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福島県のJ-ヴィレッジ・スタジアムで開催されていたAFC U-23アジアカップの予選大会で、U-22日本代表がカンボジア、香港に対して2試合とも4対0で連勝して、2022年6月にウズベキスタンで開かれる予定の本大会出場を決めた。
U-23アジアカップ(前回大会までは「AFC U-23選手権」と呼ばれていた)は、23歳以下の代表チームによるアジアナンバーワンを決める大会だ(前年に行われる予選には、その年のU-22代表が出場する)。オリンピック開催年に開かれる大会はオリンピック・アジア予選を兼ねるが、来年の大会はオリンピック中間年の大会だから、オリンピック出場権とは直接関係はしない。
日本は、従来、この「オリンピック予選を兼ねない大会」には、次のオリンピックを目指す年齢層の選手を送り込んでいた。
たとえば、2018年1月に中国で開催された大会には、東京オリンピックを目指す世代、つまり当時のU-21代表を送り込んでいたのだ。森保一監督が就任した直後のことだ。
その、2018年の大会では日本はグループリーグは全勝で突破したものの、準々決勝ではウズベキスタンに0対4で完敗を喫してしまった。日本がU-21代表だったのに対して、ウズベキスタンは大会規定いっぱいのU-23代表だったし、しかも当時のU-23ウズベキスタン代表は2015年のU-20ワールドカップからそのまま強化を続けていた、非常に完成度の高いチームだったからだ(実際にこの時の大会ではウズベキスタンが優勝を遂げた)。
ところが、次回、2022年のU-23アジアカップに向けては、日本も方針を転換して、23歳、22歳の選手も含めたチームを派遣することになり、今回の福島県で開かれた予選でもU-20代表(2001年以降の生まれ=パリ・オリンピック世代)をベースにしているものの、21歳、22歳の選手が4人含まれていた。
大きな理由は新型コロナウイルス感染症の影響である。
感染症の拡大によって、東京オリンピックは1年延期となったが、2021年に開催予定だったU-20ワールドカップとU-17ワールドカップは中止になってしまった。
パリ・オリンピックを目指す世代の選手たちは、U-20ワールドカップという舞台で世界のトップクラスと公式戦を戦うという貴重な経験の場を失ってしまったのだ。たとえば、2018年のU-23選手権に出場したチームは、前年に韓国で開催されたU-20ワールドカップに出場して世界のトップクラスと対戦したことのある選手が多く含まれていた。
もちろん、その間にもU-20日本代表は国内で合宿を行い、練習試合も積み重ねてきた。しかし、実戦経験を積めていないのだ。その意味でも、上の世代の選手も入れて、強いチームを作る必要もあったのだろう。
そんなわけで、今回開かれた予選大会はパリ・オリンピックを目指すチームの第1歩という位置づけの大会として注目を集めた。
さて、日本はカンボジアと香港に連勝して予選突破を決めたのだが、初戦のカンボジア戦を見るとかなりミスも多くて、不安も広がった。
今回の予選に出場したチームを見ると、半田陸、藤田譲瑠チマ、松岡大起、畑大雅など守備的なポジションの選手の中にはJリーグでもお馴染みの選手がそろっていた。それに引き換え、攻撃陣は手薄な印象を受けていた。
ところが、カンボジア戦ではその肝心の守備面で不用意なミスが発生したのだ。
カンボジアはチーム力としては日本より劣っていたが、しかし、たとえば、ワントップに入ったシエン・チャンテアは小柄だがテクニックがあり、意外性のあるプレーをする選手だったし、左のインサイドハーフで10番を付けたリム・ピソットはDFとMFの間のスペースを上手く利用してパスを引き出し、ドリブルでの突破も見せる好選手だった。
日本が、中盤や守備陣のミスによってボールを奪われると、攻め込まれる場面も何度かあった。もっと強い相手だったら、失点してしまっていたかもしれない。
だから、4ゴールは奪っての快勝ではあったものの、不安材料はかなりあった。
しかし、中1日で迎えた予選最終日の香港戦では、そうした危険な場面は一切作らせず、非常に安定した戦いをできた。前半の14分に畑大雅のクロスから藤尾翔太のヘディング先制ゴールを奪ってから、後半立ち上がりの追加点までかなりの時間がかかったのが問題だが、それでも焦らずにプレーした日本が、危なげなく予選突破を決めた。
カンボジア戦と香港戦では、日本チームは先発メンバーをほとんど入れ替えた。
実は、U-22日本代表チームにはJリーグでレギュラーとしてプレーしている選手がかなりいる。数年前までは「U-20代表選手のほとんどがクラブで出場機会を得られていない」と言われていたことを考えれば隔世の感がする。
だが、こうした状況はチーム作りとしては難しい条件にもなる。
今回のメンバーのうち、直近の週末にJリーグに出場していた選手が10人もいたのだ。DFの馬場晴也(東京ヴェルディ)や松岡大起(清水エスパルス)、郷家友太(ヴィッセル神戸)の3人は日曜日に行われた試合にフル出場した後、月曜日になって、U-23代表に合流したのだ。当然、火曜日に行われたカンボジア戦に彼らを先発させることはできない。もちろん、土曜日に試合があった選手たちも、万全の状態ではなかったろう。
こうして、フルメンバーが使えず、また全員が揃った状況でのトレーニングがほとんど出来なかったこともあって、カンボジア戦はミスの多い試合になってしまったのだ。
しかも、火曜日は低気圧の影響で福島県地方も強風に見舞われ、前夜から降っていた雨によってJ-ヴィレッジ・スタジアムのピッチはかなり軟弱になってしまっていたし、後半には再び雨が降り始め、日本代表は向かい風と雨に悩まされたのだ。
こうした、いくつかの悪条件が日本にミスが多くなった原因だったのだろう。もちろん、これくらいのことでミスしていては国際試合は戦えないが、けっして完成度の高いチームではないだけに、悪コンディションの影響が大きかったのだろう。
しかし、木曜日に行われた香港戦ではJリーグでフル出場していた選手のコンディションも戻り、さらに好天に恵まれてピッチコンディションもカンボジア戦よりはかなり改善されていた。しっかり、リスク管理をしながら、90分を通して安定して戦い、4点を奪った試合運びも見事なものだった。
この原稿の前半でも述べたように、現在のチームはどちらかと言えば、守備的なポジションにJリーグのレギュラークラスが揃っているので、攻撃には不安があった。
だが、蓋を開けてみればカンボジア戦では右サイドアタッカーの甲田英將(名古屋グランパスU-18)や攻撃的MFの松木玖生(青森山田高校)、左サイドの佐藤恵允(明治大)などが活躍した。甲田、松木は18歳の選手たちだ。つまり、攻撃陣では、こうしたJリーグ所属ではない選手が活躍。ワントップでも細谷真大(柏レイソル)や藤尾翔太(水戸ホーリーホック)などそれほど有名ではない選手たちが活躍した。そして、香港戦ではMFの松岡大起や郷家友太などのJリーグ組がさすがのぷれーを見せた。
チーム事情によって今回招集されていない選手も多く、伸びしろも大きいと言える。2試合を終わってみれば、パリ・オリンピックに向けて期待の高まる2試合だった。
ただ、今回戦った相手は格下ばかり。本大会に向けては(あるいは、2024年に向けて)、レベルの高い相手との試合をどれだけ組めるかが勝負になるのではないか。U-20ワールドカップで経験するはずだった国際試合の経験を取り戻さなければいけないのだから。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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