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サッカー フットサル コラム 2022年4月15日

敗者の収穫。勝者の悔恨。プレミアリーグというステージで戦うことの意味 【高円宮杯プレミアリーグEAST 静岡学園高校×サガン鳥栖U-18】

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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「選手は最後まで本当に頑張ってくれていたので、そこは良かったです。逞しさを凄く見せてくれましたし、あれだけやれるんだというところを見せてくれた選手たちに感謝したいと思います」(サガン鳥栖U-18・田中智宗監督)

「非常に“ガクエン”らしくない、何もできなかった試合でした。我々の技術のなさが非常に分かりましたし、それは選手たちも分かっていると思うので、改善していくしかないですね」(静岡学園高校・川口修監督)

これをパッと見ただけで、前者が負けたチームの、後者が勝ったチームの指揮官が発した言葉だとは、多くの方が思わないのではないだろうか。静岡学園が鳥栖U-18に2対0で勝利した一戦には、リーグ戦の、しかもプレミアリーグという年代最高峰のステージで戦うことの意味が十二分に詰まっていた。

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試合が大きく動いたのは、後半開始早々のワンプレーだった。ドリブルで仕掛けた静岡学園のストライカー神田奏真が、ペナルティエリア内で鳥栖U-18のCB竹内諒太郎と交錯して転倒すると、主審はPKを指示。さらに竹内にはレッドカードが提示され、先制を許した鳥栖U-18はビハインドを負った上に、45分近い時間を10人で戦うことになる。

だが、彼らのメンタルは折れないどころか、ここから強烈な反発力を披露する。「10人になって『ボールを動かせないかな』と思ったんですけど、前半よりもたぶん動いていて、後ろから見ても良い攻撃ができているかなと思いました」と話したのは、竹内の退場後にボランチからCBへとスライドした坂井駿也。4-3-2という強気のシステムで、前からプレスを掛け続ける。

68分には既にJ1での出場経験を有するキャプテンの福井太智がスルーパスを通し、オーバーラップしてきた左SBの北島郁哉が放ったシュートはGKを破るも、懸命に戻った静岡学園のキャプテン行徳瑛が間一髪でクリア。71分には楢原慶輝のクロスに、ニアへ飛び込んだ堺屋佳介のシュートがクロスバーを叩く。

決定機を外した鳥栖U-18・堺屋佳介。この悔しさが明日への活力になる

さらに74分には、GKの栗林颯が蹴り込んだフィードに抜け出した堺屋がループシュートを狙うも、軌道はわずかに枠の上へ。84分にも福井の右FKに北島がドンピシャでヘディング。ボールはクロスバーを越えたものの、相次いで決定機を作り続ける。

最後は90+6分に2失点目を喫し、0-2で敗れる形になったが、「結果は負けたんですけど、収穫はあった試合だったと思います」と坂井が話せば、「僕らはいつも選手とスタッフで『個人の成長がチームの成長だ』と話をしているので、『勝つだけでいいのか』というところもありますし、当然それぞれが成長することで勝つ確率を高めていこうといつも話しているので、今日は相手の方が上回る部分もたくさんありましたし、本当に良い勉強をさせてもらいました」と田中監督も言葉を紡ぐ。負けて、なお強し。鳥栖U-18にとっては実りの小さくない90分間だったと言えそうだ。

「鳥栖は今までこのチームが体験したことのないような強度でやってきて、後半の早い段階で相手が1人退場して、先制して、という状況だったにも関わらず、押し込まれる時間があったので、自分たちは上手さで剥がして、数的優位で攻め込む時間を作らないといけなかったですし、そこは反省点として生かしていかないといけないと思います」と行徳が話したように、静岡学園にとってみれば苦い白星だったことは間違いないだろう。

数的優位の状況こそ、まさに彼らが技術で圧倒的できるシチュエーション。だが、なかなか相手のプレッシャーを剥がし切れず、まともに前へのベクトルを食らい続ける格好に。「相手が前から来ているのに対して、最終ラインからのビルドアップで、パスがダメならドリブルで侵入すればいいのに、相手は我々が考えていた以上に非常に能力が高かったことと、彼らもあのプレッシャーを体感していないので、全部そこで引っ掛けられましたよね」とは川口監督。試合後はとにかく悔しそうな表情を浮かべていたことが印象的だった。

昨シーズンの静岡学園にとっての転機は、8月のインターハイ準決勝。青森山田高校にシュートを1本も打たせてもらえず、0-4という完敗を突き付けられたが、世代トップの強度をピッチで体感したことで、目指すべき“基準”を手に入れた選手たちは、日常の目線を上げ続け、チーム力を大きく伸ばすことに成功している。

そう考えれば、この日はまだリーグ戦の2試合目。納得のいかない勝利から得た教訓を生かすステージは、十分過ぎるほどに残されている。

「これを4月の段階で彼らが体感したので、それは個人としてもチームとしても良かったですね。この強度でやることで、選手たちも気が付き、練習の質が上がることで、成長のスピードが非常に速くなるのかなと思います」(川口監督)「みんなの意識次第ですけど、基準がグッと上がるかなって。課題しか出ないような試合の中でも気付ける部分もありましたし、これはさらにチームが大きくなるチャンスなのかなと思います」(高橋隆大)

敗れた中での収穫を、勝った中での悔恨を、彼らは次の日からのトレーニングにぶつけていくことができる。これこそがリーグ戦というシステムの醍醐味。それがプレミアリーグというハイレベルな環境の中で循環されていく。

トーナメントか、リーグ戦か。そんな“二択”はもう議論される時代ではない。多くの方の尽力でリーグ戦文化が確実に根付いてきた、日本の高校年代の進化を感じ取れるような、非常に興味深い一戦に立ち会えたことに心から感謝したい。

 

文 土屋雅史

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土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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