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1986年メキシコ大会の準々決勝、ブラジル対フランス戦。と、1990年イタリア大会のラウンド16のブラジル対アルゼンチン戦。
後藤健生コラム by 後藤 健生新型コロナウイルス(COVID−19)の感染拡大は依然として収束の気配も見えず、Jリーグの再開もまったく先が見通せない状況が続いている。
筆者も、最近はほとんど外出はせずに在宅で仕事をしている状況だが、テレビのスイッチを入れてもスポーツの生中継もなく、海外サッカーも見ることができず、ずっといわゆる「試合に飢えた状態」にある。
読者の皆様もそれぞれの立場でご苦労されていると思いますが、ここしばらくは感染拡大防止のために(もっと酷い状態にならないように)辛抱せざるを得ないのでしょう。
中世ヨーロッパにおけるペストの流行(当時のヨーロッパの人口の3分の1くらいが死亡した)や世界全体で死者が5000万人に達したという20世紀初めのスペイン風邪(インフルエンザ)など、人類はこれまで何度もパンデミックを経験してきた。
だが、今回の新型コロナウイルスの拡大はあまりに急激だった。昨年の暮れ頃に「中国で不思議な肺炎が流行っている」という小さな記事を見た記憶があるが、それからまだ4か月も経っていないのに世界全体で死者が5万人を超えたというのだ!
テクノロジーの発展によって人やモノが大量に行き来することができるようになった現代。それによって、感染拡大のスピードは過去のいかなるパンデミックの歴史に比べても、あまりに速くなっているのだ。テクノロジーの発展の負の側面だ。
だが、同時にそんな中でもインターネットの世界というのは生きており、様々な情報を見たり、テレワークを実現したりすることができる。それは現代のテクノロジーの恩恵の一つだ。ネットで、様々な映像を見られるのも在宅を強いられる身には嬉しいことだ。
先日、ヒマにあかせてFIFAのサイトを見ていたら、「#WorldCupAtHome」と称して過去のワールドカップの試合の映像が観られるようになっていた。世界中で在宅を余儀なくされているサッカーファンにはとても嬉しい良い企画だと言っていい。
僕が気に入ったのは、その試合の選択である。普通に考えたら、各大会の決勝戦ということになるだろうが、FIFAの選択はそうではなかった(サイトの説明によると視聴者投票によるものだそうだ)。
そして、過去のワールドカップの中でも僕が最も気に入っている2つの試合がちゃんと選ばれていたのが嬉しかった。
ご承知かとも思うが、僕は1974年の西ドイツ大会以来12回のワールドカップを現地で観戦している。ちゃんと数えたわけではないが、おそらく試合数で言えば200試合くらいを見ているわけだ。
その中で、僕が気に入っている2つの試合というのは、1986年メキシコ大会の準々決勝、ブラジル対フランス戦。そして、もう一つは1990年イタリア大会のラウンド16のブラジル対アルゼンチン戦である。
まず、1990年の試合だが、前回優勝のアルゼンチンはこの大会の開幕戦でいきなりカメルーンに敗れて、その後なんとかグループ3位で決勝トーナメント進出を決めたのだ。一方のブラジルはスウェーデン、コスタリカ、スコットランドと対戦相手に恵まれたこともあって3戦全勝で堂々の1位通過を果たしたのだが、そこで待ち構えていたのが3位通過のアルゼンチンだったというわけだ。
試合は開始早々からブラジルが圧倒。何度もアルゼンチンのゴールに襲い掛かる。だが、正GKネリー・プンピードの負傷のおかげで出場機会を得たアルゼンチンのGKセルヒオ・ゴイコエチェアが立ちふさがり、またシュートが何度もクロスバーやゴールポストに嫌われて、ブラジルはどうしても点が取れないまま時間が経過する。
一方、アルゼンチンとしてはディエゴ・マラドーナが頼みの綱なのだが、足首を痛めていたマラドーナは本調子からは遠く、時折ドリブルを仕掛けるものの、ブラジルは割り切ってあっさりと反則で止めてしまう。
そして、ゲームはスコアレスのまま残り10分まで進んだが、それまで思うようなプレーができなかったマラドーナがハーフライン手前からドリブルで突破。ブラジルの4人のDFを引き付けてから、クラウディオ・カニーヒアにパス。フリーのカニーヒアがGKタファレウを交わしてゴールを決めて、アルゼンチンが勝利するのだ。
今回、改めて見直してみても、なんとも不思議な試合だった。面白い試合ではない。夜中に見たので、途中で居眠りをしてしまいそうだった。
だが、アルゼンチン人にとってはこういう勝ち方こそ最も嬉しいのだという。
昔、スカパー!で解説をしていた頃に同じ解説者だった亘崇詞(わたりたかし)さんとよく話したものだ。亘さんは、ボカ・ジュニオルスやドック・スードなどアルゼンチンで活躍したMFでアルゼンチン通だ。力で相手をねじ伏せて勝つのももちろん楽しいのだが、知恵と工夫と根性で強い相手を倒すことこそアルゼンチン人にとっては最も楽しいのだというのだ。
僕はアルゼンチンとは何の所縁もないが、心情的には10%くらいアルゼンチン人なので、やはり、このマラドーナがたった1度のプレーで(しかも、ブラジルに反撃の時間を与えないように80分という時間を待ってからのプレーで)宿敵ブラジルをやっつけたのは、なんとも痛快極まりないのである。
さて、もう一つの1986年のブラジル対フランス。
これは、誰が観ても面白い最高のゲームの一つだ。僕は、これまで6401試合を観戦してきたが、「最高の試合」といえば、やはりこの試合を挙げざるを得ない。
1982年スペイン大会では「黄金の4人」で世界を魅了したブラジルは、同じテレ・サンターナ監督のチーム。ミシェル・プラティニ以下アラン・ジレスやドミニク・ロシュトーを擁するフランスは1984年の欧州選手権(EURO)で圧勝したチーム。
その両チームが秘術を尽くして攻め合って1対1のまま延長戦までを終了し、PK戦でフランスが準決勝進出を決めたのだ。
延長に入ってからは疲労で倒れる選手も続出するが、味方が倒れていても、すぐにそのままプレーを再開するほど両チームがゲームに集中。120分を終えても、さらにずっと見ていたいと思ったものだ。これは、ぜひ皆様もご一見を……。
そういえば、この試合のVHSテープも持っていたと記憶している。他にも面白い試合の映像がたくさん残っているはずだ……。あとで家の中を探してみよう。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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