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サッカー フットサル コラム 2019年9月12日

悪条件を克復してW杯予選で好スタートを切った日本代表。「劣悪なピッチ・コンディション」というフレーズはもはや死語?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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大迫勇也

ワールドカップ2次予選が始まり、日本代表は初戦でミャンマーを破って、順調なスタートを切った。

といっても、相手は格下のミャンマー(かつてのビルマ)だった。1970年代頃まではアジアの強国の地位を保っていたミャンマーも軍事政権下で国際交流の場を失ったためか、すっかり弱体化。ようやく、最近になって強化が進み始めたばかりで、現在のFIFAランキングは135位(それでも、東南アジアの中ではベトナム、タイ、フィリピンに次いで4番目)。

そんな格下の相手なので、日本の勝利は当然のことではある。

強いて不安要素があるとすれば、初戦の緊張感とピッチや気候などのコンディションの面だけだった。

メディアは、そんな不安要素を強調していたが、日本代表は降りしきる雨という難しいコンディションの中で前半の26分までに2点を奪って完勝してみせた。先日のパラグアイ戦と同じように「3点目」が取れなかったのが問題と言えば問題だったが、後半もチャンスは多く、クロスバーを叩く場面や相手GKの好守もあった。そこで無理をして「3点目」を取りに行くことなく、しっかりとコントロールして、無失点で終えたのは間違った選択ではなかった。

日本は、Jリーグが発足した1990年代以降、アジアの強国の地位を維持。アジア相手の試合では(韓国、イラン、オーストラリア戦を除いて)、引いて守る相手の守備をどうやってこじ開けるかが最大のテーマだった。

だが、ボールを保持していてもゴール前の迫力に欠けて点が取れず、一発のカウンターを狙われる……。それで苦い思いをしたことも何度もあった。GKとセンターバックが日本の弱点であり、またピッチ・コンディションにも悩まされてきたものだ。ボールを持っても、シュートを撃たないとも言われていた。今回のミャンマー戦で不安要素を掻き立てるような報道がなされたのも、そんな過去の苦い記憶があったからなのだろう。

だが、今の日本チームはそんな不安要素を払拭しつつある。

攻撃面でいえば、大迫勇也というポストプレーに長け、自らも点が取れる総合的なCFが存在し、2列目の堂安律、南野拓実、中島翔哉の3人は貪欲にドリブルで切れ込み、シュートを放つ。

守備面の弱点と言われ続けたCBも、吉田麻也がイングランド・プレミアリーグでしっかりとポジションを確保し続けており、そして、若い冨安健洋はボローニャに移籍してセリエAでも素晴らしいパフォーマンスを発揮している。冨安の守備範囲の広さは驚異的だ。

そして、ミャンマー戦最大の懸念材料だった、ピッチ・コンディションの悪さにも、日本代表は動ずることがなかった。

かつて、フィリップ・トルシエ監督の時代にワールド・チャンピオンであるフランスに挑戦し、サンドゥニの軟弱なピッに足をすくわれて0対5の大敗を喫したのは2001年の初め。19年近く昔のことだった。当時、あのコンディションの中でしっかりとプレーできたのは中田英寿だけだった。

アジアの戦いでも、ピッチに足をすくわれたことが何度もあり、当時のサッカー・メディアでは「劣悪なピッチ・コンディション」というフレーズがしきりに飛び交っていた。

日本代表がミャンマーと対戦したヤンゴンも、試合当日は雨が降り続いており、トゥワンナ・スタジアムのピッチはたっぷり水を含んだ状態で、しかも芝生が長くボールが走らない状態だった。日本のパス・サッカーには不向きな状態だ。

だが、日本代表はいつもより強めのキックを使ってそんなピッチ・コンディションを克服し、しっかりパスをつないでいた。そして、ロングボールでサイドチェンジを多用して、ミャンマーの守備を押し広げてチャンスを作り続けたのだ。

今の若い世代の日本人選手は応用力が高い。「劣悪なピッチ・コンディション」なるフレーズも死語と化したと言っていいだろう。

海外でプレーする選手が増えて、様々なコンディションを経験しているのだろうし、選手が入れ替わっても、過去の代表戦での記憶は生き続いている。

そして、何と言っても技術レベルがこれまでより一段と高くなっているので、コンディションが悪い状況でも正確にボールを操ることができるようになったことが大きい。「初戦の緊張感」を吹き飛ばしたのは、テクニック・レベルで相手を大きく上回っていることによる自信のようなものなのだろう。

「劣悪なピッチ・コンディション」というと思いだすのが、1994年のキリンカップで来日したフランス代表のパフォーマンスだ。もう四半世紀も前のことだ。

この大会はアメリカ・ワールドカップ直前に開かれた大会だったが、フランスはイスラエル、ブルガリアとのホームゲームで連敗して、まさかの予選敗退となっていた。だが、前線にはエリック・カントナ、ジャン=ピエール・パパン、ダビド・ジノラといったスターが並んでおり、もしワールドカップに出場していれば「優勝候補」と言ってもいいチーム力を誇っていた。

そのフランスが神戸ユニバでオーストラリアと対戦した試合は、台風の直撃を受けて大雨の中の試合となった。Jリーグがスタートした直後のこの時代、日本のスタジアムのピッチはそれほど良いものでなく、神戸のピッチも水浸しだった。

フランスといえば「シャンパン・サッカー」。パスを華麗につなぐチームだった。だから、今よりも体力的なプレーを身上としていたオーストラリアが有利なんじゃないかと思っていた。しかし、フランスは悪コンディションの中で、いつもとはまったく違ってロングボールを駆使し、浮き球を多用しながら、やはり華麗に攻めて1対0で勝利して見せたのだ。

技術力さえあれば、どんなコンディションでも克服できる。日本代表は、まだあの時のフランスの域には達していないけれど、やはりどんなコンディションの中でもしっかりプレーできるようになってきているようだ。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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