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すっかり、ラグビーのワールドカップが盛り上がっている。
「サッカーは番狂わせが起こりやすいスポーツなのに対して、ラグビーは番狂わせは起こらない」とよく言われるが、そんな中で日本がアイルランドを破ったのは大きな驚きだった。だが、これも「番狂わせ」とは思えない試合だった。
少なくともこの試合に限って言えば、日本の勝利は順当なものだった。トライ数では2対1でアイルランドの方が多く、日本の得点はPGが多かったが、いずれも日本が攻めて反則を誘ったことによるペナルティーだった。日本にもう少し「決定力」があれば、アイルランドにボーナスポイントを渡すことはなかっただろう(このボーナスポイントが、仇にならないといいのだが……)。
日本がアイルランド戦のようなパフォーマンスを続けられれば、サモアにはもちろん、スコットランドにも勝って準々決勝進出が実現することだろう。
そこで、ちょっと気が早いが、日本が準々決勝進出に成功したとして、「サッカーとラグビーの両方のワールドカップで決勝トーナメントに進出する国がいくつあるのか」ということを考えてみたのだ。昨年のロシア・ワールドカップと、今年の日本でのワールドカップ。その両方で決勝トーナメントに進めそうなのは、実はイングランドとフランス(またはアルゼンチン)、そして日本のたったの3カ国なのだ。
サッカーでは世界最強レベルのブラジルも、スペインも、ドイツも、そしてロシアで輝いたクロアチアもベルギーも、ラグビーではワールドカップに出場もしていない。逆に、ニュージーランドも、ウェールズも、アイルランドも、南アフリカも、サッカーでは決勝トーナメントに進むほどの力はない。
考えてみれば、すごいことだ。
かつて、日本のサッカーにとってワールドカップ出場など「夢のまた夢」だった。1987年にラグビーのワールドカップが始まって日本チームが参加するようになった頃は、サッカー関係者は「いいなぁ、ラグビーはワールドカップに出られて……」と羨ましく感じたものだ。
しかし、アジア予選は簡単に突破するものの、日本のラグビーは世界では勝てなかった。サッカーも1998年に初めてワールドカップに参加し、2002年には地元開催の大会でベスト16に進出。2010年の南アフリカ大会では国外での大会でもベスト16に進んだ。そして、その頃になると、サッカー人はやや上から目線で「ラグビーは、勝てないよなぁ……」と思うようになった。
それが、今ではサッカーも、ラグビーもともに決勝トーナメントに進む時代になったのだ。つまり、昔のことを知っている身としては信じられないことではあるが、日本は世界でも一流の「フットボール・ネーション」になったということになる。
最近の日本の若い世代のサッカー選手を見ていると、戦術的な幅が広くなっている。試合の状況や、相手の戦い方に合わせて、自分たちのプレーをコントロールできるようになっているのだ。つまり、いわゆる「サッカーの常識」を備えているのである。
そして、今回のラグビーの日本代表を見ても、日本は本当にラグビーの基本に忠実にプレーしているように見える。「ラグビーの常識」が身に着いているのだ。
サッカーとラグビーというのは、一見、まったく別のスポーツのように見える。だが、実はルーツは同じフットボールである。
最近、ドイツに初めてサッカーを紹介したという本を見せてもらった。K・コッホと言う人が書いた「フッスバール」という本で、1875年に発行された小さな本の復刻版である。そこにはフットボールのルールの紹介が紹介されているのだが、内容を読んでみると選手の数は15人ほどとか、ボールより前にいる選手は全員がオフサイドとか、どう考えてもまるでラグビーのような内容なのだ。
1863年にロンドンのフットボール・クラブが統一ルールを作るために集まってできたのがフットボール・アソシエーション(FA=協会)であり、そこで定められたのがアソシエーション式フットボール(つまりサッカー)のルールだったのだが、最初のサッカー・ルールは、昔のフットボールと同じように、ボールより前の選手はみなオフサイドで、選手数も同数なら11人より多くても良かった。ラグビーとの大きな違いは、ボールを手で持ったまま(抱えたまま)前に運ぶことができるかどうかという点だけだった。
一方、最初のラグビー・ルールも、昔のフットボールと同じで、得点はあくまでもゴールポストの間にボールを蹴り込んだ時にだけ認められた。ゴールラインの後方でボールを抑えてタッチダウンしても、ゴールに向かってキックする権利が与えられるだけで、タッチダウン自体は得点ではなかった。その後、「トライ」という得点方法が認められて、タッチダウンしただけで得点を与えられるようになり、今ではトライの方が重視されるようになっているのだ。
つまり、最初はサッカーもラグビーもかなり似たルールだったのだ。だが、サッカーはボールより前にいても、守備側の選手が3人以上いれば(現在は2人)オフサイドではないとルールが変更され、前方へのパスが認められるようになった(昔のままのルールだったら、前方のターゲットに向かってロングボールを蹴ることも、スルーパスを通すこともできなかった)。そして、ラグビーの方は得点の方法が変わったために、2つのフットボールはまったく違った方向に進化することになったのだ。
だから、歴史的に見ればサッカーとラグビーには共通点が多いはずだ。今でもきっと「サッカーの常識」、「ラグビーの常識」の上位概念として「フットボールの常識」というものが存在するに違いない。
サッカーとラグビーは、どうも互いを敵視し合うところがあるのだが、本当は協力し合うべきではないのか。互いの良いところを取り入れることで少しでも進歩して、日本らしいサッカー、日本らしいラグビーを確立し、いずれはサッカーでもラグビーでもそろって「世界チャンピオン」を目指したいものである。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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