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ヨーロッパのシーズン中は、プレミアリーグやUEFAチャンピオンズリーグなどのゲーム観戦で睡眠不足が日常化する。5月にシーズンが終了すると、やっとその睡眠不足が解消し、健康的な生活を取り戻すことができる(はずだった)。
ところが、今年は6月になってもずっと眠れない日々が続いた。
FIFA U-20 ワールドカップをはじめ、FIFA 女子 ワールドカップやコパ・アメリカなど各カテゴリーの日本代表が出場する国際大会が同時並行的に開催されていたからだ。
僕は、他の大会に先駆けて開幕したU-20 ワールドカップを観戦するために現地ポーランドに赴いた。ポーランドという国が僕にとって“大好きな国”の一つだったからだ。各都市の風景は美しく、人々も親切。食べ物もおいしく、物価も安い。
そして、「U-20 ワールドカップのグループリーグの期間(つまり、5月下旬)には他の大会がまだ始まっていない」というのもポーランド行きを選択した理由だった。
グループリーグを見てから5月末に帰国すれば、その後は夜中にテレビでU-20 ワールドカップの決勝トーナメントを見たり、他の大会(トゥーロン国際、女子ワールドカップ、コパ・アメリカ……)を観戦できる。しかし、この間Jリーグなど国内の大会も中断しないから、相当に忙しい1か月となったというわけだ。
しかし、後から考えると、ポーランドでU-20 ワールドカップのグループリーグを観戦したのはとても賢い選択だった。
ポーランドで戦ったU-20日本代表は、ラウンド16で韓国に負けてしまったものの、とても良い内容の試合をしていた。初戦のエクアドル戦のように先制を許してもまったく慌てず、次のメキシコ戦のように相手が予想外の出方をしてきても、すぐに修正して対処。リードしてもバランスを崩すことなく、攻め込まれる時間帯にはしっかりと受け止め、攻撃に移る機会を窺い続ける。つまり、状況判断が実に見事だったのだ。
日本にはうまい選手はこれまでにも何人もいた。だが、ゲーム運びの拙さで、その力を十分に発揮できないことが多かったのだ。外国人指導者からは「日本人はリードするとかえって慌ててしまう」だとか「守備の文化がない」だとか、言いたい放題のことを言われていた。ところが、U-20代表の選手たちは「大人のサッカー」をしていたのである。
「今の若い選手たちは、これまでの世代とは違う」という印象を抱いて、僕はポーランドから帰国した。だから、その後の各年代別代表の試合を映像で見ていても、ピッチの上で何が起きているのかがよく理解できたのだ。
トゥーロン国際に出場したU-22日本代表も、チリ戦では相手の守備のやり方を見透かしたようなプレーをして6対1で大勝。個人能力の高いメキシコ(準決勝)やブラジル(決勝)相手では、まずしっかりと守備から入って、少ないチャンスを生かして追い着いて引き分けに持ち込んだ(準決勝はPK勝ち、決勝はPK負け)。U22代表でもやはり試合運びの上手さが目に付いたのだ。だが、それも、ポーランドでU20代表の試合を見てきたからこそ、すぐに何が起きているのか理解できたわけだ。
同じく、事実上は「U22代表+オーバーエイジ」で出場したコパ・アメリカでも、初戦のチリ戦こそ腰が引けた戦いになってしまったが(日本t時差12時間の移動の後、中4日調整だけではまだ試合をするのは無理だったという事情もある)、その後の2試合は南米のフル代表と渡り合って見せてくれた。エクアドルと引き分けて準々決勝進出を逃した時には、選手たちも口惜しさを感じたはずだし、見ている方も思わず決定力不足を嘆いてしまった。だが、日本のU22代表が南米の本気モードのフル代表相手に互角に渡り合ったのだから、これは称賛すべきだろう。
コパ・アメリカを見ても「若い選手たちはこれまでとは違う」という印象は変わらなかった。
試合の目的とは相手より1点でも多くの得点を決めて勝利することだ。その目的から逆算して、置かれた状況の中でどういうプレーを選択すべきなのか。得点経過や相手の戦術。時間帯、自分たちの疲労度などの状況を考えて最適の選択ができる。「自分たちのサッカー」などにこだわらずに、それができるのが最近の若い選手たちなのだ。
Jリーグ発足から25年。日本代表がワールドカップで世界のトップと戦うようになってから20年が経過した。様々な世代の選手たちが様々な経験が積み重ねてきたのだ。それによって日本の選手たちも、いわゆる「サッカーの常識」といったものを身に着けてきたのだ。日本にようやくサッカー文化が根付き始めたと言ってもいい。
「20年」という言葉が、一つのキーワードになるような気がする。
長い間、日本代表の試合を見続けてきたが、今年の5、6月のようにワクワクする気持ちになったのは久しぶりのことだ。20年ぶりくらいだろうか。考えてみると、そんなワクワク体験はどうやら20年周期で訪れるようなのだ。
ちょうど20年前の1999年。日本が初めてコパ・アメリカに出場した年だが、トルシエ監督の下でU20日本代表が当時のワールドユース選手権(今のU20ワールドカップ)で準優勝し、その後シドニー五輪でのベスト8、2002年ワールドカップでのベスト16につながった。「黄金世代」は、その後ずっと日本のサッカーを牽引してくれた。
その20年前というと、1980年末に香港であったスペイン・ワールドカップ予選で金田喜稔や木村和司、風間八宏、戸塚哲也などの若手テクニシャンを揃えた日本代表が中国や北朝鮮相手にポゼッションサッカーをやってくれた時だ。その時の日本代表は、それまでの蹴って走るだけのチームとは全く違った。
さらに、その20年前といえば1960年代。日本代表は東京五輪でアルゼンチンを破り、そしてメキシコ五輪で銅メダルを獲得した。
様々な経験を蓄積、吸収して、20年ほどが経過することによって日本全体のレベルが上がり、次のステージに進んできた。そんな仮説も成り立つのではないか。
5月から6月にかけて各年別代表のプレーを見続けて、僕は日本のサッカーの将来に光明を見たような気がしたのだ。
そういえば、10月にブラジルで開幕するU17ワールドカップに参加するU17日本代表も6月にアルゼンチンに遠征し、U17アルゼンチン代表になんと9対0で圧勝している。もちろん、相手はフルメンバーでなかったようだが、それにしてもアウェーで9対0とは! 年代別代表の最後を飾ってワールドカップに挑むU17代表はどんなチームなのか、最後のお楽しみである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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