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今シーズンからリカルド・ロドリゲス監督を迎えて新しいサッカーに挑戦している浦和レッズが、第5節を終了した時点で1勝2分2敗と苦しんでいる。
第5節は、かつて浦和を指揮して、超攻撃的なチームを作ったペトロヴィッチ監督が率いる北海道コンサドーレ札幌との対戦だった。ペトロヴィッチ監督は浦和時代の2016年にはその攻撃サッカーで勝点74を獲得。プレーオフで敗れて準優勝扱いとなっているが、リーグ戦では浦和を首位に導いた名将である。
試合前にベンチに入る時にはペトロヴィッチ監督はステッキをかざしてメインスタンドのサポーターに挨拶を贈ったし、試合前にはサンフレッチェ広島時代からの教え子である浦和の槙野智章とハグをして旧交を温めていた。
人間的な温かみのあるペトロヴィッチ監督らしい光景だった。
試合が始まると、そのペトロヴィッチ監督の下で4シーズン目を迎える札幌が完成度の高さを見せつけ、90分間ほとんどボールを握って攻撃の形を作り続けた。
札幌の左右の幅をいっぱいに使った攻撃に浦和の守備陣は対応が遅れ、また中盤での札幌のプレッシャーでボールを奪われてピンチを招く場面も何度もあった。
一方、浦和の方は相手のミスを拾って繰り出す単発的なカウンターくらいしかチャンスを作れなかった。札幌の決定力不足とGKの西川周作の何度かの好セーブで、浦和としてはなんとか勝点1を拾った試合だった。
もちろん、今シーズンから新監督を迎えたばかりなのだから、完成度が低いのは仕方のないことだ。だが、それにしても第5節の浦和は能動的な仕掛けがほとんど何も出来なかった。
浦和は、第3節の横浜FC戦でリカルド・ロドリゲス監督の下での初勝利を飾ったものの、その後は横浜FMに敗れ、そして札幌相手に内容的に完敗と低迷している。
ただ、横浜FM戦は相手の完成度の高さとスピードに押しまくられはしたものの、浦和も右サイドバックの宇賀神友弥が最前線のポジションまで攻め上がるといったように、「リカルド・ロドリゲス監督らしさ」も出せており、負けはしたものの将来が楽しみになるようなプレーも随所に見られた。
だが、札幌戦は勝点こそ拾ったものの、収穫はほぼ何もないような試合になってしまったのだ。まだ、チーム作りが始まったばかりで、試合によって出来、不出来の振れ幅が大きい状態のようである。
横浜F・マリノスは一昨年のJリーグ・チャンピオンだ。アンジェ・ポステコグルー監督の下で超攻撃的なサッカーを展開して優勝を遂げた。特徴は、両サイドバックがインナーラップし、インサイドハーフのポジションまで上がって攻撃を組み立てること。左右の両サイドバックが同時に攻め上がることもしばしばだった。
昨年は、そのサイドバックが攻撃参加した裏のスペースを狙われてしまったため、今シーズンはサイドバックの攻撃参加は自重気味だが、それでも機を見て攻めあがってくるサイドバックの重要性は変わらない。
浦和との試合では、右サイドバックの松原健がトップの位置にまで上がることが何度もあったし、左サイドバックのティーラトンは前半のうちに負傷交代してしまったが、後半には代わって入った小池龍太がマルコス・ジュニオールのクロスに合わせて3点目を奪っており、「やはりこのチームの特徴はサイドバックの攻撃参加にあるのだ」ということを見せつけた。
ただ、この横浜FMとの試合では、浦和もサイドバックの攻撃参加を何度も見せた。
「サイドバックの攻撃参加」という意味では、リカルド・ロドリゲス監督もポステコグルー監督にはけっして負けていないのだ。リカルド・ロドリゲス監督は、昨年は徳島ヴォルティスを率いてJ2リーグを戦い、やはりサイドバックが最前線に飛び出してくる可変システムを駆使して、徳島をJ2優勝そしてJ1昇格に導いた。
横浜FM戦では、右サイドバックは宇賀神友弥が務めていたが、宇賀神はタッチライン沿いを攻めあがるだけではなく、最前線まで上がって、杉本健勇と並んでツートップのような形になることが何度もあった。
その際は、ツートップの一角にポジションを取っていた小泉佳穂がMFに下がり、時には小泉が、あるいは右サイドハーフの明本考浩がサイドバックの位置まで下がったりして、全体のバランスを取る。まさに、昨シーズン、徳島でやっていたプレーを髣髴させるものであり、「このまま完成度を上げていけば面白いサッカーができるだろう」という期待を抱かせるものでもあった。
ところが、続く札幌との試合では、そうした見せ場もまったく作れずないまま終わってしまったのだ。
浦和は、横浜FM戦とは選手の配置をかなり変更していた。
たとえば、横浜FM戦では本職のボランチでプレーしていたベテランの阿部勇樹が右サイドバックに入り、横浜FM戦ではトップにいた小泉がボランチに下がっていたのだ。
宇賀神は、左サイドが本職ではあるものの、タッチライン際でプレーするのがうまい、生粋のサイドバックだ。だが、阿部はボランチが本職で、センターバックもこなすが、サイドバックは本来のポジションではない。また、阿部が不在となった中盤では、札幌のプレッシャーによってボランチのところでボールを失う場面が増えてしまった。
小泉にしても、横浜FM戦でボランチに入っていた伊藤敦樹にしても、プレッシャーを受けるとボールを失ってしまう場面が多すぎるのだ。だからこそ、阿部には、やはりボランチにいてほしいのである。
浦和が苦しんでいる理由の一つは、今シーズン新たに加入した右サイドバックの西大伍が故障のために戦列に加われないことがある。西は、右サイドバックが本職であり、同時にボランチも、あるいはインサイドハーフも高いレベルでこなせるマルチな選手であり、まさにリカルド・ロドリゲス監督が求める攻撃的なサイドバックにぴったりの選手だ。このポジションに、西がはまれば、浦和の攻撃力はかなり上がるはずだ(そして、もちろんトップでボールを落ち着かせる興梠信三の復活も待たれる)。
今は、リカルド・ロドリゲス監督としてもまだ選手の能力や適正を実戦の中で見極めている段階なのであろう。選手の配置がちょっとでも違うと、パフォーマンスの水準は大きく変わってしまう。そんな、試行錯誤の段階なのだ。
浦和としては、一つひとつのゲームの結果に一喜一憂することなく、まずはチームの成長を見守りながら、西、興梠の復活の日を待つことが大事であろう。次の第6節では、浦和は川崎フロンターレとの対戦となる。強い相手との対戦することで、隠れていた潜在力が引き出されるということもよくあることなので、王者、川崎を相手に浦和がどのようなプレーをするのか、しっかりと見守りたい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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