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11月25日水曜日に行われたJ1リーグ第29節の試合で川崎フロンターレがガンバ大阪を5対0というスコアで破って2年ぶり3度目の優勝を決めた。
前節はアウェーで大分トリニータに敗れて足踏みした川崎。しかし、そのおかげで優勝決定をホームの等々力陸上競技場で果たすことができた。大分戦の翌日には唯一逆転優勝の可能性を残していたガンバ大阪が浦和レッズに先制を許す展開となったが、こちらもG大阪が頑張って逆転勝ちしてくれたおかげで「舞台」は整った。
優勝決定がかかるホームでの試合。しかも、対戦相手は2位のG大阪……。これで盛り上がらないわけはない。等々力には1万1000人を超える観衆が集まった。7月にJ1リーグが再開された時点では無観客(リモートマッチ)だったのを考えれば、これだけの観衆の前で優勝決定をむかえることができたのは本当にありがたいことだ(ヨーロッパでは、感染が再び拡大。無観客のままの状態が続いている)。
そして、その最高の舞台で、川崎は5対0という完璧な勝利を収めた。
攻撃力全開。まさに今シーズンの川崎を象徴するような試合だった。一時は1試合平均得点が「3」に迫っていた川崎だったが、このところ得点数が伸ばせていなかった。しかし、大事な試合で再びその攻撃力を見せつけることに成功した。
サッカーの試合でも5得点というのはさほど珍しいことではないかもしれなが、大量点が生まれる試合の多くは「前半は4点を取ったのに後半は1点だけ」とか、「終了間際に相手の疲労に乗じて3点、4点を奪う」といった試合が多い。だが、G大阪戦の川崎は22分にレアンドロ・ダミアンが先制すると、前半終了間際の45分に家長昭博が追加点を奪い、さらに後半立ち上がりの49分と終盤の73分に家長がさらに2ゴール決め、そして終了間際に交代で入った齋藤学がダメ押しと、90分の時間にまんべんなく得点を重ね、しかも、セットプレーは2点目だけで、他はいずれも流れの中からの得点だった。
まさに、今シーズンの川崎らしいアグレッシブに得点を狙い続けた試合だった。
川崎の攻撃力についてはこれまでも数多く語られてきた。だが、この試合で、僕は川崎の守備のすばらしさについても改めて驚かされた。「29試合で79得点」というのも、もちろん記録的なゴール数なのだが、同時に「25」という失点数もリーグ最少なのだ。
昨年優勝した横浜F・マリノスはたしかに“超攻撃的”で得点数は多かったが、同時に失点も多いチームだった。だが、川崎は守備でもJ1リーグ最強クラスなのだ。記録的な勝点を積み重ねたのも当然のことだった。
優勝決定の試合でも、強豪G大阪の攻撃を完全に封じ込めた。G大阪は川崎陣内にボールを持ち込むことすら難しくなり、後半の立ち上がりには中盤を省略してトップの宇佐美貴史を狙うロングボールを使ってきた。
よく「ボールの取りどころ」という言葉が使われる。高い位置からプレッシャーをかけて相手のゴールに近いところでボールを奪うのか(それができれば理想だが、90分間続けることは不可能)、自陣深くに引いて守るのか、それとも中盤で相手のパスコースを規制してたとえば外に持ち出させてからボールを奪いに行くのか……。そうした守備の狙いどころのことだ。時間帯や相手の出方に応じて変化させていく必要も当然ある。そして、それをチームとして実現するためには全選手の意識を統一しておくことが重要だ。
だが、言うは易く行うは難し。代表チームの試合でも、なかなかそうした組織的な守備は実現しない。
それを、川崎フロンターレはいとも容易く(というように見える)こなしてしまう。時間によって前から激しくプレッシャーをかけて相手GKのミスを誘うこともあれば、中盤で人数をかけて相手のボール保持者を囲い込んでボールを奪うこともある。そして、最終的には最終ラインの頑張りでゴールを割らせない(最高のセンターバックの一人である谷口彰悟が出場停止だったが、サイドバックもセンターバックもできる車屋紳太郎が完全に穴を埋めた)。
何よりも川崎の選手たちを見ていて感心させられるのは、スペースを見つける“眼”である。守備の時なら「危険察知能力」というのか、パスがどこに出てくるのかをいち早く察知して、パスを受ける選手を事前に封じ込めておくのだ。前線の選手がうまくパスコースを規制するのも「ここに出されたら危険だ」という意識をしっかり持って守備をしているからなのだろう。
スペースを見つける“眼”はおそらく攻撃のトレーニングの中から培われたものなのではないだろうか。
今シーズンの川崎の攻撃を見ていると、もちろん正確にパスをつなぐ能力は高いのだが、スペースを見つけてそこに選手が入り込み、そしてパスの出し手もそれを感じてつないでいく場面が目につく。小さな、ほんの1、2メートルのスペースを利用することもあれば、中盤にぽっかりとあいた大きなスペースを利用することもあるし、逆サイドまで50メートル以上のロングボールを使うこともある。
だが、いずれにしてもパスの出し手と受け手が同じビジョンを描いてパスを駆使しているからこそ、「なんで、ここにこの選手がフリーになっているのか」と驚かされることになる。
その“眼”を、川崎の選手たちは守備面でも応用して、スペースをいち早く見つけてそこをカバーしているのだ。
もちろん、そうしたスペースを見つける“眼”はJリーグの選手なら誰もが持っているだろう。だが、川崎の選手たちのように高い精度で、そして素早く見つけるのは難しい。
現在の川崎フロンターレ川崎の基礎を築いた風間八宏前監督は、守備がうまくいった試合の後によく「“眼”が速くなった」という言葉を使っていた。
優れたトレーニングを積み重ねていけば、ここまで選手たちの能力とチームとしての意識の統一ができるのだということを証明したのが今年の川崎の優勝だった。「2020年という大変な年に川崎フロンターレという優れたチームがあった」という事実を日本サッカーの歴史に伝えるためにも、最後に5対0という完ぺきな勝利で優勝を決めたことはよかったのではないか。来シーズンは、このサッカーをどのように発展させていくのか。さらには、AFCチャンピオンズリーグという国際舞台でも、この川崎のサッカーを見せてほしいものだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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