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横浜F・マリノスが最終節でもいかにもマリノスらしく3対0と攻め勝って、15年ぶりの優勝を決めた。
逆転優勝のためには4点差での勝利が必要だったFC東京が前半の立ち上がりから激しくプレッシャーをかけて攻撃を仕掛け、何度かチャンスを作った。もし、この早い時間帯に先制できていたら「逆転」の可能性も出てきたのだが、回ってきたチャンスを決め切れなかった。
このキックオフから20分ほどまでのFC東京が攻勢を強めた時間帯に横浜がしっかり守り切ったことが勝敗を決したと言ってもいいだろう。マルコス・ジュニオールや仲川輝人といった得点王争いをしているアタッカーたちもしっかり体を張った。
昨シーズンは、アンジェ・ポステコグルー監督の下で攻撃サッカーに取り組み始めたものの、「たしかに攻撃は面白いが、守備が崩壊してしまう」という脆さが目立った横浜だが、今季、とくに夏場以降は全員の守備意識が高まり、守るべき時間は守って機を見て攻撃に移るという王者に相応しい試合運びもすっかり板に付いてきていた。
リーグ終盤戦を見れば、横浜と東京のチーム力には明らかに差があったと言っていいだろう。
それを考えれば、リーグ戦前半の(つまり、久保建英がいた頃の)スタートダッシュでの貯金を生かして首位の座を守っていた東京としては、せっかく終盤まで勝点で横浜を上回っていたのに、第32節、第33節と2試合続けて下位チーム相手の試合で勝利を逃し、横浜に勝点でリードされた状況で最終節を迎えたのが致命的だった。
いずれにしても、最終節の直接対決は決勝戦らしい試合となり、決定機の数は互いに少なかったものの、横浜は決め切るところで決め切った。
後押ししたのは満員のサポーターの声援だった。日産スタジアムには気温7.1度の冷たい雨にもかかわらず、6万3854人の観客が詰めかけ、Jリーグの観客動員新記録を達成したのだ。
最終節では残留争いを巡る直接対決もあり、またダビド・ビジャの引退といった話題性もあったおかげか、各競技場で多くの観客動員を記録。9試合合計で25万8915人を動員(これは過去2番目の記録)。また2019年シーズンの入場者総数も史上最高の634万9681人(昨年比約8.8%増)に達し、1試合平均でも2万0751人とJリーグ史上初めて2万人台を突破した。
Jリーグの平均観客動員数は、これまで概ね1万7000人台から1万8000人台で推移してきた。
1993年の開幕年は「Jリーグブーム」と言われ、あらゆる試合で満員の観客を動員し、チケット争奪戦が繰り広げられた記憶が強いが、当時は旧国立競技場を除いて大きなスタジアムがほとんどなかったこともあり、平均入場者数は1万7976人だった。
その後、「ブーム」が去ると平均入場者数は1997年に1万0131人と1万人割れ寸前まで低下したが、2001年に1万6548人を記録すると、以降は1万7000人台から1万8000人台で推移してきた。1万9000人台に乗ったのは2007年、2008年、2018年だけで、それもいずれも1万9100人には届かない数字だった。
つまり、平均2万人という今年の数字は画期的と言っていいものなのだ。とくに今年はラグビーのワールドカップがあった関係で秋口のリーグ終盤戦に差し掛かる頃に首位争いをしていたFC東京と横浜F・マリノスがホームスタジアムを使えない時期があった。それにもかかわらず、入場者数が増加したのだ。
そういえば、先日はプロ野球(NPB)の観客数も、セ・パ両リーグの全試合平均観客数が3万人を突破したというニュースもあった。
ラグビー・ワールドカップでも予想以上に多くの観客がスタンドを埋めつくした。また、最近はBリーグという新しい人気プロ・スポーツも発足。ラグビーのトップリーグもワールドカップの影響もあって、入場券の売り上げが好調だとも聞く。
2020年東京オリンピックを前に、日本ではスポーツ観戦文化がすっかり定着してきているようだ。
数字だけではない。
たとえば、J2リーグ、J3リーグに所属しているクラブは全国のタイトルとは縁のない存在ということになる。かつて、日本のプロ・スポーツの全国リーグがプロ野球しかなかった時代には、全加盟クラブがリーグ戦優勝を目標に戦うのが建前だった。アメリカのプロ・スポーツではリーグ機構が介入し、ドラフト制度やサラリーキャップ制によって戦力均衡を図ってすべてのクラブが優勝を狙えるように調整を行うのだ。だが、サッカーの世界は弱肉強食の世界だ。J3のクラブが下克上を繰り返してJ1優勝を狙うには長い時間が必要となる。下部リーグのクラブは残留や昇格をかけて戦うのだ。
そんな、サッカーの文化もすっかり定着。下部リーグの全国各地のいずれのクラブにも熱心なサポーターが付いている。
また、ラグビーのワールドカップでは、日本代表以外の試合、外国勢同士の試合でも日本人ファンが試合観戦を楽しんでいたのがとても印象的だった。
今では、日本人の間にスポーツ文化がすっかり定着しているのは間違いない。
現在の日本は人口減少の時代を迎え、経済的にも成長は望めず、前途を悲観する人も多い。だが、「成長」だけがすべてではない。人口は減少しても、文化的な生活をすべての国民が享受できる。そんな社会をこれから築き上げていくべきだろう。スポーツや音楽などをライブで楽しもうという人々が増えている現代の日本の姿を見ていると、日本社会の将来もそれほど悲観的に考えなくてもいいのではないかという気がしてくる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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