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日本で最初の女子プロ・サッカーリーグ「WEリーグ」のプレシーズンマッチが始まっていることをご存じだろうか?
新リーグには、従来の女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」に所属していた強豪チームのほか新たに立ち上げられた「大宮アルディージャVENTUS」や「サンフレッチェ広島レジーナ」など11クラブが加盟。この秋にスタートすることとなっている。
世界の女子サッカー界では、ヨーロッパで各国の強豪クラブが女子部門に力を入れ始めたことで急速に強化が進んでいる(先日のスーパーカップ構想でも「女子サッカーの振興」が大義名分になっていた)。2011年の女子ワールドカップで優勝した日本もこの流れに取り残されるわけにはいかない。プロ化によって選手の待遇が改善され、日本の女子サッカーの強化がさらに進むことを期待したい。
ただ、従来の「なでしこリーグ」はJリーグなどと同じいわゆる「春秋制」であり、すでに2021年シーズンが始まっているが、WEリーグは開幕が秋なのだ。そこで、4月から6月にかけて、参加11クラブがそれぞれ4試合ずつ戦うプレシーズンマッチが行われることになったのだ。
5月8日の土曜日、どういうわけか東京近辺でJリーグの試合がなかったので、僕も初めてWEリーグのプレシーズンマッチを観戦してきた。対戦カードは、「日テレ・東京ヴェルディベレーザ対ジェフユナイテッド市原・千葉レディース」。要するに東京ヴェルディとジェフ千葉の女子部門同士ということになる(スポンサー名なども入って、どのチームもチーム名が長すぎる。通称も決まっているが、もう少し整理してほしいものだ)。
東京ヴェルディベレーザは、一昨年までは「日テレ・ベレーザ」の名前で活動していたが、1989年に前身の「日本女子サッカーリーグ(JLSL)」が発足して以来、32年間で17回の優勝を誇り、最近でも2015年から2019年まで5連覇を達成している日本の女子サッカー界を代表するチーム(以下、「ベレーザ」と表記する)。
当然、今年開幕するWEリーグでも優勝候補の一つである。
だた、そのベレーザは最初のプレシーズンマッチでジェフ千葉に0対1で敗れてしまった。
ジェフ千葉は非常に良いゲームの入り方をして、8分には右サイドの曽根七海が入れたボールを安齋結花が決めたゴールを90分間守り切った。
その後は、個人能力で勝るベレーザが1点を追う展開が続き、とくに後半に入るとセカンドボールを拾ってベレーザが猛攻を続けたのだが、とうとう最後までゴールを割ることができなかった。
ジェフ千葉はトップの南野亜里沙にボールを集め、トップ下の曽根やサイドから中央に進出してくる安齋などを使って、前半はコンビネーションを生かした攻撃がうまく機能していた。一方のベレーザの方は、ボールを握って攻め続けてはいるものの、パスのタイミングやコースが微妙にズレて結局は個人技頼みとなってしまった。
要するに、個人能力ではベレーザの方が上なのだが、チームの完成度という面でジェフ千葉が勝っていたのだ。
優勝を狙うベレーザにとっては、これはあくまでも“プレシーズンマッチ”なのである。つまり、この試合に勝つことは大きな目的ではない。長いシーズンに向けた準備の第1歩なのだ。一方、挑戦者の立場のジェフ千葉としては、なるべく早い段階でチームの完成度を上げてプレシーズンマッチも貴重な実戦の場として勝ちパターンを確立したいのだろう。
両チームの完成度の差は、それぞれのチーム事情に基づいて違っているのだ。
まして、ベレーザは代表選手を数多く抱えている。5月11日からJヴィレッジで始まる女子代表(なでしこジャパン)候補合宿にも8人が招集されているのだ。そして、東京オリンピックが予定通りに開催されるとすれば、オリンピック代表にも数名が参加することは間違いない。とすれば、ベレーザとしては今の段階でチームとしての完成度を上げてもあまり意味がないということになる(数名の選手がオリンピックに出場して、酷暑の中で6試合を戦って疲労をためたままチームに戻ってくるわけで、ベレーザはWEリーグ開幕直後は若手を多く起用することになるのだろう)。
しかも、ベレーザにとってはこのジェフ千葉戦が初めての実戦であり、2試合目のジェフ千葉に比べてコンビネーションがしっくりこないのも当然のこと。つまり、初戦敗北も想定内のことだろう。
さて、このプレシーズンマッチは各チームが4試合ずつ戦うが、特別に順位などは付けないのだという。本当の意味でのプレシーズンマッチ(つまり、練習試合)ということになる。そのため、ほとんど注目を集めることもないまま開催されている。まして、新型コロナウイルス感染症の蔓延によって各地に緊急事態宣言が発出されており、多くの試合を無観客で開催せざるをえないのだ。
29年前の1992年、Jリーグ開幕の前年にはナビスコカップが華々しく開催され、予想をはるかに上回る観衆が詰めかけ、その勢いのままに日本初のプロ・サッカーリーグが開幕して大成功を収めた。
その時のことを考えると、このプレシーズンマッチがまったく盛り上がらないまま、WEリーグの開幕を迎えることに不安を覚えざるを得ない。ぜひ成功してほしいリーグなのだが、「本当に大丈夫なのだろうか」という心配が先行してしまう。
Jリーグが成功した原因の一つは、1992年にハンス・オフト監督が就任してから代表チームが急速に強化され、1992年の夏から秋にかけてダイナスティーカップやアジアカップで優勝して大いに盛り上がったことだった。そして、1993年にはJリーグ開幕の前に、アメリカ・ワールドカップ予選も始まり、プロリーグと強い代表がセットになってサッカーが盛り上がった。
プレシーズンマッチがあまり盛り上がらないまま開幕を迎えるWEリーグが成功するためのカギは、やはり東京オリンピックに出場する女子代表なのではないか。もし、7〜8月のオリンピックでなでしこジャパンが金メダルでも取って日本中の注目を集めれば、WEリーグ開幕も大いに盛り上がるに違いない。
だが、逆に準決勝にも進めずに敗退となった場合に、新リーグがどこまで観客を集めることができるのか……。
もちろん、出場する選手たちや高倉麻子監督はそんなプレッシャーを感じる必要はない。優勝を目指して自分たちのチームの力を存分に発揮して戦ってくれればいいのだが。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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