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日本代表がモンゴル戦で14ゴールを奪って大勝した。
普通、こういう大差の試合になるとどうしても“気の緩み”が出てきてしまう。前半に5点、6点を奪って「これなら、今日は10ゴールかな」なんて思っていると、後半は1点くらいで終わってしまうといった展開をよく目にする。
ところが、モンゴル戦での日本代表は最後まで貪欲さを失わなかった。なにしろ、後半のアディショナルタイムに入ってから3ゴールも奪ったのだ。
最後まで本気で向き合ったことが何よりも素晴らしかった。
今回も海外組の選手の中には参加できなかった選手がおり、さらにオリンピックを目指すU−24代表に参加した選手も多い。そして、その代わりに代表に加わったJリーグで活躍している選手たちが、期待通りの活躍。こうして選手間競争がますます激しくなり、代表への生き残りをかけて全員が手を抜けない状況になっているのだろう。
そんな「14得点」を見ながら、僕が思ったのは「日本代表の最多得点記録にあと1点及ばなかったのは残念」ということだった。
「15対0」。1967年の9月から10月にかけて行われたメキシコ・オリンピック予選のフィリピン戦で日本代表が記録した最多得点記録である。日本が生んだ史上最高のストライカー、釜本邦茂のダブルハットトリック(1試合6得点)を含め、日本は大差で勝利を収め、その結果、予選大会では韓国と4勝1分で並んだものの、得失点差でオリンピック代表権を獲得。翌年のメキシコ・オリンピックでの銅メダルという快挙につなげたのだ(当時のオリンピックは、アマチュアだけの大会だったが、全員が実業団および大学生だった日本はA代表がオリンピックに参加していた)。
57年前、僕が中学3年生だった時の出来事である。
当時(1960〜70年代)の日本代表のメインイベントは、毎年、夏のシーズンオフを利用して来日するヨーロッパの強豪クラブとの親善試合だった。イングランドのアーセナルやトッテナム、西ドイツのボルシア・ドルトムントや1FCケルン、ポルトガルのベンフィカそしてブラジルのパルメイラスといったクラブが来日して、日本代表と親善試合を行った。たいてい、1週間か10日の間に日本代表と3〜4試合を戦って、日本代表が善戦することもあったが、その力の差を見せつけられることとなる(パルメイラスには2勝1敗で勝ち越した)。
Jリーグが発足して日本のサッカーがプロ化して以降は、日本代表はワールドカップ予選やアジアカップなどでアジアのナショナルチームとのタイトルがかかった試合が多くなり、また、親善試合(キリンカップやキリンチャレンジカップ)などでも日本代表の対戦相手は各国の代表チームばかりとなった。そして、たいていは1試合だけで終わりだった。
そんな中で、3月にはU-24日本代表の活動も並行して行われ、こちらはアルゼンチンのU-24代表と2連戦を戦った。
東京で行われた1戦目はスコア的には0対1で、後半は日本が押し気味ではあったが、内容的にはアルゼンチンの完勝だった。
日本はアルゼンチンの正確なパスのスピードに付いていけずに21分に失点。その後、日本が盛り返したかのようにも見えたが、実際のところは長旅を終えたばかりのアルゼンチンが、自分たちのコンディションを考えて先制ゴールを守り切る方向に切り替え、中盤では日本にボールを持たせておいて、最後のゴール前に入らせないという戦い方を完璧に遂行しただけだった。試合運びの面でも、日本は完敗だった。
だが、2戦目の日本代表は、その1戦目でのレッスンを生かしてゲームをコントロールしてみせた。つまり、1戦目では後ろでボールを回す時間が長く、そこのプレッシャーをかけられてボールを前に運ぶことができなくなってしまったため、2戦目では「球離れ」を早くして、苦しい時には割り切ってロングボールを蹴ってしまうという方針が徹底されていた。
日本は、1戦目から先発を9人も変更した。だが、1戦目に出場していなかった選手たちも完敗の試合からの教訓を生かして戦った。相手を分析して、中2日の間に対抗策を落とし込んだあたりは、チームとして全員が一つの方向に向かって戦っているからできたことである。
そして、第1戦では出場停止だった田中碧が完璧なゲームメークを行い、長短のパスを駆使して攻撃をリードした。
1戦目では期待された三笘薫もほとんどドルブルで勝てなかったが、それは攻撃の展開が遅く、三笘にボールがつながった時には相手の守備陣が完全に構えていたからだ。
だが、2戦目では全体に球離れが早くなり、しかも田中碧から質の良いパスが供給されたため、日本のアタッカーたちは相手の守備陣形が整う前にしかけることができた。
もっとも、日本がゲームをコントロールした原因の一つは、アルゼンチンが主力選手を休ませていたからでもあった。アルゼンチンの攻撃を個の力で引っ張る右サイドのアタッカーフェルナンド・バレンスエラやシャドーストライカー的な位置で攻撃の中心となったマティアス・バルガスがベンチスタートだったのだ。フェルナンド・バティスタ監督としては2人が使えなかった時のテストだったのだろう。
F・バレンスエラの代わりに右サイドハーフに入ったのは、本来はサイドバックのエルナン・デラフエンテであり、日本が攻勢を強めるとデラフエンテは次第にポジションを下げて、前半のアルゼンチンは5−2−3のような形になってしまった。
後半、アルゼンチンはF・バレンスエラとバルガスを投入。アルゼンチンのチャンスは大幅に増えた。だが、日本はよく耐えて、たった2本しかなかったCKをどちらも得点につなげて勝利を確実なものとしたのだ。
このアルゼンチンとの2試合はそれぞれのチームの思惑も絡んで、2試合がまったく異なった展開となった。日本は第1戦の教訓を見事に生かして2戦目を戦ったし、アルゼンチンは1戦目で勝利できたため、2戦目には主力を休ませるというテストができた。
つまり、同じ相手と連戦をするというのがとても面白く感じたのだ。これからは、A代表の親善試合でもこうした形の、つまり1960年代のように同じ相手と2試合、3試合を戦うという形式の大会があってもいいのではないか。
とくに、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で海外のチームが来日するのが難しくなっている現状では、せっかく入国できた相手と2、3試合を戦うというのは現実的な選択であるような気がする。日本と韓国のように近距離の相手であれば、ホーム&アウェーで2試合を戦うことも可能だろう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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