎えられるのか」という争いになるのだろう。
南野拓実がゴールネットを揺らすがオフサイドの判定
6月シリーズを通じて層の厚さを増した日本代表だったが、4試合目(チュニジア戦)で吉田と遠藤という中心選手が疲労のためにパフォーマンスを落としてしまったことは大きな問題だ。ワールドカップで目標の「ベスト8進出」を実現するためには、4試合目をしっかりと戦わなければならない。2試合目までにグループリーグ突破を決めて3試合目でターンオーバーを使えれば一番いいのだが、それはかなり難しい。そうなると、毎試合2人、3人ずつメンバーを変えてローテーションを駆使して戦うしかない。
昨年の東京オリンピックで、森保監督は準々決勝進出がほとんど決まっていたにも関わらず、3戦目のフランス戦もベストメンバーで戦った。そして、疲労を溜め込んだ日本代表は準々決勝でニュージーランド戦で苦しみ、準決勝ではスペイン相手によく守ったものの、最後に耐えきれずに敗れてしまった。
原口元気
ワールドカップでは、うまくローテーションを使うべきだろう。
MF遠藤の負担を軽くするためには、守田、田中、原口などの使い方が大切になる。また、最終ラインの吉田の負担を減らすためには、板倉をどう使うかがポイントとなる。板倉は遠藤に変えてボランチを任せることも可能なので、もしかしたら、板倉というジョーカーがワールドカップでの成功のカギとなるかもしれない。
観客数 31,292 人。スタジアムには多くの日本代表ファンが足を運んだ
文:後藤健生
写真:Noriko NAGANO
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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