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山根視来のゴールで日本が先制
中3日の4連戦の3戦目……。ワールドカップでいえば、グループリーグ最終戦に当たる試合だった。
「ワールドカップのシミュレーション」とはいえ、ヨーロッパがオフシーズンに当たる6月は選手たちのコンディションが万全ではないので、選手たちに連戦を強いるわけにもいかない。そこで、森保一監督は6月シリーズの1戦目(パラグアイ戦)と2戦目(ブラジル戦)で大きくメンバーを変えた(2戦連続先発は吉田麻也、遠藤航、原口元気のみ)。そして、3試合目のガーナ戦では再び大きくメンバーを変えた。吉田と遠藤は3試合連続先発となったが、今シリーズ初登場の上田綺世やパラグアイ戦で20分ほどのプレーしただけだった久保建英を先発で起用した。
吉田麻也
まずはっきりしたのは、吉田と遠藤はどんな試合であれ、(コンディションさえ十分ならば)先発をはずれることがない絶対の存在であること、だ。
そのことは、世界最強のブラジル攻撃陣相手のパフォーマンスを見れば当然のことだ。吉田は余裕を持って(ブラジルの攻撃を読み切って)守れていたし、遠藤も中盤でブラジルの攻撃を遅らせ、また奪えるところではボールを奪って見せた。ブラジルのボランチ、カゼミロと互角の勝負だったと言ってもよかった(PKを与えたプレーも反則かどうか、かなり微妙だった)。
遠藤航
そういう状況を考えれば、ガーナ戦で先発した選手たちにとっては、吉田と遠藤を除いて全員がワールドカップ・メンバーとして生き残れるかどうか、あるいは先発の座をつかめるかどうかの当落選上の選手が多かったのだ。
たとえば、ロシア・ワールドカップでは攻撃の中心として活躍した柴崎岳。アジア最終予選でも当初は森保監督の厚い信頼を得ていたが、サウジアラビア戦での失点につながるミスがあってからは、主力の座を奪われてしまった。柴崎にとって、ガーナ戦はメンバーに生き残り、レギュラーの座を取り戻すための重要な試合だった。
そのテクニックと将来性については誰もが認める久保は、代表ではフィットしない試合が続き、先発出場の機会もあまり与えられない。メンバー入りを確実にして出場機会を増やすためには、この試合で大きくアピールする必要があった。
そして、大迫勇也不在の6月シリーズで注目を集めるワントップ争い。浅野拓磨はパラグアイ戦で先制ゴールを決めたものの、決定的な仕事はできていなかった。その後、トップを任された前田大然も、ブラジル戦で先発起用された古橋亨梧も満足すべき結果は出せてない。
上田綺世
そして、ガーナ戦では上田が満を持して起用された。
結果としては柴崎も、久保も、上田も悪い出来ではなかった。
柴崎岳
柴崎はミスはほとんどなく、若い選手たちが走り回る中でうまくバランスを取っていた。「さすがはベテラン」と膝を打つ場面も何度もあった。久保は、跳ね飛ばされても跳ね飛ばされても、90分間果敢に守備のために献身的に走り回った。右サイドで堂安とポジションを入れ替えながら、攻撃の形も作ったし、そして、三笘薫のお膳立てで代表初ゴールも決めてみせた。
だが、「卒なくプレーする」とか「悪くはなかった」では、レギュラーの座をつかむための強いアピールにはならない。
なぜなら、ガーナとはチーム力に差があったからだ。
三笘薫
もちろん、ガーナはワールドカップ出場国だ。それほど力の差があるはずはない。だが、少なくとも神戸で戦ったガーナには移動の疲れも残っていただろうし、また、コロナ・ウイルス感染の陽性者が出たこともあって控え選手がわずかに5人(うち1人はGK)という状態だった。
日本が終始ボールを握って戦う展開の中で「悪くはない」程度のプレーでは森保監督も満足しないだろう。
久保建英
何か決定的な仕事をする必要があった。あるいは、結果につながらなかったにしても「トライする姿勢」くらいは見たかった。
柴崎であれば、ゴールに直結するような(柴崎にしか出せないような計算しつくした)スルーパスがほしかった。久保であれば、そのテクニックを生かして複数の相手を置き去りにするようなドリブルがほしかった。
上田であれば、上田らしい強烈なシュート。あるいはヘディングでの競り合いの強さを見たかった……。
南野拓実
試合の終盤には田中碧や伊東純也、南野拓実といった、アジア最終予選でレギュラーとしてプレーしていた選手が投入された。すると、60分ごろから停滞してしまっていた日本の攻撃に勢いが戻ってきたのだ。田中は投入された直後に左サイドで三笘と連携してビッグチャンスを作ったし、伊東も登場してすぐに前田のゴールをアシストした。
前田大然がゴール
つまり、ガーナ戦でアピールのチャンスを与えられた選手の多くは、「チャンスをものにした」とは言い難かいのである。
そんな中で気を吐いたのがパラグアイ戦に続いて右サイドバックで起用された山根視来だった。
右インサイドハーフの久保やサイドハーフの堂安という、初めて組むメンバーとは思えないようにスムースにパス交換しながら、再三相手陣内深くまで攻めあがった。川崎フロンターレで家長昭博と組んでいる時と同じようなスムースな動きだった。
ブラジル戦で攻撃が機能しなかったのは、2列目、3列目からの攻撃参加がなく、前線が孤立してしまったからだ。唯一あったとすれば前半36分に長友佑都がボックス内深くまで飛び出してクロスを入れた場面だった。
山根視来
その長友を意識したのか、山根は攻撃面でのトライをし続けた。そして、29分に堂安や久保と絡みながら相手ゴール前に飛び出して、見事に先制ゴールを叩き込んだのだ。結果としても素晴らしいし、何よりも山根は「トライする姿勢」を見せてくれた。
もちろん、前半44分にプレッシャーがかかった場面でもないのに決定的なパスミスをして唯一の失点の原因を作ってしまったのは山根にとって大失態ではあったが、それも単なるクリアではなく、味方につなごうとしたトライの結果でもある。
大きな減点はあったものの、ガーナ戦で最も評価を上げたのは山根だったのではないだろうか。長友の右サイド起用も成功したことで、ポジション争いは激しさを増しているのだが……。
4-1で日本が勝利
文:後藤健生
写真:Noriko NAGANO
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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