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12月初めにJリーグが終了。例年であれば1月1日の決勝戦に向けて天皇杯全日本選手権大会が盛り上がるのだが、今シーズンは2022年1月下旬にワールドカップ・アジア最終予選が予定されており、日本代表の準備のために天皇杯の決勝戦は12月19日に繰り上げられた。
しかし、12月から1月にかけては男女の各年代別大会などのさまざまな試合が行われている。
もちろん、Jリーグ=プロの試合に比べれば競技のレベルが低いことは否めない。だが、それぞれのカテゴリーの中でも好試合もある(もちろん、そうでない試合もある)。
そんなさまざまなカテゴリーの試合を毎日観戦していると、思わぬ“拾い物”の好試合に出会ったりもするのだ。前回のこのコラムで取り上げたU−15女子選手権決勝がそうだった。ある意味で、あの試合はWEリーグはもちろん、J1リーグの平均程度の試合より面白かったかもしれない。
そして、暮れも押し詰まった12月29日に出会った“拾い物”は、フットサルの全国リーグFリーグのペスカドーラ町田対名古屋オーシャンズの試合だった。
名古屋は、フットサル界の「絶対王者」的存在である。今シーズンも19試合を終了した時点で2位のバサジィ大分に勝点6の差を付けて首位を固めていた。大分がまだ3試合を残しているので数字的には優勝は決まっていないが、優勝決定は時間の問題だろう。
しかし、4日前の名古屋ホームの試合では両チームは3対3で引き分けており、「最近調子が上がっている町田にも勝機があるんでは」と期待された試合だった(25日の試合が第20節。29日の町田ホームの試合は第9節の延期分)。
試合は、意外な展開の連続だった。
まず、キックオフから39秒で名古屋が先制ゴールを決め、さらに3分34秒、5分08秒と名古屋があっという間に3点を先取したのだ。
前線からの激しいプレッシングで町田の選手はボールを奪われたり、名古屋のスピードのある展開に完全に後手に回ってしまっていた。町田は若い選手が多いこともあって、完全に浮足立っているように見えた。「このままでは、何点取られることか」とも思われた。
ところが、その後、名古屋はなかなか追加点を奪えなかった。
一つには、3点をリードした名古屋がゲームを落ち着かせようとしたからでもある。前日にもシュライカー大阪との試合があって連戦だった名古屋としては「3点のリードを守っておけば」という気持ちがあったのかもしれない。
また、立ち上がりに浮足立っていた町田も時間の経過とともに落ち着きを取り戻してきた。町田の指揮を執るのはスペイン人のルイス・ベルナット監督だが、3失点目を喫した時点で速めのタイムアウトを取って、まず選手たちの気持ちを落ち着かせることに成功。さらに、戦術的にも名古屋の選手に対して距離を縮めて(しかし、無理にボールを奪いに行かずに)相手のパスコースをチェックすることによって、試合の主導権を取り戻させたのだ。見事なゲームコントロールだった。
一方、ゲームを落ち着かせようと思ったはずの名古屋の選手に次第に苛立ちの色が濃くなっていった。審判の判定に不満を溜めたのだ。「誤審」ではないのだが町田の激しいプレーがファウルにならない場面が重なり、さらに自分たちのファウルも増えていった。14分30秒には名古屋のファウル数は5つに達した(次のファウルからは町田に第2PKが与えられることになる)。
町田は16分59秒に倉科亮佑のボレーで1点を返すと、17分27分に実際に第2PKが与えられて、1点差に詰め寄ることに成功。すると、直後に接触プレーを巡って荒れた場面で、名古屋の守備の要であるアルトゥール・オリヴェイラが一発退場を喫してしまったのだ。
後半に入ると両チームともに冷静さを取り戻して、ハイレベルの攻防が続いたが、そこには浮足立っていた前半立ち上がりの町田の姿はなかった。しっかりした守備で名古屋に自由を与えず、24分28分から26分56秒までの2分半ほどの間に3点を決めて逆転に成功。その後も名古屋の反撃をパワープレー中の1点のみに抑えて、強豪名古屋を相手に大逆転勝利を決めたのだ。
試合のフェーズ毎に両チームの戦術や心理状態の変化によってゲーム内容が変わる、非常にエキサイティングな試合だった。
どんな競技にも「試合の流れ」というものはある。だが、フットサルの場合は11人制のサッカーと比べると、そうした試合の流れの変化が非常にはっきりしている。小さなピッチの中で選手と選手の距離感が近い状況で速いパスをやり取りするので、ちょっとしたミスが大きな影響を与えるからなのだろうか。サッカーに比べて、フットサルの方が緻密なゲームだという言い方もできる。
つまり、町田と名古屋の試合はそうした“フットサルらしさ”がはっきりと見えた試合でもあったのである
まさに“拾い物”ではあった。だが、実はこの試合はもともと期待好カードだった。4日前の試合で引き分けていたというのも試合を熱くした原因だっただろうが、さらに町田はこのところ成長著しい20歳前後の若手選手が何人もいたからだ。
フットサルの日本代表は9月のワールドカップでラウンド16に進出したが、その後、ブルーノ・ガルシア監督が退任。後任として、日本フットサル界のレジェンドである木暮賢一郎氏が監督に就任していた。その木暮監督の下で12月中旬にはトレーニングキャンプが実施されたのだが、その日本代表候補として町田から5人の選手が招集されたのだ。ベテランのクレパウジ・ヴィニシウス(34歳)のほか、20歳前後の若手4人が招集されたのだ。
本石猛裕が1999年生まれで、毛利元亮、甲斐稜人、倉科亮佑の3人は2001年生まれという若さである(毛利はすでにフットサル・ワールドカップにも出場している)。いずれも、攻撃的な選手であり、町田は彼らを使って正攻法のフットサルで戦っている。
もっとも、町田から4人の若手が選出されたことは、大きな驚きではなかった。
というのも、昨シーズンから町田ではの若い選手たちの活躍が著しく、僕としても彼らが代表に選ばれる日を心待ちにしていたからだ。
若い彼らの今後の成長に期待したい。
次の“拾い物”はどこに転がっているのだろうか……
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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