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釜山(プサン)から帰国してから、会う人毎に、あるいはメールをもらう人毎に「ひどい試合でしたね」といったことを言われる。そう、E-1選手権最終日の日韓戦のことである。
たしかに「惨敗」だった。得点差こそ0対1だったが、内容的には完敗。1失点ですんだのは幸運としかいいようがなかった(実際、韓国のシュートがゴールポストやクロスバーに当たった場面が2度もあった)。
立ち上がりからフルパワーの韓国は、右サイドのキム・インソン、左のナ・サンホをワイドに張らせて、そこにロングボールを蹴ってきた。日本代表がスリーバックで戦っているのだから、ウィングバックの後方のスペースを攻めてくるのは常套手段である。予想されたことのはずだ。
だが、日本チームはその対策も立ててなかったようで、激しい韓国の攻めでセンターバック、ボランチ、ウィングバックが大混乱に陥ってしまう。
しかし、完敗の原因はそんな戦術的な問題以前にあった。韓国の激しい当たりを前に、日本の選手の多くの腰が引けてしまったのだ。対応が遅れ、当たりに行けず、ずるずると下がって相手にスペースを与えてしまう。そんな状態で戦えるはずはない。
日本代表はワールドカップ2次予選ではタジキスタン以下の格下相手の試合が続いている。南米の強豪と戦うことも多かったが(コパ・アメリカを除いて)親善試合ばかり……。相手が、真剣勝負を挑んでくると完敗を喫するということは、先日のベネズエラ戦でも伺えた。そんなチームが、本気の韓国代表と戦えるわけはなかった……。
もっとも、E-1選手権に出場した“日本代表”が、韓国に勝てるわけは最初からなかった。
なにしろ、“日本代表”と称してはいたものの、大迫勇也も南野拓実も吉田麻也も長友佑都も堂安律もいないチームだったのだ。E-1選手権は日本側に拘束権がない大会だったから、ヨーロッパのクラブに所属する選手は招集できない。しかも、日本国内のJ1参入プレーオフや天皇杯の日程ともバッティングしたため、国内組の招集にも制約が課せられる。そんな状態だったのだ。
そこで、1月のアジアカップ終了以降は「ラージグループ」を作ることに専念している森保一監督は、そんな諸々の悪条件を逆手にとって国内組の中でA代表のバックアップとみられる選手と、来年のオリンピックを目指すU22代表候補の選手をほぼ半数ずつ集めたチームを編成してE-1選手権に参加したのだ。実力の劣る香港戦ではU22代表候補を主体に戦い、中国、韓国とは年齢が上の選手を中心に戦うことで、すべての選手を観察することができる……。それが、森保監督の思惑だった。
ヨーロッパ組を招集できないのは韓国も同じだった。ソン・フンミン、ク・ジャチョル、ファン・ヒチャンなどは呼べないのだ。だが、今の代表チームで比べれば、韓国代表は日本ほどヨーロッパ組の比率が大きくない。そして、パウロ・ベント監督はどんな試合でも常に最強チームを組んで戦うことを信条としている。
パウロ・ベント監督はスケジュール的に厳しい試合でも、ヨーロッパ組を招集して強行出場させていた。1月のアジアカップでは、プレミアリーグの日程の合間を縫って参戦したソン・フンミンを酷使した。そこで、地元開催ということもあろうが、パウロ・ベント監督はE-1選手権にもヨーロッパ組を除く最強メンバーを組んできた。
つまり、韓国が1.5軍だとすれば、日本は2.5軍か3軍と言った対戦だったのだ。
両監督のアプローチ。つまり、「ラージグループ」作りを優先する森保監督のアプローチと、常に最強メンバーで戦うパウロ・ベント監督のアプローチ。「そのどちらが正解」なのかは現時点では判断できない。それは、カタール・ワールドカップの結果を見て評価するしかないのだ。
だが、両監督のアプローチの違いを考慮すれば、少なくとも釜山の地で韓国が勝利したのは必然の結果だった。
森保監督が、そういう考えを抱いた理由の一つはE-1選手権という大会の中途半端さもあった。
東アジア最強の座を争う日韓両国はヨーロッパ組、つまり代表の主力を招集できない。それに対して、中国代表は国内組ばかりだから最強メンバーを組めるはずだが、中国も鄭智や武磊などのベテラン勢や帰化して代表入りしたエウケソンは招集外。マルチェロ・リッピ監督が退任して、中国サッカー界のレジェンドの一人、李鉄が監督に就任したが、あくまでも暫定扱いで、準備不足は明らかだった。そして、予選を勝ち抜いてきた香港は政治的な意味では注目されたが、チーム力ははるかに下だった。
そんな大会に最強チームを組んで優勝しても、たしかに意味はないとも思える。
かつて、「ダイナスティーカップ」あるいは「東アジア選手権」と呼ばれていた時代、この大会は東アジア諸国のプライドを懸けたヒリヒリするような戦いが繰り広げられていたものだ。だが、中国、北朝鮮の弱体化で日韓両国の力が圧倒的なものとなり、しかも両国の主力選手がヨーロッパで活躍するようになったために、東アジア連盟主催のこの大会の注目度は小さくなってしまった。実際、最終日の日韓戦には3万人近い観客が集まったものの、他の試合はすべて1万人以下の観客数だった。
こうなってくると、各国代表の厳しいスケジュールを縫ってこの大会を行う意味もなくなってきているように思えてくる。何かを変えなければいけない。
たとえば、年齢別の代表による大会にするのも一案だろう(U20代表の大会とU17代表の大会、女子の大会を同時並行的に行う)。あるいは、この大会を6月に開催することによって日韓両国のヨーロッパ組が参加できるようにすれば、スターが揃うビッグイベントにすることもできる。「トッテナム・ホットスパーのスターとリバプールのスターの対決」にでもなれば、イングランドのメディアですら興味を示すかもしれない。
E-1選手権。その将来について、見直す時期に来ていることは間違いない。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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