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アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)準決勝のセカンドレグで浦和レッズが広州恒大を1対0で破り、2年ぶり3度目の決勝進出を決めた。ファーストレグでの2対0の勝利によって獲得したアドバンテージを計算しながら、しっかりとしたゲームプランに基づいた見事な戦い方だった。
広州恒大は中国超級聯賽(スーパーリーグ)で2011年から7連覇を達成。昨年こそ優勝を逃したものの、今年も首位を走っている中国の“絶対王者”的な存在だ。そんな強豪に対して、今季のJ1リーグで12位と低迷している浦和レッズが完勝した。
Jリーグで結果が出せない浦和が、どうしてACLでは上海上港に続いて広州恒大を倒すことができたのか?
もちろん、明確な答えがあるわけではないが、中盤でボールを正確に動かす技術、あるいは守備のための戦術に忠実な動きなど、日中両国間のサッカーの質の違い、プレー強度の差が大きな理由の一つだろう。
Jリーグで対戦する相手は、浦和のプレーを分析して、そのストロングポイントを消してくる。その点、中盤での守備が緩い中国勢が相手だと、浦和はその攻撃力を存分に発揮することができる。
もちろん、幸運もあった。セカンドレグで言えば、38分にタリスカのシュートがクロスバーを叩いた場面がそうだったし、その他にも広州恒大には何度か決定機があった。しかし、GK西川周作の好守もあって、とうとう最後まで広州恒大のシュートはネットを揺らすことができなかった。
2試合を通して言えば、最大のポイントはファーストレグの終盤(84分)に韋世豪が貴重なアウェーゴールを決めたかと思われた場面ばあった。“ゴール”はぎりぎりのオフサイドの判定で取り消されたが、もしあの“ゴール”が認められていたら、セカンドレグはアウェーゴールを持った広州恒大が優位という状況での試合となってしまっていただろう。
つまり、浦和の勝利は薄氷を踏むような勝利ではあった。だが、そうした状況を踏まえてしっかり戦ったあたりは浦和の強さを見せつけた勝利でもあった。
セカンドレグの勝負どころの一つは、浦和の左サイド(関根貴大のサイド)だった。
16分に広州恒大の最初のビッグチャンスが生まれたのも、こちらのサイドだった。楊立瑜への縦パスが出た瞬間、関根がカットを狙ってスライディングをしたものの、これが届かず、パスが楊立瑜に通り、クロスに合わせたタリスカが強烈なシュートを放ったが、西川がすばらしい反応で防いだ場面だ。
あそこでパスカットを狙った関根のプレーは明らかな判断ミス。関根はもともと攻撃的な選手であって、守備力は高くない。
埼玉スタジアムでのファーストレグでは、関根のサイドからの攻撃が一つのキーとなっていた。左センターバックの槙野智章がタッチライン沿いのサイドバックの位置に出て、関根を押し上げる形で、浦和は左肩上りで攻撃を仕掛けたのだ。
「2対0でリード」という優位に立って迎えたセカンドレグでは、より守備力の高い宇賀神友弥を先発させる選択もあっただろうが、大槻毅監督はファーストレグと同じく関根の先発を選択した。守備的なイメージになることを恐れたのだろう。
一方、広州恒大のファビオ・カンナヴァーロ監督はこのサイド(広州恒大の右サイド)に、ファーストレグでは途中交代で起用した、より攻撃的な楊立瑜を先発させた。関根の攻撃力を押さえるために、こちらサイドから攻撃を仕掛け、関根に守備をさせようとしたのだろう。
そのカンナヴァーロ監督の選択は効果的だった。セカンドレグの広州恒大は、右の楊立瑜,左の韋世豪の両サイドが積極的に仕掛けて、チャンスを作ることに成功していた。
もう一つ、浦和にとっての脅威だったのは、トップ下のポジションにいるタリスカだった。ワントップのエウケソンはセンターバックがほぼ完ぺきに抑えたものの、タリスカを捕まえられず、何度もシュートを打たれたのだ。
しかし、この辺りは浦和は最初から想定していたのかもしれない。サイドを突破されても、タリスカに遠目から打たれても、エウケソンを押さえ、そしてタリスカなどのシュートにはコースに入ってブロックしたり、あるいはシュートコースを限定できれば防げるという計算だったのだろう。
こうして、攻め込まれながらも守備で耐えて、チャンスをつかんだらカウンターを仕掛け、アウェーゴールを奪って勝負を決める。それが、浦和のゲームプランだった。
そして、後半に入ってすぐの50分にその狙いが的中する。
右サイドを橋岡大樹が突破して上げたクロスに、マークする張琳凡の裏から飛び込んでフリーとなった興梠慎三がヘディングで叩き込んだのだ。
興梠のマークする相手との駆け引きのうまさによって生まれたゴールだった。
ゴールの場面だけでなく、興梠はくさびのパスを受けてポイントを作ったり、中盤に下りて守備に参加したりと獅子奮迅の大活躍。セットプレーの守備では自陣ゴール前で体を張った。今シーズンのACLでの浦和の快進撃は興梠の貢献抜きでは実現不可能だったろう。
数年前まで、興梠という選手は好不調の波が大きかったが、最近の興梠はコンスタンとに力を発揮している。興梠はすでに33歳だが、キャリアの中でも今がピークにあるのではないか。
大迫勇也がいなくなるととたんに攻撃が不安になる日本代表だが、もし、興梠本人にその気があるのなら、大迫不在の際には興梠を招集することも一つのアイディアとなるのではないか。興梠の活躍を見ていると、そんな気持ちにもさせてくれる。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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