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サッカー フットサル コラム 2019年11月19日

FIFA U−17ワールドカップは実力接近の世界。実力接近のバトルを制するのは運と力

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ブラジルで開かれていたFIFA U−17ワールドカップは11月17日(日本時間18日)に決勝戦を迎え、ブラジルがメキシコに逆転勝ち。追加タイムでの決勝ゴールという劇的な形で2003年大会以来通算4度目の優勝を飾った。優勝候補の一角にも挙げられていたブラジルは、終わってみればグループリーグから決勝戦まで7戦全勝という圧倒的な成績でカップを掲げることとなった。結果だけを見れば、まさに“圧勝”だ。

だが、内容は接戦の連続だった。

準決勝ではフランスに試合をコントロールされ、13分までに早々と2点を奪われたのだが、リードしてからフランスが受け身になってしまったこともあって、最後に大逆転で決勝にコマを進めた。

そして、決勝でもブラジルは開始直後からずっと攻め続けていながら、なかなか決定機が作れないという悪い流れの中、逆にメキシコの「唯一の」と言ってもいいようなチャンスを決められて大苦戦となった。

84分に生まれたブラジルの同点ゴールはVARによるPKだった。映像で見ても、メキシコDFの深いタックルを受けたベロンは、タックルの衝撃を避けるために自分でジャンプしたようにしか見えなかった。つまり、かなり幸運なPK判定だったと言わざるを得ない。そして、最後は超攻撃的な右サイドバックのヤン・コウトのクロスにラーザロが詰めて、優勝を手繰り寄せた。

ラーザロは、フランスとの準決勝でも終了直前に逆転のミドルシュートを叩き込んだ男だ。どんな大会でも優勝というのは実力だけで勝ち取ることは難しいもの。ラッキーボーイの出現も含めて、ブラジルは実力とともに幸運も持ち合わせていたということだろう。

そもそも、ブラジルは今年のFIFA U−17ワールドカップの南米予選で敗退していたのだ。それが、開催国だったはずのペルーの準備不足によって開催地がブラジルに変更となり、そのため一転して開催国として出場することになったのだ。

まさに、フットボールの神様があらゆる意味でブラジルに微笑んだと言っていい。

一方のメキシコは、実に粘り強い戦い方で決勝まで勝ち上がってきた。決勝戦でも、ブラジルにある程度攻め込まれるのは織り込み済みといった戦い方で、途中でシステム変更をしたり、選手の並びを変えたりしながら、攻めさせてはいてもチャンスは作らせないというノラリクラリとした戦いでブラジルを追い詰めた。そして、66分に左からのルナのクロスをブライアン・ゴンサレスが叩きつけるようなヘディングでボールをバウンドさせてゴールに捻じ込み、1点を先制するという試合巧者ぶりを見せた。

ブラジルとは対照的に、メキシコはグループリーグは1勝1分1敗の3位で通過。準決勝もオランダと引き分けと、まさに粘り強く戦ってようやく決勝にたどり着いた。

3位でグループリーグを勝ち抜けたのも、グループリーグ最終戦でソロモン諸島に8対0というスコアで勝利したことによって得失点差を+7としたことによるもの。“大会最弱”のソロモン諸島と同じグループに入って、しかもそれが最終戦だった(つまり、何点必要かを計算しながら戦える)という幸運によるものだった。

もちろん、決勝トーナメントに入ってから、しっかりとチームとしてまとまって勝ちぬいたのは称賛に値するが、ブラジル、メキシコともに決勝に進出できたのにはそれぞれ大きな幸運によるものだった。

つまり、FIFA U−17ワールドカップは「いかに実力が接近した大会だったか」ということ。決勝トーナメントだけを見れば、フランスが総合力でベストチームだったように思えるが、それでも、ちょっとした運、不運で結果はひっくり返ってしまうのだ。

ベスト4に残ったのは南米と中北米が各1カ国、そしてヨーロッパ勢が2カ国。メキシコも含めて、サッカーの伝統国がしっかり残った。前回大会の決勝戦がイングランド対スペインと、ヨーロッパ同士の対戦となったことでも分かるように、このところこの年代でもヨーロッパの勢いが増している。かつてヨーロッパでは「この年代はまだまだ育成」と考えられていたのだが、このところヨーロッパ各国で10歳代でトップデビューする若手選手が増えており、早い段階から大人の選手と同レベルの戦術的訓練をするようになったのだろう。

それに反比例して、この年代では圧倒的な強さを誇っていたアフリカ勢の退潮も目についた。アフリカからは、ナイジェリア、セネガル、アンゴラと3カ国が決勝トーナメントに進んだのだが、いずれもラウンド16で敗退した。かつては、この年代では彼らの身体能力が効果を発揮いたが、ヨーロッパ勢をはじめ、各国が戦術的に戦えるようになったことで、身体能力だけでは勝ちぬけなくなったのだろう。

さて、上位進出を期待され、実際、初戦でオランダを破るなどグループリーグを首位で通過した日本代表は、ラウンド16でメキシコに完敗を喫した。

原因のひとつは、肝心のラウンド16で日本代表自身が調子を落としてしまったことがある。強豪ぞろいのいわゆる“死の組”に入ったことで、グループリーグ勝ち抜きが大きな焦点となり、グループリーグ初戦のオランダ戦がピークになってしまった。

同じくラウンド16で敗退となったU−20ワールドカップでも同じような現象が起こった。いや、昨年のロシア・ワールドカップでも、女子ワールドカップでも、このところ日本代表は各カテゴリーのワールドカップで決勝トーナメントの初戦で敗退している。いかにして、余力を残しながらグループリーグを通過するかを考えなければならないのではないか。

そして、もう一つの敗因は、ここぞというところでゴールを決められないことだった。

「良いゲームをしたのに得点できずに敗退」。これまでにも、再三見てきた光景だ。たとえば、決勝に進出したブラジルとメキシコなどは内容の良くないゲームでも、なんとかゴールを奪って勝ちぬいている。「個の力」でも「幸運」でもいいから、どんな形でもゴールを奪いとる。そんな泥臭い勝ち方も身に着ける必要があるのだろう。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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