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JリーグYBCルヴァンカップのプライムステージに進出する8チームが決まった。
カップ戦ならではの「下克上」を期待したものの、どうやら今シーズンのカップ戦は“強者たちの戦い”となるようだ。
というのも、準々決勝に進出した(ACL参加の3チームを含む)8チームを現在(第9節終了時点)のJ1リーグの順位表に当てはめてみると、1位、3〜6位、9〜11位とリーグ戦上位のチームばかりになったからだ。
グループステージの第3節(最終節)、僕はその「下克上」を期待してShonan BMWスタジアム平塚を訪れた。
グループDでは柏レイソルがすでに前節でプライムステージ進出を決めており、他のグループでも勝点6を持っているチームがかなり有利な状況だった。問題は、2位のうち最高の成績で準々決勝に進む“ワイルドカード”の行方だった。
グループAでは川崎フロンターレと名古屋グランパスが勝点6で並んで最終節は直接対決だったから、この試合が引き分けに終わったら、名古屋が勝点7で2位になるので、他のグループの2位は追いつけない。
問題は、もしこの名古屋対川崎の試合で勝敗が決した場合のことだ。得失点差で劣る名古屋でも「+4」なので、1点差で敗れたとしても「+3」ということになる。第2節終了時で得失点差「0」の湘南ベルマーレが追いつくには、3点差の勝利が必要となるし、総得点のことを考えれば4点差が必要となる可能性が高い。
ただ、第3節の対戦相手のガンバ大阪はすでに敗退が決まっているので、大幅にメンバーを落としてくるだろうから、「可能性はある」と思って観戦に行ったのだ。
平塚までの移動中に、サガン鳥栖で新型コロナウイルスのクラスターが発生してサンフレッチェ広島との試合が中止になったというニュースを知った。広島も、2位に届く状態だったので、状況は複雑になった。
そして、平塚に到着すると「雷雨が近づいているので、キックオフ時刻を30分遅らせることになった」というアナウンスが流れた。実際には、雷雨の中心は平塚よりかなり西側の小田原を通り過ぎたので、雷鳴は聞こえたものの雨は大したことがなかった。ただ、この30分の遅れによって、湘南は他会場の結果を知った状態でフィニッシュできるというアドバンテージをもらえるようになったので、「これは、何かが起こるかな」と一瞬思った。
実際、ガンバ大阪は先発の11人の平均年齢が22.36歳。21歳以下の選手が先発だけで5人。ベンチを含めると9人というメンバーだった。
ところが、湘南の方もDFの大野和成、MFの齊藤未月、FWの山田直暉輝といったレギュラークラスは入っているが、大岩一貴、古林将太、松田天馬らはベンチスタート。もちろん、18人に入っていない選手もたくさんいる。
それでも、湘南は「点を取って勝とう」という気合は十分で、キックオフ直後からボールを握ってG大阪陣内で試合を進め、右のウィングバックに入った畑大雅が持ち前のスピードで突破して何度かチャンスを作る。だが、このクロスにフリーで飛び込んだ山田のシュートがわずかに外れるなど得点できないでいると、12分にG大阪が先制する。山本悠樹のFKに、スルスルとファーサイドを抜け出してきた17歳のFW唐山翔自が頭で合わせたのだ。湘南もすぐにCKからの混戦で山田が押し込んで同点としたが、39分には湘南側から見て左サイドを突破され、再び17歳の唐山に決められてしまう。
そして、後半も攻撃を続けるものの、割り切って中央を固めるG大阪の守備を崩すことができず、そのまま試合は終了となってしまった。
しかも、30分は早く始まっていた名古屋対川崎の試合が2対2の引き分けに終わったため、湘南のプライムステージ進出の可能性はあっけなく潰えたのだ。
名古屋対川崎は引き分けなら両チームともにプライムステージ進出という状況だったので“談合”が行われたかのような結果だったが、こちらの試合の公式記録を見ると、早い時間帯で点を取り合っているので“談合疑惑”は成立しない。しかも、両チームともJ1リーグで戦う時に遜色ないメンバー構成で戦っているのだ。
今シーズンの川崎は、中村憲剛というエースを負傷で欠きながら、2チームを編成できるほどの選手層の厚さを誇っている。だからこそ、カップ戦でも安心してリーグ戦並みの戦力を投入できるわけだ。
やや気の早い話だが、このままで行けば川崎がリーグ戦とルヴァンカップの二冠を制することも十分に予想できる。そして、今シーズンの天皇杯ではJ1からは上位2チームしか参加できず、準決勝と決勝を勝ち抜けば優勝となるので「川崎の三冠」の可能性すら見えてきたような気もする。
せっかく、今シーズンは「降格なし」という特別ルールで行われているのだ。カップ戦では下位チームの果敢な(ギャンブル的な)挑戦を見てみたかった。
ただ、湘南ベルマーレには右サイドをスピードで突破する畑大雅や最終ラインで対人の強さとロングフィードの正確性を持った石原広教といった若手(ともに21歳)がルヴァンカップで経験を積んだ。畑は、スペースを消されてしまうと何もできなくなってしまうが、自分の持ち味の発揮の仕方を覚えれば面白い存在になるだろう。左サイドの20歳、鈴木冬一と両サイドで若手が暴れ回ったら、このチームの大きな魅力となるかもしれない(石原と鈴木は、第3節はベンチ外)。
劣勢の時間が多い中で、2点を取ったガンバ大阪の唐山翔自も大注目。何よりも、相手守備陣の裏への飛び出しのタイミングを見極める能力が素晴らしい選手だ。いずれは、J1の舞台でも活躍するに違いない。
「下克上」は見られなかったものの、ルヴァンカップの見どころの一つ、若手の活躍は十分に見られた第3節。一発勝負となる今シーズンのプライムステージも目が離せない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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