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サッカー フットサル コラム 2021年4月30日

勝ち方を知っているチームの強味。川崎が「意思の力」とプレー強度で「最強の盾」を粉砕

後藤健生コラム by 後藤 健生
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注目されたJ1リーグの首位攻防戦。「最強の盾」対「最強の矛」と言われた名古屋グランパスと川崎フロンターレの試合は、前半の23分までに川崎が3点を連取してあっけなく勝敗が決してしまった。「盾」はまったく機能しなかったのである。

この試合を見て思い出したのが、昨年のJ1リーグ第29節のガンバ大阪戦だ。川崎はかなりの勝点差があったものの2位につけていたG大坂を5対0と粉砕し。ライバルとの直接対決の勝利によって数字上も優勝を決めてみせた。

この時は前半が2点で後半が3点で、試合展開等もまったく違うのだが、2位のチーム、当然のライバルに対して大勝したという点では共通している。

このところ、サガン鳥栖戦や引き分けに終わったサンフレッチェ広島戦、終盤まで1点差だったアビスパ福岡など、ゴールを奪うことにやや苦労している印象があった川崎だったが、名古屋との決戦の“ファーストレグ”で見事に大量点を奪うことに成功した。大事な試合における勝負強さには目を見張るものがある。

それは、精神論的な意味ではない。

名古屋との試合の立ち上がりの川崎のプレーは、普段とはまったく違う迫力のあるものだった。パススピードが速く、そして早いタイミングで前線までボールを届けようという「意思の力」を感じることができるものだった。

インサイドハーフで起用された旗手怜央が決めた前半3分の先制ゴールは、左サイドから入れた三笘薫の強いクロスが印象的だったし、2点目にしても再三左サイドに顔を出した家長昭博が正確なクロスがレアンドロ・ダミアンをとらえた。まさに「意思」がの意移ったようなクロスだった。

とくに2点目などは、GKの鄭成龍(チョン・ソンリョン)からの長いパスが右サイドの田中碧に渡り、田中が大きくサイドチェンジ。そして、それを受けた登里享平がシンプルに家長につないだもの。手間をかけずに、数本のパスで一気にレアンドロ・ダミアンのフィニッシュにまでつなげたのだ。

2点目が決まる直前にもDFのジェジエウから前線の(この時は右にいた)家長に鋭い縦パスを通して、そこに田中や右SBの山根視来が絡む攻撃につなげ、さらに左の三笘につないだ場面があった。これは得点にはつながらなかったが、とにかく早いタイミングで前線にボールが送られ続けた。

一方で、守備面でも川崎が名古屋を圧倒した。

名古屋の選手がボールを持つと、川崎の選手が前線から襲い掛かった。そのため、名古屋はパスがつながらず、前線の相馬直紀やマテウスにロングボールを入れるしか攻め手がなかったが、ほとんど川崎に脅威を与えるには至らなかった。25分には、名古屋のワントップの山崎凌吾に対して川崎の登里が襲い掛かって、自らが傷む場面さえあった。


つまり、川崎は試合開始直後から好守にわたってインテンシティ(プレー強度)の非常に高い戦いをしかけたのだ。

これに対して、名古屋の方はノーマルな試合をするつもりだったのだろう。正確に言えば「ノーマルで、やや慎重な試合」と言うべきか。

「なんとしても失点を防ぐ」という意思も見えずにフラットな4人のDFラインとその前の2人のボランチ(米本拓司と稲本祥)で普段通りに守っていた。これまで12試合で3失点しかせず、「最強の盾」と言われた名古屋としては、普通に慎重に守れば川崎の攻撃力といえども、守り切れるという自信があったのだろう。

だが、川崎は普段の川崎、名古屋が想定していた川崎とは違っていた。「点を取ろう」という意思が前面に出ていたのだ。それに対抗するためには、名古屋の方も「絶対に守り切ってやろう」とか、あるいは逆に「いや、川崎相手に攻め切ってやろう」といった意思をもっと明確にする必要があった。

もちろん、川崎の方も高いプレー強度を90分間持続させることは不可能だ。

実際、3点をリードしてからは、川崎はいつものようなショートパスを多用して相手をいなすようなサッカーに変化していった。これなら、消耗度は大幅に減る。

そして、それとほとんど同時に、名古屋の方も選手交代を使ってMFを1枚増やし、また右SBに強烈なクロスを入れられる成瀬竣平を入れて、攻守ともに形を変化させてきた。そして、その結果、名古屋がボールを握る時間も増えたし、右からのクロスが川崎を脅かす場面も作れるようになった。そして、後半は互角の攻め合い、守り合いが続いていた。

しかし、こうした流れも川崎としてはすべて織り込み済みだったことだろう。なにしろ、立ち上がりの20分から30分まで、あれだけインテンシティの高いプレーを続けたのだ。それが90分続くとは川崎側も考えていなかったはずだ。

そして、それを90分続ける必要はなかった。なぜなら、23分までの間に3ゴールを決めてしまったからだ。

後半の川崎は、そのリードを守り切れば(クリーンシートを達成すれば)ミッション達成ということになるし、実際、名古屋に得点を許さなかったばかりか、途中交代出場の遠野大弥の得点という“おまけ”まで付いてきたのだ。

もちろん、川崎と名古屋の間に「4対0」というほどのチーム力の差があるとは思えない。だが、90分を通しての戦略、あるいは大事な試合に向けての集中力の上げ方という面では両者には大きな差があった。最近の4シーズンの間に3度優勝を飾っているチームならではの勝負強さなのであろう。つまり、川崎は「勝ち方」を知っているのだ。

リーグ戦としては異例の日程だが、両者は5月4日に再び対戦する。

名古屋としては、まずこの「中4日」の間に大敗のショックを振り切ることが大事だろう。そのうえで、リターンマッチではもっと戦略的にゲームプランを考えて戦う必要がある。

守備を厚くして守り倒し、数少ないチャンスをものにして「ウノゼロ」を狙うのか、それとも川崎の数少ない弱点である最終ラインを狙って攻撃を仕掛けるのか……。

一方、第1戦で大勝した川崎としてはどう戦うのか? 再びキックオフ直後からインテンシティの高い試合をして、名古屋ホームの試合と同じような展開に持っていくのか? それとも、いつものような軽快なパスをつなぐサッカーに戻るのか?

いずれにしても、相手の出方を読むことも重要だろうが、それ以上に自分たちがどういう戦いをするのかという意図を明確に持って、それをプレーの上で表現することが必要になる。豊田スタジアムでの試合の前半に川崎が見せてくれたように……

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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