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サッカー フットサル コラム 2019年7月25日

審判は外部からの情報に頼ってはいけないのか?なにも、そこまで“禁欲的”にならなくてもいいのではないか

後藤健生コラム by 後藤 健生
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考えてみれば(いや、考えるまでもなく)、審判というのは実に大変な仕事である。たった3人(4人)で両チーム合計22人もの屈強な男たち(女たち)によって繰り広げられるあらゆる事象に責任を持って対処しなければならないのだ。しかも、今では何か問題のシーンがあれば、ピッチを取り囲む数台(場合によっては十数台)のカメラによって撮影されたスロー映像が、プレーの直後から繰り返し再生され、それをスタジアム内も含めて全世界の人たちが見ているのだ。

そして、世界中の人たちの中で、審判員だけはその映像を見てはいけないというのだ!

そんな仕事をしている人たちの“正義感”というのは、やはり僕たち凡人とは違うレベルにあるようだ。あの、日産スタジアムで起こった、ゴール判定巡るトラブルについての感想である。

J1第19節、横浜F・マリノス対浦和レッズの試合の後半14分、横浜の遠藤渓太が左から入れたクロスが横浜F・マリノスの仲川輝人に当たってゴールに入ったのだが、主審や副審の位置からはプレーが陰になっていたため、最後にボールに触れたのが仲川だったのか、浦和のDF宇賀神友弥だったのか見極めることができなかったのだ。審判団はゴールの判定を下した。ところが、第4審判からゴールを決めたのが仲川だったという情報が入ったため、一旦は判定を覆してゴールを取り消した。ところが、第4審判自身がそのプレーを見ていたわけではなく、仲川が決めたとうのが映像を見た運営サイドからの情報だったため、「外部からの情報に基づいて判断してはいけない」として、再び判定を覆して(誤審となることを覚悟のうえで)ゴールを認めたのだという。

なんと、“禁欲的”な人たちなのだろう……。

たしかに、競技規則によれば審判員は外からの情報を判定の参考にすることは許されない。審判員自身が見ることができた情報だけで判断しなければならないことになっているのだ。

同じくJ1リーグ第12節、浦和レッズと湘南ベルマーレの試合での湘南の杉岡大暉のゴールが認められなかった場面もそうだ。主審も副審も、ボールがゴールに入ったことを見ることができなかった。「だから、ゴールは認められない」というのだ。

もちろん、競技規則の通りに判定しているのだから問題はない。しかし「そこまで頑なにならなくてもいいじゃないか」と僕なんかはついつい思ってしまう。

杉岡のゴールの場面、スタジアムにいる人たちも、映像を見ていた人たちもほぼすべての人がボールがゴールに入ったのを見ていたのだ。そして、プレーが止まった瞬間の両チームの選手のリアクションなどを考えれば、審判団だって「本当はボールがゴールに入っていたのだろう」と思ったはずだ。それなら、第4審判が(そっと)『ダゾーン』の映像でも覗いてみたっていいのではないか。でなければ、浦和のGKの西川周作に訊いてみたらどうなのだろう。相手チームのGKが認めるのなら、ゴールと判定を下してもいいだろう(いくらなんでも、あの場面で「いや、入っていなかった」と言い張るだけの度胸がある日本人選手はいないだろう)。

日産スタジアムの判定だって、もちろん外からの情報を参考にするのは禁じ手である。だが、あそこで審判団が最終的にオフサイドだと判定した時に、「外部の情報を使っただろう!」などと目くじらを立てる人はそんなにいないだろう(「宇賀神に当たっていても、やはりオフサイドだったのでは」という話は、また別の話だ)。

2006年のドイツ・ワールドカップの決勝戦でフランスのジネディーヌ・ジダンがイタリアのDFマテオ・マテラッツィに頭突きを食らわせて退場になった場面。かなりの間があってから主審が笛を吹いて、ジダンにレッドカードを突き付けた。だれが、その瞬間を見ていたのか……。一般的に「あの場面では、おそらく誰かが映像を見ていて、それを主審に伝えたのだろう」と言われている(証拠はない噂話だ)。

そんな“前例”を考えると、日本の審判のみなさんたちの“禁欲的”な姿には敬意を表すしかない。

もちろん、正式なVARやゴールライン・テクノロジーではないのだから、微妙な判定で使用することはできないにしても、仲川のゴールや杉岡のゴールのように、映像を一目見ればすぐに分かるような状況なら、テレビや『ダゾーン』の中継映像を(密かに?)参考にしたっていいのではないだろうか。

「判定はあくまでも人間の目だけで行う」。これは建前だ。その建前にどこまでこだわるかという話だ。

VARが採用されている場合だったら、たとえばオフサイド判定などは完全にVARの側に権限を移してしまえばいい。ピッチ上にいる審判団は「ハンドが意図的だったかどうか」とか、選手が倒れた場面で、それが「シミュレーションだったのか、本当に反則だったのか」といった、より人間的な、心理的な部分の判定を担当すればいい。

VARの権限を拡大し、VARだけで最終決定ができることを増やしていけば、VARが発動されて主審がオンフィールド・レビューで長い時間を空費することも少なくできる。

2019/20シーズンから(Jリーグなど国内の試合では8月から)、いよいよ新ルールが適用される。ペナルティーエリア内でのFKは外に蹴りださなくてもいいとか、レフェリーに当たってそれがプレーに影響があった場合はドロップボールにするなど、より常識に沿った改正が多い。かつて、キックオフは前方に蹴らなければならなかったが、今は後方に戻してもよくなった。さらに昔、ゴールキックはボールが出た方のサイドから行わなければならなかったのだが、今ではゴールエリア内ならどこから蹴っても良くなった。

いずれも、1世紀半ほど前にサッカーができた頃の昔のルールの名残みたいな形式的な規則をなくして、現代のサッカーをスピードアップしようという趣旨の改正だ。

それなら、ピッチ上の判定はすべて審判団だけで行い、主審がすべてを決定するという、これも100年以上前に作られた原則になどこだわらずに、もっと柔軟に現代的なテクノロジーを取り入れていけばいいのではないのだろうか。

まあ、いまだにVARの導入に反対している人たちもいるようだから、「もっと気軽に映像を見ちゃえ!」なんていう僕の意見に耳を貸してくれる人はほとんどいないだろうけれど……。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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