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新型コロナウイルス(Covid−19)の感染拡大を受けて、2月27日に安倍晋三首相が突然「全国の小中高校の休校」を要請。全国のほとんどの学校が長期の休校に入って波紋を広げている。
その前々日の25日には厚生労働省が国民向けメッセージを発表していたが、その内容はスポーツ・文化イベントの「開催の必要性を改めて検討していただくようにお願い」する一方で、「現時点で政府として一律の自粛要請を行うものでは」ないというものだった。
それが一転して、翌26日には安倍首相が「イベントの中止」を要請。そして、27日の小中高校の休校要請となった。関係省庁間での根回しもない、安倍首相による突然の決定だったらしい。
この政府の方針転換に従って、スポーツ・イベントやコンサート、演劇などの公演は続々と中止が決定した。まるで「今、このご時勢に何かのイベントを強行するのは非国民」といった雰囲気となってしまったのだ。
これに対して劇作家の野田秀樹氏が「公演中止で本当に良いのか」という意見書を発表した。「ひとたび劇場を閉鎖した場合、再開が困難になるおそれがあり、それは『演劇の死』を意味しかねません」と主張する野田氏は「劇場閉鎖の悪しき前例をつくってはなりません」とも述べている。
首相の一言によってすべてが決まってしまうような風潮に警鐘を鳴らしたものだ。
本来なら、各主催団体がそれぞれのイベントに関して感染対策をとことんまで検討して、その上で他に方策が見つからなかった場合に苦渋の選択として最終的に中止を決定すべき事柄だ。それを、世間の風潮に従うような形で次々と中止にしてしまうのは、やはり「ことなかれ主義」と言わざるを得ない。
その点で、首相の「イベント中止要請」より1日前の2月25日にJリーグがリーグ戦やルヴァンカップの中止を決定し、読売巨人軍がオープン戦の無観客化を決めておいたことはとても良いタイミングだった。「首相の要請によって」ではなく、スポーツ界が自主的に決定したという形が取れたからだ。
「スポーツは政治からは独立した存在」というのは一つの理念に過ぎない。欧米のスポーツ先進国や日本では、かつての東ヨーロッパの社会主義諸国や現在の中国などのように政権があからさまにスポーツに介入することはないが、それでもスポーツ界は政治の介入を拒否することはできない。オリンピックの開催に当たっては、数千億円の公的資金が投入されているのだ。
そんな中で、Jリーグが政府の介入を待たずに自ら試合の中止を決めたことには大きな意味がある。
Jリーグはさらにプロ野球(一般社団法人日本野球機構=NPB)と共同で「新型コロナウイルス対策連絡会議」を設立。3月3日には専門家を招いて感染対策などについて協議。今後さらに試合開催の可否などについて協議を続けて、3月中旬をめどに意見書を取りまとめていく予定だという。
1992年にJリーグが発足して以来、プロ野球機構とJリーグはライバル関係にあっただけに、こうした協力は画期的なことだ。屋外のスタジアムで数万人規模の観衆を集めて行われるという共通項を持つ2つのプロスポーツがこの緊急事態に当たって共同で対処することになったというのは素晴らしいことだ。
今後の大きな課題は、中止(延期)となっている試合をいつから開催できるかという点だ。Jリーグは当初の発表通り3月18日に再開できるのか、そして、プロ野球は予定通り、3月20日に公式戦をスタートできるのか……。あるいは、無観客でもいいから早期に試合を行うのか、それとも、観客を入れられる状態になるまで再開(開幕)を先延ばしするのか……。
ウイルス感染の拡大が、いつ、どのような形で収束できるかはまったく予想できないが、さまざまな想定の下でいくつかのプランを作っておくべきだろう。
開幕(再開)がさらに遅れればスケジュール変更も余儀なくされる。東京オリンピック期間中にもJリーグを開催する必要が出てくるかもしれない。
一方で、もし3月18日に再開できれば日程調整はそれほど難しくないだろう。アジア・サッカー連盟(AFC)とFIFAは、すでに3月と6月に予定されているワールドカップ予選の延期を検討しており、おそらく今週中には延期が発表されるはず。代表ウィークにはJ1リーグは中断する予定になっていたが、代表の活動がなくなれば、この間にリーグ戦を行うことができる。
感染の危険度については、スタジアムの構造によっても違いがある。「換気のできない閉じた空間に多数の人が集まること」が危険なのだという。ドーム球場や開閉式屋根付きのスタジアムは閉じた空間だ。一方、開閉式屋根のないオープンなスタジアムであれば危険度は小さいはず。それなら、まずオープンなスタジアムでの試合を先行して再開することもできる。また、入場者数を制限して観客が密集しないようにしたり、ヴィッセル神戸の開幕戦のように声による応援を自粛したりすることもできる。
それぞれのスタジアム環境やその他の事情について詳しい当事者(各クラブ、各球団)がまず対策を検討し、それを持ち寄ってJリーグやNPBが決定を下すというのが本来のやり方であって、政府が一律に決めて命令を下すべき問題ではない(小中高校の休校についても、地方ごとの事情を勘案すべきであって、全国一律としたことには疑問を感じる)。
試合開催の中止あるいは無観客化に関しては政府の介入を待たずに自主的に判断できたJリーグとプロ野球機構。再開(開幕)についての判断に当たっても、しっかりと諸事情を勘案して自主的に決定してほしいものだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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