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サッカー フットサル コラム 2021年9月7日

スペインの育成で日本が絶対に真似できないこと

木村浩嗣コラム by 木村浩嗣
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ヨーロッパリーグ優勝トロフィーを抱えるレージェス

ヨーロッパリーグ優勝トロフィーを抱えるレージェス

ちょうどインターナショナルマッチウィークなので、代表→国産選手→育成という連想で、自分も関わっていたスペインの育成事情について書こう。メッシ無き後のリーガで面白い試合が続いているのも育成力のお陰である。

スペインの育成で日本が絶対に真似できないことが一つある。

それは、育成部門の指導者は基本的に無給であること。

もちろん、みなさんが名前を聞いたことがあるようなプロクラブは有給だと思うが、それ以外のクラブは無給が原則。スペインではどの街にも必ず大小様々なクラブがあり、あちこちにあるグラウンドでは毎日びっしり練習と試合が詰まっていて指導者が一日中声を張り上げているが、彼らのほとんどは一銭も受け取っていない。みんなスペイン連盟が義務付ける監督ライセンスを獲った、ちゃんとした指導者なのにそうなのだ。

私もユースまで指導可能な監督ライセンスを2年近い講習とたくさんの月謝を払って獲り、クラブチームで7、8年間小学生を指導したが、一回もお給料なんてもらったことはない。週末試合で週2、3回練習というペースで、9月から5月までのシーズンを7、8回やってそうだった(ただし、連盟所属のチームの監督ではなくサッカースクールの指導者だった時は有給だった。スクールは「習い事」で月謝もあるから)。

なぜか? カッコ良く言うと、「サッカーは子供の権利だから」。権利だからお金を徴収してはいけない。徴収しないから指導者に払うお金がない。

クラブは連盟登録料とか子供の保険料とかグラウンド使用料とかを払わないといけない。子供にはその分を負担してもらわないとクラブが潰れる。だから、ユニフォーム代込みで年間150~200ユーロ程度(2万円~2万6000円)の負担はある。が、それだけで指導者の給料にまでお金が回るわけがない。連盟の規定で、監督は複数のチームを掛け持ちできないからなお更だ。

というわけで、育成部門の指導ではスペインでは飯を食ってはいけないわけだが、その代わりにタレントが経済的な理由で埋もれていくことを防げる。どんなタレントも第一歩は近所の小さなクラブでスタートする。そこでスカウトされてスター街道を歩き始めるわけだが、月謝が払えないという理由でプレーができなければ、そもそも発掘すらされなくなる。

私はセビージャ市のクラブで指導していたので、地元で有名なエピソードを紹介すると、セビージャ、レアル・マドリー、アーセナルなどで活躍した故ホセ・アントニオ・レージェスが生まれた家庭は、非常に貧しかったらしい。サッカーが「子供の権利」でなく、豊かな一部の子供だけの「特権」であれば、「セビージャが生んだ最大のタレント」は埋もれていたままだったかもしれない。

無給を美化するつもりはない。指導者がサッカーで生活できた方が良いに決まっている。だが、決して豊かな国でないスペインで、指導者が生活をしていけるだけの月謝を取れば、子供のサッカーとの出会いの機会が奪われる。もちろん、スターに上り詰めるのは、本人の努力とタレント次第なのだが、取りあえず門戸だけは大きく開いておく。誰でもサッカーができる環境だから、ピラミッドの底辺は広くなり、頂点が高くなる。

日本のように豊かな国なら育成年代の指導者にお金を払ってもやっていけるのだろう。だが、スペインでは無給。タダでも教えたい、というボランティア精神がこの国の育成を下支えしている。

文:木村浩嗣

木村浩嗣

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペインに拠点を移し特派員兼編集長に。15年編集長を辞し指導を再開。スペインサッカーを追いつつセビージャ市王者となった少年チームを率いた。現在はグラナダ在住で映画評の執筆も。

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