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2020年ワールドカップに向けてのアジア2次予選(兼2023年アジアカップ予選)の組分けが決まり、日本はグループFでキルギス、タジキスタン、ミャンマー、モンゴルと対戦することとなった。
5チームずつの8グループに分かれて2次予選では1位の8チームと2位のうち成績上位の4チーム、合計12チームが最終予選に進む(ただし、カタールは開催国としてすでに出場が決まっているので、カタールがグループEの1位に入った場合は、2位のうち5番目のチームまで最終予選に進める)。
まだ、上位と下位の差が大きい2次予選だが、グループ2位では予選敗退となってしまう危険があるので、上位国にとっても難しい戦いとなる(取りこぼしは絶対に避けなければならないし、2位になった場合を考えて下位相手に大量得点を奪う必要もある)。
日本にとってはきわめて楽な組分けとなった。
組分け抽選は、FIFAランキングに基づいて8チームずつ、5つのポットに分けて行われた。つまり、たとえば前回ロシア大会に出場した韓国、オーストラリア、イラン、サウジアラビアのような強豪との対戦する可能性はもともとなかったが、ポット2にはイラク、ウズベキスタン、シリアといった強豪国や心境著しいベトナムといった国も入っていたのだ(実際、ロシア大会の2次予選では日本はシリアと対戦して苦しめられている)。
ところが、ポット2からグループFに入ったのはキルギスだったのだ。キルギスはこのところ力を付けてきているとはいえ、ポット2の中で下から3番目のFIFAランキング95位。ポット2の最上位(FIFAランキング77位のイラクとはかなりの実力差がある)。
また、注目すべきはグループFには中東勢が入らなかったことだ。ポット2には中東勢が5つも入っていたことを考えると、中東勢を避けられたのはかなりの幸運だ。これまで、中東勢にはかなり苦しんだ経験もあるし、中東遠征は移動距離が長いのでできるだけ避けたいところだ。
組分けの結果を知らせる日本サッカー教会(JFA)のリリースには、同組に入った各国との日本代表の過去の対戦成績も記されていた。
キルギスとの対戦はこれまでに1試合のみ。2020年にホーム(豊田スタジアム)で対戦した親善試合で、日本が4対0で圧勝している。タジキスタンとはブラジル・ワールドカップ予選で対戦して、ホームでは8対0、アウェーでは4対0とやはり日本が圧勝している。
ミャンマーとの対戦成績は、5勝5分2敗となっているが、日本がミャンマー(かつてのビルマ)に苦戦していたのは遠い昔の話だ。イギリスの植民地インドの一部だったビルマでは、イギリス人の影響でサッカーが盛んで、1980年頃まではアジアのサッカー強国だったのだ。なにしろ、1920年代にはビルマ人留学生のチョウディンが日本全国の旧制中学などでサッカーを教えたことで日本のサッカーの強化が始まったという歴史もある。それまでは、いい加減にボールを蹴っていただけの日本人に、インステップキック、インサイドキックといった技術を教え、戦術を伝えたのがチョウディンだったのだ。
1980年頃までは、ビルマとはアジア大会やムルデカ大会(マレーシア)で対戦することも多く、かなりの強敵だった。ただ、その後、軍事政権の下で国際的に孤立したことなどですっかり弱体化。最近になって、ようやく復活の兆しが見えてきたところだ。
このように、チーム力を考えれば、対戦国すべてに対して日本が圧倒的な優位にあり、8戦全勝での突破も十分にありうる。
ありがたいのは、中東勢との対戦が避けられたことによって長距離移動が少なくなったことだ。とくに、日本やヨーロッパが秋から冬を迎える10月、11月に中東に遠征すると、暑さに苦しめられることがある。
キルギス、タジキスタン、モンゴルの3カ国は気象条件が似ているので、コンディショニングもやりやすくなったのではないだろうか。いずれもユーラシア大陸の中央に位置する内陸国で大陸性気候。乾燥と寒さ対策が必要となるだろう。また、海抜1000メートル前後なので、高地対策もひつようになるという点も共通している。タジキスタン遠征はすでに経験しているし、その他中央アジアへは何度も経験している。当時のデータを使えば、コンディショニングも順調に進められるだろう。
東南アジアはミャンマー遠征の1回だけだ。そのミャンマーとのアウェー戦が9月10日の第2節に組まれたのも幸運だった。9月であれば、国内組も、海外組も体が暑さに慣れている状態なので短期間で気候への馴化ができる。
初戦というのはどんな大会でも、またどんな対戦相手でも嫌なものだが、日本は第1節に試合がなく、9月5日に親善試合(対戦国未定、カシマ・サッカースタジアム)で調整してから現地に乗り込むことができるのもありがたい。ロシア大会予選の時に何度も経験したように、海外組が帰国して集合した直後の木曜日の試合では苦しい試合が多くなるだろう。その点でも、第1節に試合がなく、初戦のミャンマー戦が火曜日となったのはありがたい。
さて、これだけ有利な条件の大会となると、この8試合を代表強化のためにどのように使うのかが問題となる。
この程度の相手に最強メンバーを組んで戦っても、代表強化のためにはあまり意味はない。もちろん、重要な試合(たとえば、初戦のミャンマー戦)では最強メンバーで確実に勝点3を取る必要があるだろうが、試合によってはコンディションを考慮して海外組の招集を免除して国内組だけで戦ってもいい。あるいは、東京オリンピックを目指す22歳以下の選手だけで戦う試合も作るべきだろう。U22代表の親善試合のために久保建英(レアル・マドリード)を呼ぶことはできないかもしれないが、ワールドカップ予選であればすべての選手の招集が可能だ。
あるいは、中央アジアでアウェー戦なら、ヨーロッパからの移動距離は日本までの移動と比べて半分程度になるので、中央アジアでのアウェーは海外組中心、ホームゲームは国内組中心といった戦い方も考えられる。
ハリルホジッチ監督もザッケローニ監督も、どんな相手にも最強チームを組もうとして、かえってコンディション調整がうまくいかずに苦しんでいた。今回は、オリンピック代表も含めて大人数の代表候補を手元に置いているだけに、森保一監督には将来のチーム作りを考えた大胆な選手起用を期待したい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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