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サッカー フットサル コラム 2020年3月25日

世界的な災厄の中でスポーツが持つ力とは……。ベルガモという北イタリアの小さな街に寄せる心

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ヨーロッパでは新型コロナウイルス(Covid−19)の感染拡大が止まらず、選手などへの感染の情報も多いし、またレアル・マドリードのロレンソ・サンス元会長が死去するなど影響が続出している。

UEFAは6月の欧州選手権(EURO)の1年延期を決めたのに続いて、5月に予定されていたチャンピオンズリーグやヨーロッパリーグ決勝の延期も決定した。両大会とも決勝トーナメントに入ったところで中断しており、再開のメドも立っていない現状では当然の決定だろう。

感染が爆発的に拡大しているのがイタリアで、死亡者数はついに中国を上回って6000人を突破してしまった。イタリアと中国の人口比を考えれば、信じられない様な数字である。とくに深刻なのが同国北部のロンバルディア州で、中でも同州のベルガモでは約12万人の人口の半数が感染し、医療態勢が追いつかない、いわゆる「医療崩壊」が起きているとも言われている。

ベルガモは、本来なら今頃は歓喜に包まれているはずだった。

というのも、ベルガモを本拠地とするサッカー・クラブ「アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ」がチャンピオンズリーグのラウンド16でバレンシアを相手に4対1、4対3と連勝して、準々決勝進出を決めていたからだ。

セリエAの常連とはいえ、アタランタにとってはチャンピオンズリーグに出場するだけでも大きなことなのに、なんとベストエイトに進出したのだ。しかも、グループステージでは3連敗スタートという状況から、逆転で決勝トーナメント進出を決めての快挙だった。

新型ウイルスの感染さえなければ、本当だったら、今頃は準々決勝の対戦相手も決まって、街中の人たちが期待に胸を躍らせていたはずだったのだ。

ベルガモは、ミラノから日帰り観光も可能な山に囲まれた風光明媚な小都市だ。自転車のロードレース、ジロ・ディタリアでも、アタランタでのゴールが設定されると、ゴール前の城壁を臨む上り坂は実に美しいコースだった(そういえば、ジロの延期も決まってしまった)。

小都市ベルガモのクラブであるアタランタが、長くセリエAに定着できているのは、このクラブが育成面で素晴らしい成果を上げているからである。

クラブの下部組織から育った選手としては元イタリア代表で、代表監督も務めたことのあるロベルト・ドナドーニが有名だ。そのほか、他のビッグクラブから若い選手をレンタルして育てるという例も多く、たとえばフィリッポ・インザーギが得点王となって、その名を輝かせたのもアタランタ時代のことだ。

さらに、マルチェロ・リッピ、チェーザレ・プランデッリなどの名監督たちが、若き日にセリエAでの経験を積んだのもこのクラブでのことだった。

ホームスタジアムである「アトレティ・アズーリ・ディターリア」(「イタリアの青きアスリートたち」の意)は1928年完成という古いスタジアムで、設備も老朽化しているが、このスタンドを埋めるアタランタのティフォージたちは、北イタリアでは最高の熱さを誇っている。

要するに、さまざまな意味で、他のクラブとは一味違うのが「アタランタ・ベルガマスカ」だった。

一日も早く、ヨーロッパが正常な状態に戻って、チャンピオンズリーグにおけるアタランタの冒険の続きが見られるようになってほしい。そうなれば、まさに感染症に対する勝利を祝うに相応しい出来事となるだろう。

台風や地震のような自然災害。そして、今回のような感染症。あるいは、戦争……。

そうした災厄に対して、スポーツなどは実に無力のものだ。「スポーツが人々に勇気を与える」というのも一面の真理ではあるが、ある意味ではスポーツ界の思い上がりのような気もする。

ただ、たとえばベルガモという街が災厄に見舞われている今、「アタランタ・ベルガマスカ・カルチョ」という魅力的なクラブが存在することは、世界の人々がその街を思う時の大きな縁(よすが)となるだろう。

同じような災厄に見舞われた街があったとしても、名前も聞いたことのないような街だったら、どこか他人事のように思ってしまう。だが、そこに魅力的なサッカー・クラブがあって、そのスタジアムの様子を何度も(画面を通じてであっても)見てきたことがあるとすれば、遠い街での出来事も身近に感じることができる。

日本でも、東日本大震災の時に仙台のユアテックスタジアム仙台が支援物資の集積場として使われ、全国のJリーグクラブやサポーター同士のネットワークが活用されたことがある。サポーターは、応援するクラブを追って現地に足を運び、あるいはアウェーの試合をテレビ等で観戦する。そうした馴染みの町であれば、そこが災厄に見舞われたときには、自分たちの身に引き寄せて心を寄せることができる。

それも、スポーツの持つ力の一つなのだろう。

東京オリンピック・パラリンピックの“1年程度の延期”も決まった。2020大会には、すでに多額の経費が投入されている(組織員会の算出した少なめの試算でも1兆3500億円!)。延期となれば、さらに追加的に数千億円、いやおそらく1兆円近い予算が必要となるだろう。そして、そのツケの大部分が東京都や国に回ってくる。

ムダといえば、じつにムダな経費である。

ただ、これだけの経費をすでに投入してしまったのだから、しっかり成功させる以外に選択肢はないだろう。

世界的なパンデミックという災厄の中で、1年延期されたオリンピック・パラリンピックが正常に開催できれば、世界の人々の記憶の中に日本という国を“良いイメージ”とともに定着させることができるだろう。

大いなるムダの中でのポジティブな側面である。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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