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僕は中学生の頃から英国の『ワールドサッカー』という雑誌を定期購読していた。1960年代の末の話である。
当時、この雑誌のメインライターとしてブライアン・グランビルとエリック・バッティという2人の記者がいた。グランビルは、非常に格調の高い(つまり、難しい)英語の記事を書いていたので、辞書を引きながら3度ほど読み返さないと意味が分からなかった。当時学校の英語の授業で習った「分詞構文」というものがよく分からなかったのだが、グランビルの記事を読んで初めてそれの使い方を覚えた。
一方の、バッティ記者の方は非常に平易な文章で、まだ英語が下手だった僕でも一読すれば大体は理解できた。
そのエリック・バッティは「最近の(1960年代後半の)サッカーは、フィジカル重視、守備重視で面白くない」といった批判を盛んに書いていた。
たしかに記録映像などを見ると、昔はFWがボールを持って「さあ、ドリブルに移りますよ」という構えを見せるまではDFは当たりに行かなかった。だから、ドリブラーのテクニックを存分に楽しむことができた。ジョージ・ベストの頃まではそうだった。だが、1960年代末になるとFWがパスを受ける瞬間にDFがタックルに入るようになっていた。
といっても、アヤックスやオランダ代表のように全員がボール・ハンティングに行くようなサッカーが一般的になるより前の話である。アリゴ・サッキ監督のACミランがプレッシングを前面に押し立てたサッカーをするより20年も前のことである。
僕は、当時、バッティ記者の記事を読んで「ふうん、昔のサッカーを知っている人はそんな風に考えるんだ……」となんとなく思っていた。
そんな昔話を思い出したのは、先日のUEFAチャンピオンズリーグ決勝戦。バイエルン・ミュンヘン対パリ・サンジェルマン(PSG)の試合を見たからだ。
あの試合をバッティ記者が見たら、どう感じただろうか? そして、若い読者の皆さんにとって、あの試合は面白かったのだろうか?
今シーズンのバイエルンは、CLでグループステージから無敗のまま優勝を遂げた。そして、準々決勝ではあのFCバルセロナを8対2で粉砕して(その後の一連の報道を見ると、バルサは文字通り粉砕されてしまったようだ)の優勝だった。本当に強いのは間違いない。
ピッチ上の全面に顔を出すトーマス・ミュラーのような選手は別格としても、全員がとにかくよく走って守備に攻撃にハードワークした。名手ぞろいのPSGとしても、バイエルンのプレッシングを掻い潜ってプレーできたのはネイマールだけ。キリアン・ムバッペやアンヘル・ディマリーアは、ほぼほぼ抑え込まれてしまっていた。
そして、そのバイエルンに対抗するためにPSGも自分たちのテクニックを発揮することよりも相手チームと同様にハードワークに徹し、またバイエルンの攻撃パターンを分析しつくしてしっかり守備を構築して対抗した。
試合が1対0という最少得点の試合となったのは、両チームのGKの好守があったせいでもあるが、互いの激しいプレッシングがあったおかげである。そして、後半に入ってPSGの足が止まりかけたところで、この試合唯一の得点が記録された。ハードワーク勝負では、やはり“本家”に軍配が上がったのである。
たしかに、バイエルンは強かった。またあれだけのスピードの中で正確にボールを扱う技術レベルも驚異的ではある。そして、プレッシングのサッカーは効率的で、勝つために最も合理的なサッカーだったのかもしれない。
だが、「面白かったか?」と言われれば、僕もバッティ記者と同じように「あんなフィジカル重視のサッカーは面白くない」と思ったのだが、若い読者の皆さんはどう感じられたのだろうか?
バイエルンが圧勝したことによって、プレッシング・スタイルのサッカーはこれまで以上に世界の主流となっていくことだろう。そして、もしバイエルンと同等の、またはそれを上回るプレッシング・スタイルのチームが現れて、バイエルンと戦ったらどうなるのだろうか。
互いの激しいプレシングの中でパスをつなぐこともできず、ましてドリブルで相手を抜くようなプレーはほとんど見られなくなってしまうのかもしれない。後方からのビルドアップなどというのは「古き良き時代」のセピア色の思い出のようなものとなり、攻撃は相手陣内深くでボールを奪ってからの一瞬のショートカウンターだけになってしまうのか……。
僕が期待するのは、あのバイエルンの激しいプレッシャーをテクニックの力で出し抜くような次世代のサッカーだ。
サッカーの歴史は、そうやってある時代の主流だったスタイルを違うやり方で打破していくことによって動かされてきた。
ほんの数年前、FCバルセロナのポゼッション・スタイルが全盛を極め、世界中で持てはやされた時代があった。
だが、僕はもし世界中のチームがすべてバルセロナになってしまったら、中盤では相手ボールを奪うことが不可能になってしまって、ハンドボールのように相手がボールを持ったらゴール前に引いて守るしかなくなってしまう。中盤での攻防、中盤でのボールロスト=ターンオーバーというサッカーというゲームの特徴が失われてしまうのではないかと心配したものだった。
そうしたら、ポゼッション・スタイルの真逆の、プレッシング・サッカーがたちまち世界を席巻したのだ。
時代の移り変わりの速さは、1960年代の頃以上に速くなっている。バイエルン・ミュンヘンの激しいプレッシング・サッカーに対して同じプレッシングの強度で対抗するのではなく、別のやり方でそれを打ち負かすサッカーを模索している指導者が世界のどこかにいるに違いない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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