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10月8日の金曜日にFリーグの第8節、Y.S.C.C.横浜対湘南ベルマーレの試合を観戦に行った。フットサル・ワールドカップによる中断明けのFリーグの再開初戦。いわゆる「神奈川ダービー」でもあった。
試合開始は19時30分だったが、試合の前に何度か行ったことのある近くの中華料理店で腹ごしらえをしようと思って会場の横浜武道館の前を通ったら、なんと入口に行列ができているではないか! 開場が「60分前」だからなのだが、Fリーグの会場でこんな行列を見るのは久しぶりのような気がする。
食事を済ませて、開始30分くらい前にアリーナに入った。結構、多くのお客さんが入っているので再び驚いた。公式入場者数は645人。約3000人収容のアリーナだから、もちろん満員にはほど遠いのだが、今は新型コロナウイルス対策でお客さんたちが1席置きに着席していることもあって“満員感”があった。
中断明けだったこと。緊急事態宣言が解除されたこと。それに「ダービー」だったことでアウェーの湘南サポーターも多数詰め掛けたこと(アウェーファンの入場も認められた)なども、多数の観客が入った理由なのだろう。
それに、ホームのY.S.C.C.横浜は現在Fリーグ・ディビジョン1で4位と好調なのだ。昨シーズンはディビジョン1に昇格したものの、成績は11位だったチームとしては“大躍進”である。
大勢入っていたのは観客だけではない。ゴール裏付近には大勢のカメラマンがスタンバイしていた。
メディアのお目当てはY.S.C.C.横浜に入団した元サッカー日本代表、松井大輔だった。言わずと知れた、2010年南アフリカ・日本のラウンド16進出の立役者の1人である。その松井のFリーグ・デビューの姿を見逃すまいというのだろう。サッカー界では著名なフォトグラファーの顔も幾人か見えた。
“松井効果”はやはり大きかったようだ。
フットサルの全国リーグとして2007年に発足したFリーグは、一時は人気が高まり、かなりの観客動員数を記録した時期もあるが、このところ長期低落傾向が続いている。そこに、新型コロナウイルス感染症の拡大である。無観客開催を余儀なくされ、これから観客動員を回復させるのも容易ではないだろう。
松井が加入したというだけで、これだけ世間の注目を浴びるのだ。これが、これからからのFリーグの進むべき道を示しているのではないだろうか。
そういえば、対戦相手の湘南ベルマーレの方も、元Jリーガー(ベルマーレのDF)で、2018年に引退していた島村毅がフットサル・チームに加入して注目を集めている(この日の出場はなかったが)。
交代自由のフットサルは、サッカーに比べて高年齢でプレーしている選手も多い。フットサルの観客動員拡大の切り札は「いかにしてサッカー・ファンを引き付けられるか」なのだから、元Jーグのスタープレーヤーの加入は大きな効果を生むのではないだろうか。
さて、Y.S.C.C.横浜は現在4位と好調だが、一方の湘南も3位に付けている。つまり、この日の試合は「上位対決」でもあった。
ただ、試合は湘南が試合開始わずか48秒で先制し、そのまま3対1のスコアで完勝した。
面白かったのは、両チームのコンセプト(あるいはゲームプラン)が対照的だったことだ。
Y.S.C.C.横浜は、きわめてオーソドックスにプレーした。ピヴォ(FW)の菅原健太が最前線でボールを収めて、落としたボールを今シーズンからY.S.C.C.横浜に加入した若手のホープ堤優太が狙う。典型的な「ピヴォ当て」の戦術で、真っ向から攻撃を仕掛けた。
これに対して、湘南は徹底したカウンター狙いだった。
相手がピヴォに付けてくるボールに対して厳しいマンマークで奪いにかかる。そして、一気に相手ゴール前にボールを入れ、またサイドで林田フェリペ良孝がドリブルで突破を狙う。そして、Y.S.C.C.のゴレイロ(GK)田淵広史が前に出てくることも織り込んで遠目からも狙ってきたのだ。
開始48秒で、鍛代元気がカウンターから無人のゴールに蹴り込んで、湘南は早くも先制し、以後、有利に試合を進めることができるようになった。
その後、時間帯によって湘南の前戦からのプレッシャーが弱くなるとY.S.C.C.横浜の攻撃が激しくなる。再び、湘南のプレスが厳しくなる。そんな流れになっていった。
実際、後半に入ると攻撃のギアを上げてきたY.S.C.C.横浜が攻撃でリズムを作りそうになったが、ここで再びギアを上げられるところが今シーズンの湘南の強さなのだろう。Y.S.C.C.横浜が攻勢に出ていた29分50秒に、相手のキックインのボールを奪ったロドリゴが決めて、これで勝負は着いた。その後は、うまく時計の針を進めた湘南がそのまま逃げ切った。
相手のボールの動かし方をしっかり読んでボールを奪って、カウンターに徹するという試合運びは見事なものだった。
ちなみに、試合を見ていて、双方のゲームプランの違いがすぐに分かるところが、このフットサルという競技の面白さでもある。
とにかく、こうして多くの観客の前で、アウェーの湘南が見事な試合運びで湘南は完勝を見せつけたのだ。
さて、肝心の松井大輔だが、途中交代で出場したが、プレー時間は合計でも3分くらいではなかったか。現役復帰から時間が経っていないため、本人のコンディションが万全ではなかったようだし、まだチームメイトとのコンビネーションも確立されていないのだろう。
それでも、ボールにタッチする回数は多かったし、前線でゴールを狙おうという意識は強かったように見せた。
そして、面白いのは彼のフェイントのリズムやスケール感が他のフットサル専門の選手たちとどこか違いがあったことだ。フットサル特有のスピードはないが、代わりにそのフェイントに“大きさ”があったのだ。切り返しなどのスケールが大きいのだ。
今後、フットサルをプレーしていくためには、フットサル的な速さも身に着けていく必要があるだろう。だが、彼が完全にフットサル・プレーヤーになってしまってはそれも面白くない。日本代表クラスのサッカー選手らしいスケール感は失わずに、それを日本のフットサル界に広めていってほしい気もするのである。
というのは、先日のフットサル・ワールドカップで世界のトップのプレーを見ていると、一つひとつのフェイントのスピードと同時に、そのスケールの大きさが印象に残ったからだ。フェイントをかけて、抜けていくときのそのフェイントの速さと大きさ。そこに、どうしようもないような差を感じたのだ。
サッカーのトップクラスの選手のFリーグ加入は、サッカー・ファンの興味を引いて観客動員拡大に寄与するのはもちろんだが、プレー面でも今までのフットサルにはない“何か”をもたらしてくれる可能性があるのではないか。
トゥーキックによる脚の振りの小さなフットサル特有のキック技術はサッカー選手たちも見に着けるべきだし、逆にサッカー選手の持つスケールの大きなフェイントはもっとフットサルに取り入れられるべきだ。互いの良さを取り入れ合っていくことが、日本のサッカーとフットサルのレベルのさらなる向上につながっていくのではないだろうか。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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