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サッカー フットサル コラム 2020年7月14日

追憶のリーガ・エスパニョーラ

土屋雅史コラム by 土屋 雅史
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その夜のフロアは妙にソワソワして、殺気立っていたことをよく覚えている。

2003年8月29日。J SKY SPORTS(当時)は重大な事態に直面していた。サッカーコンテンツの中でも主力リーグの1つだったリーガ・エスパニョーラの放映権を、失うかもしれない。その日のデスクが並ぶフロアには、普段は定時で退社するような各部署の部長もズラリと揃い、最終報告を待っているような状況だった。

そもそも私がJ SKY SPORTSを見始めたのは、リーガの中継にハマったからだ。むしろ『Foot!』より先に当時のリーガ中継に衝撃を受け、より深みに入り込んでいったと言っていい。

それまで数多くサッカーの中継を見てきたものの、あんな中継は経験したことがなかった。倉敷保雄という稀代の実況者が、ボールの回る選手の名前を的確に連呼し、サッカー業界を志す若者のカリスマ的な存在だった金子達仁が、惜しいシーンに「ノイ!」と叫ぶ。幸谷秀巳は思わず唸らされるような知識を披露し、羽中田昌はバルサ愛を憚ることなく言葉に乗せる。いわば“フリースタイル”に近い中継は、とにかく新鮮で、圧倒的な魅力に溢れていた。

入社したばかりの4月。新入社員研修の中継見学は、幸運にもレアル・ソシエダとレアル・マドリーの首位攻防戦。ブースの向こう側には倉敷さんと金子さんが座っており、まだ完全な視聴者気分のヒヨッコは、「何て贅沢な研修なんだ」と1人で興奮し、1人で盛り上がり、周囲の顰蹙を買っていたように思う。

だから、その数か月後。まさかリーガ放映権喪失の危機に、入社したばかりの会社が直面するなんて思ってもみなかったし、どこかで「とはいっても、結局ウチが獲るんだろ」くらいに甘く考えていたはずだ。しかし、結果はご存じの通り。シーズン開幕前日にリーガの放映権は他局へと移り、J SKY SPORTSは大事な主力コンテンツを失うこととなった。

その影響はもちろん『Foot!』も直撃する。そもそも2002-03シーズンは“リーガ・エスパニョーラハイライト”という冠を付け、それまでのプレミア、セリエとの三頭ハイライト体制から、明確にリーガへ特化した番組内容に舵を切っており、その流れを踏襲するはずだったシーズン開幕時に、そのリーグの映像がまったく使えなくなったのである。

ちなみに2003-2004シーズンの『Foot!』#1は、まさに放映権騒動の渦中にあった8月29日のオンエア。内容は言うまでもなくシーズンプレビューであり、オフに行った現地ロケの模様も網羅した内容だったが、初回放送のオンエア中に放映権がなくなったため、1回きりの放送となった。この回は番組ファンの間でも伝説の放送回として知られているとか、いないとか。

今回のセレクションでお送りするのは、まさにリーガの放映権がなくなった直後の放送回。倉敷さんと西岡さんが冒頭に“リーガ喪失”を伝えながら、それでも番組を続ける所信表明を、彼ららしいしなやかさで宣言してくれている。ある意味で『Foot!』が20年も続いたのは、この時に生まれた“なくなったものを逆手に取ってやる”マインドが、大きくその後の番組制作スタイルに影響を与えていたからだと思う。

伝統のクラシコは『紙芝居』という荒業で紹介した。その際にヘタウマ的な画を描いた石神ディレクターは、以降“石神画伯”という愛称でたびたび番組内にも登場することとなる。今回の放送冒頭では“石神画伯”が『紙芝居クラシコ』の発案について語っており、これは見逃せない特典映像だろう。

また、J SKY SPORTS時代からリーガ中継や『Foot!』を支えてきてくれた幸谷秀巳さんが、スペインで敢行したロケの模様もお届けする。今や某動画サイトで相当な再生回数を稼いでいるフェルナンド・トーレスのシュート練習、ワールドカップ優勝監督のビセンテ・デル・ボスケや元日本代表監督のハビエル・アギーレに直撃したインタビューなど、貴重な企画の数々も是非楽しんでいただければ幸いだ。

振り返ればリーガとは“余地”の大きいリーグだった。ラージョ・バジェカーノの“おかあちゃん会長”として知られるテレサ・リベロは、子供を寝かしつけてからスタジアムに来るため、よくウトウトしている姿をカメラに抜かれていた。

ホアキンとデニウソンが左右から仕掛けまくるのに、大して点の取れないベティス。カターニャやカルピン、モストボイ、グスタボ・ロペスなど仕事人風情が揃うセルタ。親分リケルメを筆頭に、フォルラン、ソリン、アルアバレーナ、フィゲロアなど個性豊かな南米勢が暴れ回ったビジャレアル。リーグを鮮やかに縁取るサブキャラの充実さは、そのままリーガの魅力だった。近年のほぼ2強体制にやや物足りなさを感じるのは、見る側の勝手な贅沢心だろうか。

どうやらベティスは今シーズンの最終節でバジャドリーと対戦するようだ。ホセ・ソリージャかあ。城彰二とビクトルのコンビは楽しかったし、マルコス・アスンソンのフリーキックはだいたいクロスバーに当たってたし。何も懸かっていないチーム同士だから無理だとはわかってるけど、倉敷さんと幸谷さんで中継やって欲しいなあ。あの2人こそ、こういう試合にうってつけだと思うのだけれど。

文 土屋雅史(J SPORTS)

土屋 雅史

土屋 雅史

1979年生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。早稲田大学法学部を卒業後、2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社し、「Foot!」ディレクターやJリーグ中継プロデューサーを歴任。2021年からフリーランスとして活動中。

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