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ラグビーのワールドカップが始まったので、早速大会2日目にフランス対アルゼンチン戦を見に「東京スタジアム」に行ってきた。チケットの申し込みをするのが遅かったので、日本戦などはもう手に入らず。そんな中で、この好カードのチケットを手に入れることができたのだ。プールCには優勝候補の一角のイングランドに加えて、このフランス、アルゼンチンが同居しており、いわゆる「死のグループ」を形成している。そのプールCの開幕戦という好カードだった。
そもそも、サッカーの世界ではフランスはミシェル・プラティニの時代に「シャンパン・サッカー」として、同時代のディエゴ・マラドーナのアルゼンチンと双璧をなすパス・サッカーの最高峰の国だった。1980年代には、フランス対アルゼンチンはまさに夢のカードであり、1986年のメキシコ・ワールドカップでは両者の決勝対決を夢見たものだったが、フランスが西ドイツに敗れてしまって実現しなかった。
もちろん、サッカーとラグビーの違いもあり、またサッカーのフランス代表も今では勝利至上主義のリアリズムのサッカーをするようになってしまったのだが……。
ただ、ラグビーの世界でもフランスはサッカー同様に「シャンパン・ラグビー」と言われたこともあるし、正確なハンドリング技術を使ったパス攻撃は魅力的だ。また、アルゼンチンのラグビーもこのところ躍進著しく、サッカー人である僕にとっては魅力的なカードであることは間違いない。
前半はアルゼンチンがペナルティーゴール(PG)で先制したものの、その後はフランスが見事なパス回しでアルゼンチンを圧倒。20対3とリードしてハーフタイムを迎えた。「もう、勝負あったのかな」と思っていたら、後半は開始早々にアルゼンチンがラインアウトからのモールを押し込んでトライを決めると勢いに乗り、突進力を生かして着実に追い上げ、ベンジャミン・ウルダピジェタが2本のPGを決めて28分に逆転する。だが、フランスのカミーユ・ロペズがドロップゴール(DC)を決めて再々逆転。そして、タイムアップ直前にアルゼンチンは距離はあるものの正面に近い位置でペナルティーを獲得。入れば再び逆転というキックだったが、惜しくも左に外れてフランスが逃げ切った。
結局23対21のわずか2点差。コンバージョンキックやペナルティーキックなど、アルゼンチンのプレースキックの精度がもう少し高かったらアルゼンチンが勝っていたわけだ。いずれにせよ、得点が二転三転して素人でも楽しめる試合だった。
さて、サッカーのワールドカップは僕は1974年の西ドイツ大会以来、もう12回も現地観戦しているが、ラグビーのワールドカップはこれが初めての経験だった。
観戦した印象は、サッカーのワールドカップと思っていた以上によく似た雰囲気だった。
もちろん、僕はサッカーの場合は記者席で見ており、今回は一般観客席で観戦したという違いはある。だが、記者席のチケットが入手できないときなど、ブラックマーケット(要するに、スタジアムや街の広場に立っている人たち)から入手した入場券で一般席で見たことは何度もある。
「東京スタジアム」、つまりいつもはJリーグでFC東京や東京ヴェルディの試合を観戦している「味の素スタジアム」だが、周囲にはフランス、アルゼンチンのサポーターをはじめ外国人の姿も多く(約3割くらいが外国人か)、行きかえりの京王電鉄の車内でも、最寄りの飛田給駅構内でも外国語が飛び交って、これだけでもワールドカップ気分が盛り上がる。
J SPORTSのプログラムを見ていると、ラグビー解説者が「ラグビーの場合は、両国のサポーターがまじりあって座っている」と言っていた。あれは、「サッカーでは考えられないことでしょうが」ということを含意しているのだろうが、サッカーのワールドカップでも、今では両国サポーターがまじりあっているのは普通のことだ。
フーリガンが跳梁していた時代はもう20年以上も昔のこと。特にワールドカップはお祭り的な意識が強く、サッカーのワールドカップでも各国のサポーターは入り混じって、交流を深めている。
日本ではサッカーのファンとラグビーのファンはまったく重複していないし、むしろ互いに嫌っているようなところすらある。だが、フランスにしても、アルゼンチンにしても、サッカーもラグビーも両方好きだといったファンは多いし、両方のワールドカップを見に行く人もかなりいるのではないだろうか。ラグビーの試合でも、横縞のプーマス(アルゼンチン代表)のシャツではなく、縦縞のサッカーのシャツを着て応援しているサポーターはいくらでもいるし、フランス人でもグリーズマンやムバッペの名前の入ったシャツを着ている人が何人もいた。
応援の歌声も、サッカーとさほど変わらない。フランスの応援団はユーロですっかり流行したアイスランドのバイキング・クラップを盛んにやっていたし、アルゼンチンは例の「バモ、バーモ、アルヘンティナ」で盛り上がっていた。
サッカーのワールドカップはかつてのフーリガンが横行し、殺伐とした雰囲気だった時代を経て、皆が仲良く盛り上がるお祭りに変化してきた。一方、ワールドカップが始まった1980年代にはまだアマチュアリズムに縛られていたラグビーも今ではすっかりプロ化して演出も華やかになっている。
試合内容の面でも、スクラムで押したり引いたりを繰り返したり、タッチキックを蹴り合ったりすることが多かったユニオン・ラグビーも、今ではボールがどんどん動くようになり、どこかサッカーと共通する部分が増えているようにも思う。
荷物検査もスムースで、入場にはまったく時間がかからず、また交通規制が行き届いていて、試合終了後の飛田給駅までのアクセスも普段のJリーグの時よりもずっとスムースだったし、特急も増便したのか、電車の混雑もいつもより緩和されていた。
普段は記者席で観戦しているので試合中にビールが飲めないのが残念なので、今回はビール片手に観戦できたのも嬉しかった。もっとも、スタジアム内では当然のことながらスポンサーになっている1社のビールしか飲めないし、1杯1000円という値段もびっくり。独占スポンサーなのだから、格安に提供してくれてもいいのに……。
次は、南アフリカ対イタリアを見に、静岡まで行く予定です。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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