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どこまでも太陽のような人だと思う。その光に照らされるだけで、心の中まで明るくなってしまうような。本人はきっと何の意識もしていないのだろうけれど。
それは2000-01シーズンのUEFAカップ決勝。イングランドの強豪として知られるリヴァプールに、スペインのアラベスが勇敢に立ち向かった伝説の一戦。常にリードを許す展開の中、ことごとく追い付き続けたアラベスは4-3で迎えた後半終了間際にも同点弾を叩き込み、延長戦まで勝敗の行方をもつれ込ませる。
最後は力尽き、4-5という壮絶なスコアでアラベスは敗れるのだが、この試合の現地解説を務めていた原さんは、ドン・キホーテさながらに巨大な敵へと向かっていくその雄姿にいたく感動し、試合中にもかかわらず泣いてしまったという。僕はこのエピソードが凄く気に入っている。何とも原さんらしいなと思うからだ。
最初に番組のロケとして原さんが訪れたのは、サン・セバスチャンだ。ニハトやダルコ・コバチェビッチ、ヴァレリー・カルピンらを擁し、その際立った個性がリーガの中でも注目を集めつつあったレアル・ソシエダを取材するのはもちろんだが、より本領が発揮されたのは“サッカー以外”の部分だった。
美味しそうにゴハンを食べ、シードル(りんご酒)の樽が並ぶ倉庫を訪ねる。『Foot!』のロケが“サッカー以外”の撮影にも力を入れ、その土地の文化をしっかり伝えるようになったのに、この時のロケの影響が非常に強く反映されているのは間違いない。
今回は厳選した4つのロケの模様をお届けする。一番古いものは、FC東京が行った2004年のラ・コルーニャ遠征にスタッフが帯同した“遠征記”。僕にとっては人生で初めての海外ロケであり、いろいろな意味で強烈な記憶として、頭の片隅に刻まれている。
当時も話題を呼んだ“赤いトラック野郎”も収録した。まず駐車場にあんなトラックの前方部分だけが置いてあるインパクトが強過ぎたことと、それがワルテル・パンディアーニの“自家用車”だったという衝撃の事実も含めて、とにかく面白かった。
実はあの話には後日談がある。“赤いトラック野郎”から8年後。その頃はビジャレアルでプレーしていたパンディアーニに、再びインタビューする機会があった。8年前に父親とカメラの前で恥ずかしそうな表情を浮かべていた長男のニコラスくんは、ビジャレアルの下部組織でプレーしており、そのニコラスくんにもマイクを向けると、なんとラ・コルーニャでのインタビューを覚えていたのだ!こうやって海外でも『Foot!』の記憶が結び付いていったことは、番組の大きな財産だ。
「ペップ・グアルディオラのお宅訪問!」もなかなかパンチの利いた映像だろう。スペインには“NOVA JIKA”という最強のコーディネート会社があり、そこの敏腕コーディネーターが実現に導いてくれた企画。現役を引退したばかりのペップが、自宅でくつろぎながらインタビューに応じる姿は、今から考えてもとんでもなく貴重なものだった。
僕は原さんと3回もスペインへご一緒する機会に恵まれた。唯一今回のセレクションでご紹介していないのが、2006年1月のロケ。個人的には一番印象深いのがこの時である。なぜかと言えば、現地に着いて2日目の昼に“事件”を起こしてしまったから。何とカンプ・ノウのカフェで撮影用のビデオカメラを盗まれたのだ。
過去2回は先輩のディレクターが同行していたため、初めて原さんと2人でスペインを回ることを任され、気合を入れて臨んだロケの、まだほとんど何も撮影していないようなタイミングでのあり得ないミス。我がことながら当時の自分の心境は察して余りある。傍目から見ても、相当落ち込んでいたのだろう。
NOVA JIKAにあった民生用のビデオカメラを借りて、何とか進めていったロケも終盤に差し掛かろうとしていたある日。たまたまコーディネーターの女性と2人になった際に、彼女がそっと教えてくれた。「カメラを盗まれた日に原さんが、『アイツも落ち込んでるだろうから、ここからはいつも以上に明るく過ごしてやろうよ』っておっしゃったんですよ」。
薄々は感じていた。経験の浅い、しかも信じられない失態を犯した僕を、ことあるごとに気遣ってくれていたことを。でも、本人はそんなことを口にすることもなく、いつも通りに楽しく、明るくカメラの前に立ってくれていた。その姿にあの時の自分がどれだけ救われたことか。
きっと監督をされていた時も、こんな感じだったはずだし、Jリーグの副理事長となった今も、こんな感じなのだと思う。自然体で、気取らず、でも、周囲のことは完璧に把握して、ちゃんと気遣ってくれる。だから、みんな原さんを愛してやまない。どの会場で見かけても、原さんの周囲には人が集まってくる。どこまでも太陽のような人だと思う。本人はきっと何の意識もしていないのだろうけれど。
スペインの気候や風土と原さんが凄くマッチしているとは、以前から強く感じてきた。今はお仕事が非常に忙しいから、すぐにそんなことにはならないと思うけど、ひょっとすると将来はスペインに移住しちゃうんじゃないかと、何となく予想している。一緒に行ったマジョルカ島、良い所でしたよね。あのあたりなんてどうですか?そうなったら、必ず遊びに行かせてくださいね。
文 土屋雅史(J SPORTS)
土屋 雅史
1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。
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