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フランスで開かれた女子ワールドカップでラウンド16敗退に終わった日本女子代表(なでしこジャパン)が、いよいよ来年の東京オリンピックに向けて再スタートを切る。その初戦となるカナダとの親善試合(10月6日・静岡)のメンバーが先日発表された。
ワールドカップの前には最後の最後まで選手のテストを続け、大会直前までメンバーを固定しなかった高倉麻子監督だが、東京オリンピックに向けては「枠を大きく広げたりせず、基本的にはワールドカップのメンバーをベースに」と語る。ワールドカップ・メンバーを中心にコンビネーションと精度を上げて、オリンピックでのメダル獲得を目指していく方針のようだ。
ワールドカップでは若いメンバーを中心に戦ったが、その若い選手たちがワールドカップで世界のトップとの戦いを経験。結果的にはワールドカップがオリンピックへの準備大会ということになった。通用したところと通用しなかったことを確認して、それを次に生かしてもらいたい。
そんな中で、注目はFWの田中美南(日テレ・ベレーザ)の代表復帰だろう。
フランス・ワールドカップで最大の課題は何と言っても決定力だった。
たとえば、日本はラウンド16でオランダに敗れてしまったのが、少なくとも後半は完全に日本がゲームをコントロールして何度も決定機をつかんでいた。しかし、とうとう最後までオランダ・ゴールをこじ開けることができず、1対1のスコアのまま迎えた終了間際にやや厳しい判定で熊谷紗希がPK取られて敗れてしまったのだ。最後にPKを取られたことよりも、勝ち越し点を決め切れなかったことが敗因だったのは間違いない。
もちろん、決定力不足というのは世界中のほとんどの監督が悩んでいることだろうが、日本にとってこれから東京オリンピックまでの間にこの課題を解決しておかなければならない。「チャンスを作るまで」は戦術的な工夫で改善することができるのだが、「決定力」の部分は結局は個人の問題でもある。チームの戦術に適合し、そして個の力を持つストライカーを見出すこと。これが、来年のオリンピックでメダルを獲得するための最大の課題だ。
その“最後のピース”となるかもしれないのが、ワールドカップではメンバーから外れて話題となった田中美南なのかもしれない。たしかに、昨シーズンなどは伸び悩んだ印象もあったが、それにしてもなでしこリーグでは3年連続で得点王を獲得している選手だ。決定力不足の解消という課題を考えれば当然の代表復帰である。
代表発表直前のノジマステラ相模原戦では、田中は視察に訪れた高倉監督の目の前で4ゴールを決めてしまった。DFからの縦パスに抜け出してコントロールしてすぐに滑らかな動きでシュートに持ち込んで先制すると、こぼれ球に反応して2点目、クロスをヘディングで決めて3点目、そして抜け出した味方からのパスを受けてゴール前でボールを運んでから蹴り込んで4点目とすべてが違う形でのゴールだった。
とにかく、ゴール前で点を取ることがすべてという、根っからの点取り屋だ。
もう一人、注目は今回のメンバーで唯一の初招集となった高橋はな(浦和レッズレディース)だ。
登録はDFだが、代表ではU-17ワールドカップではFWとしてプレーしており、U-19代表からDFとなり、優勝したU-20ワールドカップではセンターバックとして南萌華(浦和)とコンビを組んでいた。
代表発表の2日後には、なでしこリーグで首位争いをしている日テレ・ベレーザと浦和レッズレディースとの直接対決があったが、この試合では高橋はベテランの安藤梢とコンビを組んでツートップで起用されて2ゴールを決めた。
現在19歳の高橋。慎重168センチという高さを生かしてダイナミックな動きが目を引いた。高倉監督が高橋をDFで起用するのか、FWで起用するのかも含めて注目したい選手である。
さて、なでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)では、このところ日テレ・ベレーザが4連覇。かつて、INAC神戸レオネッサがタイトルを独占した時期もあったが、ここ数年はベレーザの天下が続いていたのだ。だが、今シーズンは第13節終了時点で浦和レッズレディースが首位に立っている。2位の日テレは消化試合数が1つ少ないのだが、首位浦和との差は直接対決で敗れて勝点6差に開いている。
もちろん、カナダ戦の代表に11人を送り込んでいる日テレがテクニック面でも戦術面でも1枚上のような気はするが、浦和は高橋の他にもやはり代表FWの菅澤優衣香や若手DFの南萌華など上背があり、ダイナミックなプレーをする選手が多く、なかなか魅力的なサッカーをしている(ちなみに、今シーズンから浦和を指揮しているのは、一昨年まで日テレの監督を務めていた森栄次監督。浦和の選手の潜在能力をうまく引き出したようだ)。
日本代表としても、アメリカ代表や躍進著しいヨーロッパ勢と戦う時には、テクニックを生かしたパス・サッカーが武器にはなるが、同時にゴール前では高さやダイナミックさも必要になる。その意味でも、なでしこリーグ首位を走る浦和には注目したい。
さて、10月に日本と対戦するカナダはフランス・ワールドカップでは日本と同じくラウンド16で敗退と失意の大会となってしまった。ともに、フランスで負った痛手からの立ち直りを懸けた戦いとなる。
2020年の地元開催では、ぜひ男女ともにメダルを獲得して、サッカーというスポーツの存在意義を示してほしいものである。それが、現在計画が進んでいる女子リーグのプロ化の成功にもつながるはずだ。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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